空白〈2〉
6
翌週
まだ7時だというのに悠希はすでに起床していた
ベッドはいつになく散らかっておらず、さらに洗濯物など一つもでていない
確実に生活リズムは狂っているが、悠希はそれを感じてはいない
あれからいろいろ調べてみたのだが
分かったことがいくつもあった
まずひとつは身の周りの人だけではなくほとんど・・・いや全員が5月9日、日曜日のことは覚えてはいない
そう誰一人・・・
それともうひとつ、土曜日にいったレストランはどうやら次の日も予約をしていたらしい
なぜかは全くわからない
そしていくつかの疑問も生まれた
一つはなぜみんな日曜日の事に関わろうとしないのか・・・
もう一つは根本的に考えて、なぜ全員日曜日の記憶がないのか
謎だらけである
そしてなぜ自分だけ日曜日の事について何かを感じ取っているのか?
それにはなにか真相があるのではないか
そう思わずにはいられなかった
しかしかといってこれからどうしていいのかもわからない
ただ途方にくれるだけであった
会社
「おはよう立石君」
「おはようございます・・・」
は気のない返事に何かを感じたのか、部長は珍しく二言目をかけてきた
「どうした?らしくないぞ、なにかあったのか?」
怪訝な表情でたずねてきた
しかし部長にあの話をしたところで意味はない
なんでもありませんと言い残し、自分のデスクへ向かう
悠希はため息をひとつつき、イスに座り込んだ
いったいなにをすれば真相がわかるんだ・・・
とりあえず悠希はパソコンのスイッチをつけた
「そうだ!」
何かひらめいた!という感じで悠希はキーボードをこちらへ寄せた
インターネット・・・
そこで検索すればなにかわかるのではないか?
期待を膨らませ悠希は真剣に画面を見つめた
こんなにも起動が遅く感じたことはない
ようやくパスワード入力の画面までやってきた
「131314、っと」
パスワードを入力しデスクトップの画面までやってきた
インターネットを開く
しかしここでひとつ疑問が生まれた
なんて検索をすればいいのか?
迷った末に結局5月9日と検索エンジンに入力し、検索ボタンを押した
7
食堂
あれから昼まで探しつづけたのだがけっきょく真相はわからなかった
それどころかますます謎が深まるばかりだ
なぜか5月9日についてなにも出てこないのだ
出てきたのは1年前以上の5月9日について・・・
なんのヒントもえられず悠希はただ脱力した
「よう悠希」
振り返るとそこには謙太がいた
「おう」
元気がない事に気づいたのか心配そうな顔をしている
悠希は謙太をイスに座らせた
周りは相変わらずおしゃべりでやまない
もううるさいぐらいである
「まだあの事考えてんの?」
実は謙太にはあの事を少し話しておいたのだ
しかし謙太には全く見当がつかず結局八方ふさがりだった
「うん・・・でも全然だめだわ」
すごく疲れきった顔だ
ここまであらゆることを調べてきたのだが全てだめ
さすがの悠希も肉体的にも精神的にも参ってきていた
「そうか、あのさあんまりこういうことは言いたくないんだけどさ、もうあきらめたほうがいいんじゃないかな?最近仕事に集中できてないみたいだし・・・」
確かに謙太の言うとおりだった
ここんところ全く仕事が手につかない
ここらが引き際なのだろうか・・・
そう悠希も感じていた
「かもしんないな・・・これ以上調べても何もならなさそうだし」
この時点でもう完璧にあきらめてしまった
一度あきらめると決意した瞬間、緊張の糸がぷつんと切れた
何かに解放されたように悠希は自由を感じた
「それじゃあ今日のみに行くか!」
「ああ・・・そうだな!」
これでよかったんだ
心の中でざわめきが止まった
これまでやってきた事は無になるわけではない
ただ、ただひとつ・・・絡まった糸を心の中にしまいこんだのであった
そして悠希はこれで完全にわすれるはずだった・・・
しかし簡単には終わらないのが人生というものだった
太陽が雲で見え隠れしている