真相〈1〉
【3】真相
1
半年後
「ぴぴぴぴぴぴぴぴぴ」
電子音が部屋に鳴り響く
悠希は見えない時計を手探りで探し出し、叩くようにしてとめた
「ふわー」
大きなあくびを一つし、立ち上がった
部屋はいつものように散らかっている
ちょうど美香がきてから3日たったあとだからだ
トーストを焼いている間悠希はテレビを見ていた
「11月24日水曜日のニュースです〜」
きづけば季節は冬だ
あっという間に今年も終わる
悠希はお正月に帰郷する予定だった
しばらく休みが取れなかったのだが、さすがにお正月は会社も休みなのでちょうどいいと思い実家へ帰ることにした
その時はまだ美香は連れて行かないことにした
やはりまだなんとなく恥ずかしい
悠希は下に二人兄弟がいる
一人は高校生
もう一人はまだ中学生だ
かなり年が離れてはいるが昔から仲は良かった
でもやはり恥ずかしさがある
昔一度だけ家に美香が遊びに来た事がある
しかし美香が帰った後に弟達にかなり冷やかされた思い出があるのだ
それが嫌なので今回は連れて行かないことにした
「やばいっ8時だ」
悠希はとっさにトーストを食べ会社へ向かった
会社
「おはようございます、部長」
「うむ、おはよう」
3ヶ月前に部長が変わったのだ
前いた部長は昇進し、幹部のほうへいどうとなった
今の部長は典型的な頑固部長で、規律にすごくきびしい
だから今は簡単に休みたいなどとは言えなくなったし、挨拶も自分から言うようになった
「立石君、明後日の会議だがしっかり資料は作ったね?」
そう、あさってはとても大事な会議あるのだ
今年一番の製品といわれている
悠希たちのチームは実績を重ね、ついに重要な役割までも任せられるようになった
悠希はもちろんできています、とうそをつき自分のデスクへ駆け込んだ
正直言ってまだできていない
最近他の仕事も入っていて資料を作る時間がなかったのだ
早速とりかかろうとパソコンのスイッチを入れる
「なにかね、まさかできていないのかね?」
後ろから声をかけられ悠希は動きが固まった
「いえ、できております・・・」
「・・・くっくっく・・・」
なぜか笑いをこらえるような声が聞こえる
・・・まさか
悠希は振り向いた
「なんだよー要かよ!脅かすなよ」
要は芝居をしていたのだ
本気で部長だと思っていたので、すごくホッとしている
「ごめんごめん、でも早くやんないとマジでやばいんじゃないの?」
そこは当たりだ
明日には部長に一通り目を通してもらわなければならない
ここでやり直しといわれれば、明日は残業確実である
「わかってるよ、今からやるんだよ」
悠希はキーボードにパスワードを打ち込み、仕事をはじめようとした
要は頑張れ、と一言声をかけて自分のデスクへ戻っていった
「他人事だからなぁ・・・」
ため息をひとつつき、悠希は仕事に取りかかった
食堂
「ずるずる」
うどんをすする音がむなしく響き渡る
悠希は広い食堂で、一人で食事をしていた
仕事が長引き、結局3時に一段落した
他の人は当然仕事をやっている
こんなに静かな食堂でご飯を食べるのは初めてだ
悠希は目をこすった
「あーあ・・・疲れた」
そういえば最近の日常にたのしさを感じない
毎日同じ事の繰り返しに正直あきている
でもほかにすることもない
やっぱり美香といる時が一番楽しかった
それが今の悠希の生きがいだった
もう悠希はあの出来事を忘れていた
そう・・・あの・・・
悠希の平穏な生活は終わりを迎えていた
そう・・・ここまでで
悠希の運命の針が12時を指した
2
ここまでで仕事が終わっているかと思いきや、まだ山積みのようにあった
しかしこれは来週が期限なのであせることはない
少し息抜きをしようとインターネットをクリックした
特にやりたい事はない
ただ、前からはまりはじめた掲示板での書き込み
多くの人が意見を交流できる場であった
とてもいい人がいるので
簡単に友達を作ることができる
ちょうど1ヶ月前にこのサイトを知った
それからはほぼ毎日、その掲示板をのぞきに行くようになり
徐々にはまっていった
今日はまだ仕事中だが、そのサイトに行く事にした
会社のパソコンにもお気に入りに入れておいてあるので一発でそのサイトへいける
「カチッ」
たくさんのジャンルがある
中には怪しいタイトルも混ざっている
もちろん青年用のタイトルだってある
ここは何でも自由のサイトである
悠希は特に入りたい掲示板がないので、その辺のタイトルをみる事にした
「・・・秋葉系・・・美少女・・・ハレンチ」
「なんだよここはこんなんばっかかよ」
あれこれ見ているうちにもう1時間が経過している
そろそろ止めようと右上にある×ボタンを押そうとしたときだった
「・・・・」
悠希はおもわず言葉を失った
画面の中央から少し下のほうに衝撃的なタイトルがあった
「・・5月・・・9日・・・」
たった4文字のタイトル
悠希の頭の中にはあの時のことが鮮明に思い出された
あの不可解な日曜日
記憶のない日曜日
いやしかしこの掲示板がその事を書いているとは限らない
悠希はうらぎられる時のために慎重になった
再びマウスを握りなおしそのタイトルへ近づける
これがもしあの時のことだったらどうする?
しかし見ずにはいられない
悠希は恐る恐るクリックした
「カチッ」
・・・
そこには一人の人物だけがコメントをしている
恐いが悠希は勇気をもってページをスクロールする
『はじめまして、初書き込みさせてもらいます。
このスレは真剣な話なので中傷などはやめてください
それで本題なのですが、私は5月9日に不思議な体験をしました
とはいったものの記憶があるわけではありません』
「記憶が・・・ない・・・ま、まさか?!」
悠希は驚きが隠せない
やはりほかにもいたんだ
スクロールを続ける・・・
『こんなこといっても信じてもらえるとは思っていません
ただ、このことに何か気づく方がいらっしゃれば連絡がほしいです
詳しく意味を伝えなくても、気づいている方なら分かっていると思います。
おねがいします
連絡待っています』
その下にはこのひとのメールアドレスだと思われるものが掲載してある
しかしそのアドレスにメールを送る勇気がない
悠希は肩を落とした
「なんでだ、なんで今ごろ・・・」
デスクをおもいっきり叩いた
その音にまわりが驚いたのか立ち上がってこちらをみてくる
「どうした?大丈夫か・・・顔色悪いぞ」
「いえ・・・大丈夫です、すいません」
おれはいったいどうしたらいい?
このことを伝えたほうがいいのか・・・
でももうこの事にはあまり関わりたくはなかった
悠希の頭の中には再び、5月9日でいっぱいになった
太陽が再び雲で覆われ始めた
3
悠希はまだ迷いつづけていた
あの人物にあったほうがいいんだろうか?
しかしまた仕事に集中できなくなるかもしれない
「それではこれで会議を終わります」
なんとか重要な会議が終わり、悠希たちのチームは一段落した
悠希が作っていた資料は以外にも一発OK
今日はもう暇になった
連絡するならば今日がベストだろう
とりあえず悠希は自分のデスクへもどることにした
まだあの謎は解けていない
もしあの人物にあえば謎が解けるかもしれない
悠希は連絡しようと少しずつ思い始めた
パソコンのスイッチを入れる
「おれにできること・・・」
そう自分にしかできない
だからこそ真相をつかむ
悠希は決意したのだ
いつものサイトへジャンプする
昨日見たタイトル・・・「5月9日」
クリックを押した
・・・なぜか悠希の手が止まった
なぜだろう・・・
なにかすごく嫌な予感がしてたまらない
だがここまで来た以上後戻りもできない
悠希はそのメールアドレスを携帯に登録し、早速一通メールを送った
『はじめまして、会社員です。
掲示板拝見させていただきました
はじめはとてもびっくりしました
私と同じ体験をしている人がいたのか・・・と
私も記憶が薄れている人の一人です。
とりあえず返信ください
待っています。』
後は返信がくるのを待つだけだ
しかし見てくれるかどうか心配だった
最後にコメントを残しているのが10月10日
それからはほぼ2月ほどたっている
ただ見てくれている
そう信じるしかなかった
翌日
いつものうるさい電子音に起こされる事はなく、悠希は10時に起きた
久々の休日だ
ここまで土曜日も仕事があった
そして日曜日はかならず美香と会っていたので、体を休める時間がなかった
ふと携帯が目に入ったので、期待はせず受信ボックスを開いた
「き、きてる!!」
意外にも一日でメールがきている
受信日時は・・・0時13分
『メール見ました
正直私はあきらめようかと思いました
しかしようやく一人仲間がいました
とてもうれしいです
とにかく一度お会いできませんか?』
悠希はすぐに内容を読むと、すぐに返事を返した
悠希も一刻も早く会いたかったので明日はどうか?と尋ねる分を送った
なんと・・・そのあと5分後に返事が来た
やはり向こうの人間もこの事件が解決するかもしれない
そうおもって急いでいるのではないか?
『はい!私はかまいません
それでは〜・・・』
結局、明日の2時にある喫茶店で待ち合わせることにした
どうやら相手も東京に住んでいるようだ
ついに謎が解けるかもしれない
そうおもうと明日が待ち遠しくて仕方がなかった
4
悠希はすでに喫茶店にいた
予定より30分も早く到着したのだ
しかし早く来たのはいいものの相手の顔がわからない
そこが不安だった
そして約束の2時になった
その時だった
「カランカラン、いらっしゃいませー」
若い女の人が店内に入ってきた
・・・あれか?
確かにメールだけだと、男か女かは判断できない
悠希は影からその女の人を見ていることにした
・・・どうやらあれなのかもしれない
悠希はおもいきって声をかけてみようとした
「あ、あのー」
その女の人はこちらに気づき近づいてきた
すらっとした体系・・・かなり美人である
「もしかしてメールの・・・?」
いまさら気づいたのだが、名前を聞いていなかった
その女の人はどうやら理解したようで、笑顔をうかべた
「あなたがメールのかたですか。はじめまして」
深々と頭を下げてきたので、悠希もつられて頭を下げた
礼儀が正しい人っぽいので悠希は安心した
「こちらこそ・・・どうぞ座ってくださいよ」
手でこちらにどうぞ、というかんじで座らせた
「あのーお名前教えてもらっていいでしょうか?」
相手の女性も、あ、そうですねというかんじだ
「渡辺 恵子って言います。失礼ですがあなたは?」
「立石 悠希です」
そういってもう一度頭を下げた
しかしここからが本題だ
まずは相手の話から聞こう
悠希は早速尋ねた
「あの・・・それで、本題なんですが」
「そうですね、あのまずひとついいですか?」
真剣なまなざしである
悠希はゆっくりうなずいた
「ほんとうに5月9日は覚えてらっしゃらないのでしょうか?」
「はい、ほんとうです。私の推測からいくとその日はどうやら大事な約束が合ったようで、しかしその約束がいまいち覚えてないんです。周りの人にもたくさんききましたが覚えていないという事に関心がなく、全く相手にされませんでした」
そう言ったあと悠希は注文しておいたミルクティーを一口流し込んだ
「・・・まったく一緒です、どうやらほんとうのようですね。びっくりしました」
やはりこの女性も同じ体験をしているのか
しかしなぜ自分たちはうっすら記憶があるのだろうか?
疑問が生まれた
「私もです、ですがこれからどうすればいいんでしょうか?真相が知りたいです」
そう、真相がしりたいのだ
悠希は少し体を起こして、渡辺を見た
「実はひとつだけ、ある噂を聞いたんです・・・」
「・・・うわさ?」
悠希は真剣な顔に変わる
渡辺は首を縦に振る
「ええ、この事件がおきてから4ヶ月ほどたったぐらいのときです、私はインターネットをやっていました、もしかしたら以前にも同じような事があったのではないだろうか?そうおもっていろいろ調べてたんです。」
そんなこと悠希は微塵も思わなかった
以前にもあったのか?
悠希はつばを飲み込んだ
「しかし、それはありませんでした。しかしひとつだけ気になる記事を見つけました」
「気になる記事?」
「はい、2006年4月4日の朝日新聞にのった記事です」
新聞に掲載されたことが重要なのか?
半信半疑の悠希は眉間にしわを寄せながら聞いていた
「ある研究所で記憶を消す装置が開発された・・・と」
記憶を消す・・・?
そんな馬鹿な話あるわけがない
さすがの悠希もその話には笑ってしまった
「わかっています私だって信じているわけではありません!ただ気になるのが、その翌日の新聞で、研究所の話は捏造だった・・・そう書かれていたんです」
「それは捏造ではないですか?当然でしょう・・・記憶を消す装置なんてあるわけがない!」
そうだ
そんなのありえるわけがない
いくら自分たちの記憶がないからって・・・そこまで信じるほど馬鹿ではない
「でもおかしいとおもいませんか?そんな記事でたらめで載せるとは思いません。これはなんらかの陰謀だとしたら?」
「・・・何かの陰謀?ちょっとそれは考えすぎなのでは?」
その言葉に渡辺はがっかりしているようだった
だが悠希は悪い事を言った
そんなことは考えてはいない
そんな陰謀など、あるわけがない
「私は・・・その研究所へ行ってみようとおもっています」
この女はいったい何を考えているのだ
初対面の相手にここまで不快な思いをしたのは初めてだ
今回は期待も大きかっただけショックが大きかった
それだけに少しこの女性にあたりすぎたのかもしれない
「そうですか・・・いつ?」
迷わず渡辺は答えた
「来週の土曜日に」
「そうですか、私は仕事があるのでその日はちょっと・・・」
はっきりいってこんなことに付き合ってはいられない
自分ひとりで調べたほうがまだましだ
そう思っていた
その後渡辺と別れた
一応都合がついたら連絡する、そう建前上言っておいた
しかし今の悠希にいくつもりなどない
無駄な一日だった・・・
喪失感が悠希を襲った
5
金曜日
いつもどおり悠希はパソコンに向かって仕事をしていた
もう後少しで定時だ
今日は少し仕事が残っているので残業していくことに決めた
「おつかれさまです」
「そんじゃあな悠希!がんばれよ」
次々と社員が帰宅していく
要は要領がいいので必ず定時で帰っている
うらやましい限りだ
渡辺は明日ほんとうにいくつもりなのだろうか?
なぜか急に心配になってきた
悠希は過去の朝日新聞を調べる事にした
「2006年4月4日・・・」
確かこの日だ
悠希は検索した
意外にもたくさんある
その中からひとつ選び開いてみた
『女児連続殺人事件犯人逮捕』
見出しである
ほかの記事もみてみるが研究所などどこにあるのかわからない
「いったいどこにあるんだ・・・あ、あった!」
いつの間にか悠希は真剣になっていた
なんであんな女のために・・・
そうおもったが今はそんなことはどうでもいい
とりあえずその記事が気になった
しかし思ったより記事は大きくない
むしろはじっこに小さく書いてある
『ついに人類の夢乗せて・・・』
そんな見出しで始まっていた
『ついに世界初!記憶装置 xx−y22』
どうやらその装置のよび名だろうか?
ほんとうにその下に研究所の住所が書いてあった
しかしこんなことをしたら人が集まるんじゃないのか?
・・・そうかだから人が集まりすぎて捏造だとばれたんだ
間違いない
しかし・・・なぜか胸騒ぎが止まらない
いったいなんなんだ?
何かが起きるという暗示か?
悠希は渡辺にメールを送った