失ってから気付くもの
私は八神、八神侑希。将来は医者になりたいって思ってる。その為に日々勉強している。
「おはよう、青斗」
「お〜ぅ」
このやる気のなさそうな返事をしたのは幼馴染の杯青斗。
「ちゃんとご飯食べて睡眠取らなきゃダメだよ」
「うっせぇ」
いつも青斗はこんな感じだ。
頭もいいし顔もいいのに。しかもモテるし、何でこんな性格になっちゃったんだか。
「はぁ、ちゃんと授業受けなよ」
「うっせぇ」
もっかいため息を着くとそこに青斗の担任の先生が通りがかった。
「おはようございます、先生」
「おはよう、八神さん」
先生はとても温厚な人だ。
「そうだ八神さん、放課後そこの杯君を職員室まで連れてきてくれないかしら」
「はい、分かりました」
こういうこともよく頼まれる。
「青斗、また学校サボってるの?」
振り向いたら青斗はいなかった。
「青斗ー!!!」
「相変わらず杯君好きだね」
「おはよう、別に好きじゃないよ」
この子は前の席の氷野佳菜。1年の時からの友達だ。
「おはよう、侑希と氷野さん」
「おはよ鏡夜」
「おはよう、祠堂君」
鏡夜は身長でかくて体格よくて顔も良くて格闘技をやっている。
「そうだ、青斗見つけたら捕まえといて」
「分かった、職員室に持ってけばいいのか?」
「うん、ありがとう」
私たちはみんな三年生だ。青斗に関しては出席日数足りずに留年してるけど。
「行こ、佳菜」
そして佳菜と一緒に教室に行く。教室は何人かもう登校していた。
「佳菜、瓜生君来てないね」
「うっさい、あいつがいようがいまいがどうでもいいし」
佳菜にとって瓜生君は幼馴染だ。
瓜生君カッコイイと思うんだけどなぁ。
「いたいた、八神、杯知らないか?」
「?いえ知らないです」
また何かやらかしたのかな。
「生活指導室に来いって言ったのに来ないんだよ」
「私も探します、見つけたら連れて行きます」
「侑希も大変だね」
「もう慣れたよ」
昔からこんなだ。小学生の頃からよく抜け出して、それを先生と私と鏡夜が追いかけて。
そんな日ももうすぐ終わるのか。大学はみんな別の学校に行くだろうし。
そんなことを探しながら考える。まあ探すと言っても屋上をまず見に行くけど。
屋上に行くと青斗が転がって気持ちよさそうに寝ていた。
「だと思った」
私は青斗の隣に座り空を見る。
「青斗、私はここが好き」
「俺はお前が好きだ、侑希」
えっ、何私、疲れてるのかな?
「反応しろよ、侑希」
「えっと、青斗」
確かに青斗は頭が良くてイケメンでモテてって言ってもこんな冗談良くないと思うんだ。
「何ふざけてんの青斗、生活指導室行くよ」
「ふざけてねえんだけどな」
今日は大人しく着いてきてくれた。どうやら本当に冗談ではなかったようだ。
「先生、連れてきました」
「ありがとう、八神」
「ちっ」
青斗が舌打ちしたのが聞こえた。そして私は生活指導室を出た。
出た瞬間に崩れ落ちた。
青斗、本気なのかな。
昔、青斗は私のことを嫌いと言った。その理由は勉強ばっかで構ってくれないとかそんな可愛い理由だった気がする。その時、私はお医者さんになりたいって言ったらじゃあ俺は看護師になるとか言った。私はその時から惹かれ始めていたのかもしれない。
と、とりあえず教室行かなきゃ。
私は立ち上がり教室に向かう。教室に着くといろいろ挨拶を交わし席に座る。
「見つかった?」
「うん」
「何かあったでしょ」
「別に」
「まあ深入りする気はないよ」
やっぱり2年も一緒にいれば分かるのかな。
キーンコーンカーンコーン
「ほらー、席に着けー」
そうして授業が始まる。終わった頃には何をやったかなんて覚えていなかった。
そうだ、青斗を職員室に連れてかなきゃ。
また青斗を探しに行く。
青斗、どこ。
私は自然と屋上に行った。屋上には青斗が立っていた。
「あっ......青斗!!」
青斗が振り返る。いつもより何倍もカッコよかった。いつもよりイケメンだった。いつもより悲しそうだった。いつもより、いつもよりいつもより青斗君だった。
「よう、侑希」
「何してるの?」
風が吹く度青斗の髪が揺れる。
「黄昏てたわ」
子供っぽい笑顔を浮かべてもう一度空を見る。
「俺らはどこにいても同じ空を見てる」
「だから、どうしたの」
まるで会えなくなるみたいな言い方しないで。
「俺はお前が大好きだ」
「私もだよ!」
だからお願い、これ以上何も言わないで。
「じゃあな、侑希」
そのまま青斗は校舎内に入った。私は泣き崩れた。
その後確認したところ青斗は職員室にちゃんと来たらしい。
ただ次の日に青斗は転校したと聞かされた。
「あ、おはよう鏡夜」
「おはよう侑希」
「青斗いなくなっちゃったね」
「ああ」
「青斗ぉ.....」
私は青斗のことが好きだった。いなくなってからちゃんと気付いた。
「これ、青斗から侑希に渡してくれって」
それは青斗がいつも付けていたペンダントだった。
「青斗が、ありがとう」
嬉しい、とんでもなく嬉しい。
「青斗」
それから私は段々いつも通りになっていった。大学受験も成功した。本番はここからだが。ペンダントを御守りとしていつも持っていた。
そして何事もなく卒業式。
青斗と一緒に迎えたかったな。
私の胸に空いた空白は埋まることなく卒業し、進学した。