第8話 宿屋の鬼女と現実への帰還
第八話の投稿です。
楽しんでいただければ幸いです。
誤字のご報告がありましたので、修正いたしました。
文章に抜けている部分があったので付け加えました。
遅めの昼食を済ませるために、南の大通りに沿った左側の生産街を歩く。ここら辺は飲食店が多く見られるので、昼食を済ませるには丁度いいと思ってぶらついているのだが、通りの表に開いている店は多くの客がいて満席状態だった。このままでは、店を見つけるまでに小一時間かかってしまうので、大通りを離れて生産街の中に入っていく。
大人四人が横並びで歩けそうな生産街の路地に入ったはいいが、中々飲食店が見つからない。というか若干迷っている気がするが、後戻りしては余計に時間がかかるので、このまま進むことにした。
地図を確認しながら進むと、ちょうど左街の中心にたどり着いた。しかし、そこは薄暗い路地の途中で周りには住居のような建物があるが、ちょっとした貧困街のような雰囲気を出している。そんな風に思いながら周囲を観察していると、木製のT型煙突から煙を出している建物を見つけた。
その建物の正面と思われる扉の前に来ると、その横に俺の膝上ぐらいの高さの脚立型の看板はあった。看板には【鬼酒】と書かれていた。・・・飲食店にも見えなくないが、この外見では飲食店と判断するのは難しいだろう。しかし、ここ以外にそれらしい建物は見当たらないので入ってみることにした。
入口は、西部劇に出てきそうな扉だった。その外見どおり、扉を動かすとギィィと音が鳴る。そして、内部に入るとちょっとした和風の内装を施した空間になっていた。木材だけでなく、竹なども使って作られたこの場所は、6人が座れるカウンターと4人囲んで座るテーブルとイスがあったので、ここが食事をするロビーなのだろう。しかし、このロビーには誰もいないので奥にいるのかと、カウンタ―の右側にある暖簾がかかった出入口の奥を見ようとカウンタ―から身を乗り出そうとした時、カウンターに備え付けてある呼び鈴に気づいたのでチリ~ンと鳴らす。
すると、奥から「はいよ~」という気だるそうな女性の声が聞こえてきた。そして、暖簾を手でどけながら和服を着た女性が出てきた。
「よくここを見つけたね。ここまで奥に来るヤツはそうそういないから、お前さんが初めてのお客だよ。・・・それでここに何にしに来たんだい?」
「いや、食事ができるかと思い、来たのだがぁ・・・」
「ん?どうしたんだい。そんなポカンとした顔をして。・・・ああ、珍しいかい?他の連中と違いがほしくて、つけたんだが中々に不評でねぇ」
彼女が自らそう自嘲気味に言い、俺が気づいて今日だけで何度さらしたか分からない間抜けな顔をした理由は、彼女のおでこにある2つの角だった。・・・そう彼女の姿はまさに、鬼だった。
鬼とは言っても、桃太郎とかファンタジー世界に出てくるオーガといった感じではなく、胸の上辺りまで伸びたくねくねした髪に、赤を基調とした和服を肩と胸上まで露出して着た普通の人間に角をつけた姿なので、美しい鬼の女性となっている。・・・それと男を釘付けにする結構な巨乳でもあった。・・・ゴホンッ、それはどうでもいいか。とにかく、彼女自身から角ことを話してくれたのだから返答しなくては。
「そうなのか?意外に似合っていると思うが」
彼女には慰めているように聞こえたかも知れないが、俺は本心を言ったつもりだ。その彼女は「あはは、ありがとね」と答えてくれた。
「それで食事をしに来たって言ったが、済まないね。今は食材を切らしているんだよ」
「そうかぁ。・・・あっ、持ち込みはありかな? ありなら一応、食材だと思われる物は持っているのだが」
「ん?そりゃぁ、持ち込みなら作ってやれるが・・・。とりあえず、それを見せてみな」
そう言われて、俺はウルフとラージウルフの肉を一枚ずつ出して彼女に渡す。ちなみに肉の質は二つとも品質:Aだった。
「・・・へぇ~、質の良い肉じゃないかい。じゃぁ、これでステーキでも作ってあげるよ」
そう言って彼女は暖簾の奥に戻る。しかし、すぐに戻ってきた。・・・暖簾の間から頭だけ出した状態で。
「・・・どうした?何か問題があったか?」
「いや、そうじゃないだけど、・・・一枚くれないかい?普通のウルフの方でいいからさぁ」
「・・・あ~、別に構わないがぁ」
予想外の質問に何を聞かれたか理解するのに数秒かかったが、なんとか肉を譲ることに同意した。
「やったっ♪それじゃぁ、早速作ってくるからちょっと待ってなっ」
そう笑顔で言いながら、彼女はまた奥に行く。しばらく待っていると奥から香ばしい匂いが漂ってきた。この匂いからして彼女の料理は期待できそうだ。
「おまちどぉ~、ほらいい感じで焼けたよ」
そう言いながら彼女は両手に料理の乗った皿とナイフとフォークを持ってやってきた。料理の名前は【ウルフステーキの香草焼き】となっている。中々にうまそうだ。
そして、カウンターに座る俺の前に大きいステーキが乗った皿を置き、彼女は俺から見て左に皿を置いてカウンター裏の椅子に座る。
「それじゃぁ、食べようか。・・・・・・ん~、こりゃぁうまいねっ!いやぁ~、無理に頼んで良かったよ」
「そいつは良かった。俺も譲った甲斐がある」
そう言葉を交わした後は、二人とも喋らずに黙々とステーキを食べる。黙々と食べてはいるが、左前にいる彼女は時おり、心底美味しそうに笑顔を見せる。そして、二人とも食べ終わると彼女が食器を奥に持っていて片付ける。
「さて、食事も終わったことだし、遅くなったが自己紹介といこうか。アタイは<オ二メ>って名前なんだ。よろしくね」
「俺はティーゲル、よろしくなオニメ。そして、食事を作ってくれてありがとう。」
「なぁに、気にすることはないよ。本来ならティーゲルだけが食べるはずだったものを無理言ってもらったんだ。逆にこっちがお礼を言いたいぐらいさぁ」
「まぁ、肉はまだあるから譲ったところで、別に問題はなかったからなぁ。・・・しかし、ここに着いた時も思ったが、生産街のこんな奥地に店を構えてもお客は来ないんじゃないか?」
「はははぁ、結構きつい事をストレートに言うんだね。確かに今日来たアンタ以外に、他のお客はいない。まぁ、元々店なんてするつもりはなかったから、お客が来ようが来まいがどうでもいいだけどねぇ」
「なら、なぜ店をやっているんだ?」
「ちょっと別の事をしたかったのさぁ。・・・アタイは今まで第一陣のソロでやってきたんだ。でもずっとソロでやるには限界があるからね。だからと言って今さら固定のパーティーやファミリーに入れるとは限らない、そこで一人でもやれることを考えて、この店を持ったんだ。・・・でも手に入った場所がこうも奥の奥じゃ、誰も来やしない。おかけで今の今までお客は来ず、外に出ては生活に必要な素材や食材を集め、たまにギルドの依頼をこなす。なんて暮らしを送ってきたんだよ」
「・・・そうか。大変だったみたいだな」
「あははは、そんな事はないよ。今まで一人でやってきたんだ、定住する場所が出来ただけでやっている事は変わらない。それに、それなりに知り合いは多いからね。退屈しないように楽しく暮らしているよ。それに・・・」
「ん?どうした?俺の顔に何かついているか?」
「いやぁ、今日初めてアンタというお客が来たからねぇ。他人に料理をふるまうってのも悪くないと感じたのさ。とは言っても、お客がこれからも来るとは限らないけどねぇ」
「そうか。まぁ、俺が来たことでオニメが新しい体験をして、それが心に残ったのら、今日は俺やオニメにとって両方が得をした日になったという事なのだろう」
「なんだい、そのキザなセリフ。口説いてるつもりかい?」
「ははは、そんなつもりは毛頭無いから安心しろ」
「つまらないねぇ。そこは逆に男として口説く所じゃないのかい?」
「俺とオニメは、今日初めて会ったばかりだろう?そういうのは、もっとオニメを理解しているヤツに言うんだなぁ。・・・それとも口説いてほしいのか?」
「あら?口説いてくれのかい?」
そう言い合いながら、俺とオニメは顔を合わせて互いに顔を見た数秒後、同時に「あはははっ」と笑い合った。
「あははっ、それでアンタはこれから用事とかはないのかい?」
「いや、特にないなぁ。・・・あっ、もうそろそろダイブアウトしようと思っているんだが、どこか宿屋的な安心してダイブアウトできる場所を知らないか?」
「ん~?普通ならギルドがやっている宿か、ファミリーの建物がそういう場所になるんだがぁ」
「そうなのか。じゃぁ、ギルドの宿にでも行くよ」
「・・・あっ、なんならここに泊っていくかい?」
「えっ、ここにか?・・・でも、ここは飲食店だろう?」
「確かに、ここは食事処だが上の方には複数の部屋があるから、泊まることは可能だよ。ほら、そこに階段があるだろう。そこから上に行ける」
そう言われて、オニメが示す先を見るとカウンターの部分が終わった先に階段が見える。それを確認したその時、俺の前に<オニメ様より鬼酒への宿泊招待状が来ています。招待状を受け取りますか?>というウィンドー画面が出てきて、その下に<はい・いいえ>の選択肢がある。それを見てオニメの方を見ると・・・
「それを受け取ってくれれば、ここを活動拠点として使うことができる。ただ、ずっとここにいれるかは、アタイの気分次第だから気を付けなよ☆」
とウィンクをしながら言ってきた。俺は少し悩んだがオニメがくれたこの機会に「ありがとう。それじゃ・・・」と感謝しながら<はい>をタッチしようとしたが、「ただしっ!」とオニメが声をかけてきたので、再度オニメの方に顔を向けると彼女は笑みを浮かべていた。
「ここを使うのに条件があるよ」
「・・・その条件は?」
「食材を持ってくること。そうすれば、ここに泊まってもいいし、飯も振る舞ってやるよ。・・・後は、たまにでいいからアタイと依頼や外への探検なんかに付き合いな」
「・・・分かった。それぐらいなら、喜んで付き合おう。よろしくなオニメ」
俺はオニメの条件を承諾して、招待状を受け取った。すると<招待状を受け取りました。鬼酒で拠点システムが使えます。>と出てきた。
「それじゃぁ、これからよろしくねっ。ティーゲルっ♪」
そう言って、俺に向かってウィンクする。それに、俺は「ああ、よろしくな」と言って階段を上がる。
オニメとロビーで別れて、二階へ来た俺は二階の間取りを確認する。階段を上がって、すぐ右に曲がると廊下があり、3つの扉が見える。念のために各部屋の中を確認するが、オニメが言った通り中は無人だった。その中で、俺は奥の部屋を選び入ると<部屋の登録をしますか?>とウィンドー画面が出てきて、一緒に選択肢も出てくる。俺は迷わず登録をすると<部屋の登録が終わりました。>と出てきた。それを閉じて、部屋を再度確認する。
部屋の中はベットと机、そして大きな箱があった。
とりあえずはダイブアウトしようと、まずは時間を確認する。現時刻は4時前近くを指していた。そして、画面を閉じて「ダイブアウト」と言うと目の前の景色が暗くなって消えた。
目の前が暗くなって数秒過ぎた後に目を開けると、俺は【V・W・D】のハードに付いている薄い黒色をしたブラインドから年季の入った天井を見た。・・・どうやら、無事にゲームを終了できたようだ。
バワダを頭から外して、横に置いておいた腕時計で時刻を確認するとちょうど4時を指していた。どうやら、ゲームと現実の時間は同じらしい。現に証明するように自分の腹がぐうぅぅ~と鳴る。
時間が時間なので、夕食の準備でもしようかと立ち上がると体に異変を感じた。
・・・強烈な尿意が俺を襲う。俺はすぐさま、トイレに駆け込む。
・・・ふぅ~、スッキリした。
よくよく考えれば普通に分かる事だった。現実の時間と直結しているなら、ゲーム時間で生理現象が起きれば、現実でも起きていることになる。これから時間をよく確認し、生理現象を処理しながらゲームをする必要があるな。
それはさて置き、キッチンに行こうとダイニングへ移動すると、机の上に置いていた【B・D】が着信を知らせる。すぐに取って<開く>というアイコンをタッチする。すると画面が出て、見慣れた顔が写し出される。
<・・・おっ!やっと出たかっ!一体何していたんだ?何度も連絡をいれたんだぞっ!>
「済まない。ちょっと用事を済ませていてな。それでどうしたんだ?」
<ああ、実は次の依頼が入ったから来月あたりにお前の所に行く事になった>
「分かった。詳しい事は会ってからか?」
<そうだ。行く日が決まったら、こっちから連絡を入れるから、それまでは待っていてくれ>
「分かった。・・・もう話は終わりか?」
<ん?まぁ、仕事の話はこれで終わりだ。・・・あ~、そういえばお前はゲームはしたりするのか?>
「・・・ちょうどゲームをやっていて、終わった所だが」
<そうなのか。ちなみにそれは【D・L・O】か?」
「よくわかったな。一昨日、妹たちからプレゼントされた」
<プレゼントっ?いいよなぁ~、お前にはそういう人たちが居て。俺にはそんな人は居ないんだぞ>
「俺に言われても困る。・・・ん?確か、お前は交際している彼女がいたんじゃないか?以前、俺に紹介したろう」
<あ~、あいつとは別れた。なんでも他に好きな人ができたらしい。・・・悔しいなぁ~>
「・・・元気だせ。」
<そうだな。それでそのゲームの話に戻るが、俺もユーザー登録が出来たんだっ!>
「ほう、そうなのか。じゃ、どこかで会えるかもな」
<ああ、そうだな。それでだ、出来れば・・・<ちょっとっ!誰と話してるのっ!まさか、彼女っ!!>い、いや違うよっ!仕事仲間と話してたんだっ。それで・・・>
なにやら女性の所に居て、そこから通信しているようだが、女性に勘違いされて揉めている。・・・当分は話せそうにないので、俺はそっと通信を切った。
【B・D】の画面を元に戻すと、チャーフィーが何度も通信してきた事を示す不着信のアイコンが出ていた。その下に<メール一件>と書かれていたので、それをタッチする。
<兄さんへ。
初日の具合はどうだったかな?私たちはゲームでも変わらない、かっこいい兄さんに対する会話で盛り上がっているよ。しかし、あれから帰って来なかったから、心配したんだよ? まぁ、ダイブアウトした事がすぐに分かったからいいけどね♪
それに兄さんが【D・L・O】に参加してくれた事で、これからもっと楽しくなるような予感がするんだ。今回はあの世界の私たちとの顔合わせだけだったけど、これからは私たちの知り合いと会ってもらったり、一緒に冒険をしたりと楽しんでいこうね♪ それじゃ、また会おうね。
PS、いつでも私のファミリーに入ってもらっていいからね。その時は私自ら手取り足取り、色々と教えてあ・げ・る❤>
そんな内容だった。しかし、吹雪だけでなく深雪までこんなメールを送ってくるとは、もしかしたら吹雪の行動の原因は深雪の影響かもしれない。
とりあえず、メールの返信をする。
<深雪へ。
一言もなく、黙ってゲームを終えてすまない。それと誘ってくれて、ありがとな。また、あっちで会おう。
それと深雪は今度会ったら、お説教だ。>
メールを返信したので今日の用事はひとまず、これで終わりだ。
さて、風呂に湯を入れて、夕食の準備をするか。
その後、夕食を食べ終わり、風呂でさっぱりした後に就寝した。
第八話、いかがでしたか?
ようやく、一日が終わりました。ここまでくるのに実質九話分も使ったことに、自分で驚いています。それでは、今回も誤字・脱字の報告をお待ちしております。
それと個人的な知らせですが、ブックマーク数が100を突破しました。とても、嬉しく思っております。この調子で、続けていきたいです。
そして、次回はVRMMO系でよく出る掲示板の話をします。
お楽しみに。