第6話 兄妹の誘いといたずらメイド
第六話の投稿です。
楽しんでいただければ幸いです。
脱字の修正をしました。
「・・・それに答える前に、聞いてもいいか?」
「もちろん。何を聞きたいのかな?」
「まず、お前たちが言う<ヴァルハラ>っていうのは何なんだ?」
「<ヴァルハラ>とは、言ってしまえば都市国家みたいなものさぁ。私たちがこの世界で本拠地にしている場所で、初心者たちの最初の拠点となるここ始まりの町<リリース>と一緒さ。だから、さっきヴァルハラに加入してほしいと言ったが、正確にはヴァルハラに移って拠点にしてもらいたいという事になる。」
そうダルシアが説明し終えると、タイミングを見計らった様に俺たちのいるテーブルにメイド服のような姿の女性が人数分のティーカップとポットを持てやってくる。
その女性は「どうぞ。」と言ってティーカップを差し出し、お茶を淹れていく。俺は「ありがとう。」と言ってカップを手に取り飲もうとするが、深雪たちは手を出さずに、注がれたお茶を凝視していた。俺はそれに気づかなかった。
「・・・・ブハッ!!ゴッホ、ゴッホ、ゴッホ・・・、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、・・・何なんだ、これは?」
飲んだ瞬間に口の中に広がった苦みや辛み、甘み、しまいには激痛を味わった。俺はこのお茶・・・いや劇物を持ってきた女性に非難の目を向ける。その女性は、口元を隠し笑いを堪えながら「申し訳ありません。」と言うが、とても反省しているとは思えなかった。すると・・・。
「はははぁ!すまないなぁ、兄さん。それは彼女なりの歓迎の証なんだ。・・・しかし、どうして<エリナ>がここに?君はヴァルハラにいたはずだが?」
「ええ、確かに私はヴァルハラにいたわ。でも、偶然にも特に予定がないはずのあなたたちが三人揃って出かけていくから、気になちゃって。そして、ここに先回りして待っていたら、あなたが先導しながら男性を連れてくるんですもの。これは首を突っ込まずにはいられないでしょっ♪」
「フフフッ、確かにもし立場が逆だったら、私たちも首は突っ込まないが、影ながら見守っていただろう。」
「そうでしょ。でも驚いたわぁ~、今日まで男の人を寄せ付けなかったあなたが、心底嬉しそうな顔をして戻ってくるから。そんなに彼は良い人なの?」
<エリナ>という彼女は明らかに、この状況を楽しんでいるように笑顔を見せながらそう言う。そんな彼女に溜め息をつきながら、ダルシアは「君が思っていることは、勘違いだ。」と否定する。
「彼はティーゲルという名前で、私たちの兄さんだ。君が思っているような人物ではない。」
「あら、そうなの。それじゃ、ご家族にちゃんと挨拶しなきゃね。」
「改めてまして、私はエリナ。ダルシアちゃんたちと同じヴァルハラを拠点に活動をしているわ。生憎、ダルシアちゃんのファミリーに所属してはいないけど、よろしくねティーゲルさん。・・・あっ!それとさっきはごめんね。ダルシアちゃんが言った通り、あれはちょっとした挨拶がわりだから、許してね♪」
俺に向き直ってエリナは自己紹介しながら、お茶の件を謝罪する。俺は納得はできなかったが、エリナが謝罪をしている以上は、四の五の言うのは大人気ないと感じ、謝罪を受け入れることにした。
「・・・わかった、さっきの事は水に流そう。俺はティーゲルだ。それと先ほどダルシアが言った通り、俺はダルシアたちの兄妹だ。よろしく頼む、エリナさん。」
そう言って俺は自己紹介しながら、手を出して握手を求める。それにエリナは笑顔で「ええ、これからよろしくね。」と言って握手をしてくれた。
「それでは、お互いに挨拶したところで話を戻そう。エリナはお茶を片付けて、新しいのを持ってきてくれ。」
エリナはダルシアにそう言われると「ええ、わかったわ。」と言って、ティーカップとポットをトレーに乗せて持っていく。すると、そのエリナの後を白雪ことシルフィーが「手伝ってきます。」と言って追いかける。
「さて兄さん、他に聞きたいことはあるのかな?」
そう言ってダルシアは逸れた話を戻そうと、声をかけてくる。
「ああ、そうだな。他に聞きたいことは・・・、<ファミリー>とは何なんだ。」
「<ファミリー>と言うのは、大勢のプレイヤ―によって作られた組織で、パーティーを組みやすくしたり、アイテムや素材を集め共有し合ったりするために作られたものだが、今ではどのファミリーに加入したほうがゲームを上手く進められるかっていう話になって、第一陣から第二陣のプレイヤーのほとんどが加入を目指している。」
ダルシアが説明に一息ついた所で、シルフィーが入れ直したお茶、香りからして紅茶を持て来る。そして、全員に配り終えるとシルフィーは座り、ダルシアとマチルダは紅茶を飲み始める。俺も一息つくために飲む。
「・・・なるどな。じゃぁ、<ダルシア・ファミリー>はお前を大将に据えたものってことか。」
「まぁ、確かにそうだが私自身、自分から立候補したわけじゃない。その場にいた全員が満場一致で決めたことだから、反論しようがなかった。」
とダルシアはその時の場面を思い出したのか、苦笑する。
「そうか。・・・じゃぁ、なんで俺を誘う。俺は第二陣の初心者だが、事前情報を集めなかったからファミリーの事は知らなかった。もちろん、お前たちがファミリーを作っていたことも知らなかった。・・・もし加入目的じゃなく、兄妹として俺に便宜を図るためにヴァルハラに来てほしいと言うのなら、嬉しくはあるが・・・。」
「確かに、兄さんを手助けするために私たちの近くにいってもらった方がなにかと便利ではあると思ったことは当たている。そのために、ヴァルハラを拠点にしてもらいたい、願わくば私たち<ダルシア・ファミリー>に加わってもらいたいとも思った。・・・強いて言えば、勘かな。」
ダルシアは、にこやかな笑顔でそう言う。
「勘・・・か、頼もしい限りだな。・・・だが、すまない。お前たちの申し出は有難いが、しばらくはここ、リリースで活動するつもりだ。お前たちと同じ環境でやっていければ、とても安定したプレイができるのだろうが、今回は遠慮させてもらう。・・・身勝手かもしれんが、お前たちさえ良ければまた誘ってほしい。」
「もちろん、兄さんには兄さんのやり方がある。それを尊重するのは当たり前のことだよ。こっちも性急過ぎたみたいだね。」
そう言って、ダルシアは俺の言葉を聞き入れてくれた。
俺はそんな心優しい妹に頭を下げて「本当にすまない。」と言った。
「気にする事はないよ。勧誘の件は兄さんが納得した時に返事をもらうとしよう。・・・あっ、でもたまには私たちの頼み事も聞いてほしいなぁ。」
「ああ、それはもちろんだ。何かあればいつでも言ってくれ。」
そう言い合って、俺とダルシアは笑い合う。すると・・・。
「・・・難しい話は終わったかぁ~?そんじゃ、あたしが話していいか?」
と吹雪ことマチルダが、待ちくたびれたように喋る。「なんだ?」と言って、俺はマチルダのほうを向く。
「ティーゲルはまだ戦闘はしてないだろう?だから、これからみんなで外に出て、戦おうぜ。」
「そうだな。マチルダの言う通り、兄さんはまだ始めたばかりだから、最初のアドバイスとしてそうするか。」
「そうでね。丁度良く、バランスの良いメンバ―が揃っていますので、お兄様を入れてパーティーを組んで行きましょうか。」
マチルダの発言からとんとん拍子に話が進んでいくので、俺は「ちょっといいか?」と言って話を止める。
「・・・実はすでに戦った後なんだ。」
そう言うと、三人が「えっ!?」と驚く。
「いつっ!?どこでっ!?」と飛び掛かってきそうな勢いでマチルダが聞いて来る。
「まぁ落ち着け、順に話すから。・・・まず最初に、俺はお前たちとの約束までに色々と自分で下調べをしようと、朝からダイブインをした。そして、広場から南の大通りを歩きながら、生産街を表通りだけだが見て回って行き、そのまま南の門を通り抜けて平穏の森へ行った。平穏の森へは、戦闘がどういうものか知るために、入ったが一時は何にも出会わなかったので採取を行っていたが、草むらが音がしたのでそれを確認するために、忍び寄ると<ニードルラビット>という動物に遭遇した。」
「<ニードルラビット>かぁ・・・、じゃぁ痛い目にあったろう?」
そう面白そうに言うダルシアに、俺は苦笑し頭を横に振りながら答える。
「確かに姿を見たときは、毛玉のウサギかと思ったが、ここはファンタジーの世界だと思い返して、確かめる為に石を投げつけたんだ。そっからはお前たちも知っている通り、毛を栗のイガ状に変形させた。」
「そう。ニードルラビットはその普段の姿からは予想しにくい、防御形態をとるから初心者はよく思わぬダメージを貰う。」
「ああ、鑑定の説明にもそういう感じに書いていた。それで俺は、一つの案を思いついたから石と手斧を用意して石からウサギに投げつけた。するとウサギは石には同様に防御したが、石の次に飛んできた手斧には反応が遅れて顔面に直撃して絶命した。」
「顔面に直撃って・・・、どうやってあの小さい目標に当てたんだ?」
マチルダは不思議そうな顔で、俺に訊ねてくる。
「観察していた時に、普通のウサギ同様に鼻がひくひくしていたんだ。それを標的にして投げただけだ。・・・そういえば、その時に一瞬だけ透けた石と手斧が飛んでいくようなものが見えたな。」
「ああ、それはスキルの<射線>の効果だな。採取をしたなら、もうわかっていると思うがスキルは、魔術以外は外のフィールドに出た時点で常時発動するから、兄さんは射線を見たんだね。」
俺が不思議に思って言ったことに、ダルシアが律儀に答えてくれる。
「そうかぁ。説明ありがとう、ダルシア。・・・それでウサギを仕留めて解体してアイテム化した素材を収納した時に・・・」
「ちょっと待ったっ!!ティーゲルっ、解体って何のことっ?」
俺が次の話をしようとした時に、マチルダが先ほど以上の大声で俺の言葉を遮る。
「えっ?解体は解体だぞ。・・・あ~、ほら現実でも狩りで仕留めた獲物は解体するだろう。」
「いやそうじゃなくてぇ。・・・ティーゲル、この世界では倒した相手から素材やアイテムを回収する時は、相手に近づいくことで名前が表示されるからそのウィンドー画面をタッチする事で瞬時にアイテム化して収納できるだ。」
そう言うマチルダは頭を抱えたようになっている。そんな彼女に、俺は頭をかきながら「あ、ああ、覚えておくよ」と答えた。
「はははぁ、なかなか興味深い事をしているんだねぇ。兄さんは。」
ダルシアは反対に面白そうに笑う。
「・・・まぁ、それで素材を収納したときに周りに殺気を感じたんだ。それで両手に剣と手斧を構えると、三体のウルフと一体のラージウルフが出てきて戦闘になった。」
「ラージウルフっ!!初めての戦闘でそいつに会ったのっ!!」
またもマチルダが大声をあげる。そして、またも頭を抱えるように頭をテーブルに突っ伏す。しかも、ダルシアは顔を背け笑っている。シルフィーはどこか心配そうな顔を浮かべて「あまり無茶をしていけませんよ。お兄様。」と気遣ってくれる。
「あのさぁトラ兄、ウルフはともかくラージウルフは本来レベル1のプレイヤーが最低でも5人のパーティーで挑む敵で、ソロで挑むならレベル7ぐらいは必要なフィールド徘徊ボスなんだよ。」
と俺の呼び名がティーゲルからトラ兄に戻って、ものを知らない子どもに教えるように言う。
「そうなのかぁ、だが倒すことはできたぞ。・・・ほら、素材もこうやって持っている。」
と倒した証であるラージウルフの皮を出す。するとマチルダは「おうふ。」と言ってまたも突っ伏す。ダルシアはついに腹を抱えて「あははははっ!」と笑い出した。
「ははははぁ・・・はぁ~、まぁマチルダの反応も間違いではない。私たちでも各自レベル上げをして、装備も整えてから挑んだからねぁ。どうやって倒したんだい?」
「えっ、あ~・・・確かぁ最初の攻撃を避けて、手下のウルフを二体倒して、その後にまた飛び掛かってきて、剣を前に突き出しながらこっちからも突っ込んで、心臓付近に刺したんだ。そしてしばらくすると絶命した。後はウサギと同じで解体した。」
「なるほど心臓付近かぁ~、急所を上手く攻撃したら格上でも倒すことはできるんだな。」
とダルシアは感心して呟いている。
「・・・ああっ!もういいやっ!それならさぁ、トラ兄。武器の具合は大丈夫?」
何かしらのショックを振り払うように顔をあげたマチルダは、俺にそう聞いて来る。
「えっ?さぁ、確かめていないから分からない。」
「なら、確かめた方がいいよ。戦闘したら武器の耐久値が落ちていると思うから。」
そう言われて、俺は装備画面を出して武器を確かめる。
ショートソード:65/100
ハンドアックス:80/100
となっていた。それを横から見ていたマチルダが「ああぁ~、やっぱりだ。」と言っている。
「確かに耐久値が下がっているな。どうしたら回復するんだ?」
「えぇ~と鍛冶のスキルを手に入れて自分でやるか、鍛冶屋をやっている人に依頼するかだな。」
「ん~、ならガンテに紹介してもらうか。」
と当てがある人物を思い出していると、ダルシアが「ガンテを知っているのか?」と聞いてきた。
「ああ、偶然知り合ってな。良い人だったよ。」
「そうか、彼は第一陣の中で顔が利く。彼に紹介してもらえば、間違いはないだろう。」
とダルシアが太鼓判を押す。
「よしっ!思い立ったら即行動だ。すまないがこれで失礼させてもらう。事が済んだら、こっちから連絡するから。」
と言って俺は足早にダルシアたちのもとを離れて<ダルシア・ファミリー>の建物を出ていく。
「・・・まったく、そんなに急がなくてもいいものを。しかし、D・L・Oを渡した時よりも活き活きしていたなぁ。」
ダルシアは小走りで外に行ったティーゲルこと兄の姿を見送った後にそう呟いた。
「ほんとうに。お兄様とまだまだお話したかったわ。ねぇ、お姉様、マチルダ。」
「そうか?あとでまた連絡するって言っていたんだ。それにこれからもっとたくさん話したり、楽しく遊べるんだから。」
「そうだな。マチルダの言う通りだ。」
「それじゃ、あたしは少しダイブアウトするよ。じゃぁ~ね、姉貴たち。」
「あっ、マチルダ待ちなさい。」
とシルフィーは止めようとするが、マチルダはすぐに光に包まれ消える。「まったく、吹雪は。」とシルフィーは嘆息する。そして、ダルシアのほうに向き直る。
「しかし、お姉様。どうして急にお兄様をお誘いになったんですか?予定ではあくまでこの世界での暮らしに慣れるまで、手を貸すと言っていたではありませんか?」
「ええ、そのつもりだったんだけど、先言った通り勘が、ねっ。それに早い内に兄さんを仲間に入れておく方が良いと感じたんだ。」
「ん?どうしてですか?」
「分からない。どうして、そう思ったのかも、私自身よく分からない。」
とダルシアは少し困った顔を浮かべていた。それを横から見ていたシルフィーは(何もなければ、よいのですが。)と心内で思った。
第六話はいかがでしたか?
誤字・脱字の報告はいつでもお待ちしております。
次回は再びガンテが登場します。そして、武器の修復を行います。