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訳あり元傭兵のVRMMO  作者: 大佐
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第5話 耳の良いエリマキトカゲとバーチャル世界の妹たち

 第五話の投稿です。

 楽しんでいただければ幸いです。

 【平穏の森】から全力疾走して数分、ようやく【リリース】の外壁と門が見えてきたので速度をゆるめて歩いていく。


 歩きながら装備画面を開いて時刻を確認する。現在の時刻は11時50分前だったのでなんとか約束の時間までには広場に着きそうだと俺は思った。しかし、時間に余裕がないので間に合うように小走りで進む。


 門をくぐり南の大通りを進むと生産街はテルと一緒に歩いた時と同じで賑わっている。ガンテの店を横ぎった時に挨拶をしようと中を覗いたが知らない女性が接客をしていたので、その場を後にした。ちなみにガンテの店は「ガンテの無骨な服」という名前だとその時初めて知った。・・・なんとも言い難い名前だったがガンテらしいと感じてしまった。


 ガンテの店を通り過ぎ、広場の手前まで来たが異様に人が多かった。始めからこんな感じだったかと首を傾げながら、人にぶつからない様に進む。群衆の中を進みながら、俺は集まった人たちを見ていたが中々にファンタジーな住人風の姿をしていた。


 一番多いのが人間、ファンタジーで言うヒューマンが多い、現実と同じで肌が白色、褐色、黄色などに分かれている。その他は耳を横長に伸ばしてエルフの様にしていたり、体の一部が毛深く尻尾が生え、耳が動物のものになっている獣人風の者、ガンテの様に無精髭の筋肉隆々で身長を短くしたドワーフ風の者などのファンタジー世界の住人を意識した姿が多く見受けられる。


 多くの人がこの世界を満喫しているんだなと思いながら、俺は待ち合わせしている兄妹たちの姿を探すが見つからない。よくよく思えば深雪たちがどういう姿でこの世界にいるか知らない時点で探しようがない。どうするか悩んでいると少し騒がしい場所に着いた。


 そこは広場の一角でベンチがいくつか設置されている。その中の一つのベンチに多くの人が近寄っていないものの遠巻きに見ていて、隣と小さい声で話しあっている。と言っても周りの人たち全員がそういう状況なのでかなり騒がしい。その人集りの外からでは騒ぎの原因が見えないので、すぐ傍にいた人に事情を聞こうと俺は話しかける。


 「すまない。何かあったのか?」


 「んっ?そりゃぁお前さん、何かあったから皆こうして集まて注目しているだろう。まぁ、ここまで注目されるのも仕方ないがなぁ、なんたってあの三人組がこの初心者が集う町にいる事自体、滅多にないからなぁ。新規加入者の獲得に来たのかぁ?」


 と隣の見知らぬ人が親切にこの場の状況を言うが、その三人組の姿が見えないので説明されても分からなかった。


 「すまないが、その三人組とは誰なんだ?説明してもらっていてなんだが。」


 「なんだぁ、お前さん第二陣の奴なのか。それじゃ、知らねぇのも仕方ねぇな。しかしあれだぁ、情報収集はしっかりとしないと危ないぜ」


 「ははは、ご忠告はありがたく貰うが、何分そういうのは事前の下調べはしないたちでな。ゲームくらい自分の足で赴いて見てみたいのでね。もちろん、あなたみたいな親切な人の助言はしっかりと活用させてもらうがな」


 「なら大丈夫そうだな。そんじゃ、その親切な人【情報屋のエリマキ】からの最初のアドバイスだ」


 そう言って前の人集りの中に入って進んでいくエリマキと名乗った男の背中を「俺はティーゲルだ」と自己紹介しながら追っていく。そして「ああ、よろしくな」と返答されたあと、ある程度進んだ所で人集りの奥が見えてきたのでエリマキが止まる。


 「さて、お前さんが知りたがったお人たちはこの【D・L・O】じゃぁ、5本の指に入る有力者だ。」


 そう言いながら奥のベンチにいる3人をエリマキは指差しながら説明を始める。


 「まずはベンチに座らず傍に立っている、真紅のワイルドな髪にその中から出ている狼のような耳、へそ出しファッションが特徴の<マチルダ>。彼女はその姿から容易に予想できる荒っぽい気性に加え、面度見の良い姉御肌で多くの人を味方したお方だ。ちなみに多くの男がアタックをしたが、見事な玉砕を遂げている。その数は100や200はくだらないそうだぜ。しかも、女にも人気が高いうえにパーティーメンバ―も女が多いことから百合なんじゃないのかってもっぱら噂だ」


 「そんで、ベンチの左側に座る白銀の長いストレートな髪に、お嬢様が着ていそうなドレスを身に着け、最も特徴的な横長の耳が目立つ、清楚で可憐なお姫様<シルフィー>。性格は温厚で優しく、どんな人にも笑顔をくれるが度が過ぎる事をすると般若のようなオーラを出して静かに怒り、相手をPVP《プレイヤ―VSプレイヤー》という名の折檻をする怖~いお姉さんだ。そして、マチルダと同様に男女共に人気がある。玉砕した男の数も負けず劣らずらしい」


 「んで最後に、右側に座っている肩まで伸びたガーネット色の髪に、男装的な服を着たのが<ダルシア>。性格は穏やかだが絶対零度ような鋭く冷たい目線と笑顔で周りを寄せ付けないような空気を醸し出している。まぁ、実際はそんなことはなく気の良い人だ。ただ、見知らぬ人や彼女と彼女の周りに下手に手を出した奴は、その冷たい態度で地獄を味わったって話しだがな」


 説明が一通り終わるとエリマキはこっちを見てくるが、俺はその説明を半ば聞き流し、目の前に見える三人を間の抜けた顔で見つめていた。


 「どうした、ティーゲル? ・・・まさか一目惚れか? やめとけ、やめとけ、お前さんのルックスは一般的には良い部類に入るかもしれんがあの三人じゃぁ到底相手にされないぜ」


 とエリマキは見当違いな助言をくれるが、俺はそんなことはこれぽっちも考えていなし、頭の中はそれどころではない、ただ一目見た瞬間に分かった。髪の色が違っても、現実の人間にはない耳やあるはずのない尻尾があっても、あの顔は忘れることはない、十数年経ってようやく再開した新たな家族、生まれてまだ二回しか会っていない兄妹を優しく受け入れてくれた大切な者たち。


 人集りの原因は、俺の妹である深雪たちだった。そして、俺は悩んでいた。本来なら今すぐにでも三人の元に行かねばならないが、こんなに注目の的になっている状況でその中心に行くのはためらわれる。何より恥ずかしかったので、このまま知らぬふりをしようかと考える。しかし、俺のそんな思いは簡単に砕かれた。なぜなら、吹雪ことマチルダがその鋭い目を人集りに向けていたのだが、一瞬だけこちらの目線とかち合った様に見えて、そのままこちらをマチルダが一時の間凝視したのち笑顔を浮かべる。


 「あっ!トラ兄ぃ~こっちだ、こっち。ダルシア姉さんたち、トラ兄を見つけたよ!」


 そう言ってマチルダは俺を指差してダルシアとシルフィ―を呼ぶと二人もこちらに顔を向けると笑顔を見せる。しかし、こちらの群衆はその三人の行動に誰の事を言っているのか分からず、全員が周りを見ている。俺は溜め息を吐きながら、注目を回避することはできないと諦めて素直に三人の元へ行く。


 「・・・やぁ、待たせて悪かったな」


 そう言うと深雪たちは俺に「気にする事はない。」とそれぞれ言ってくれた。ちらりと後ろの群衆に目を向けると、やはり皆がひそひそとこちらを見ながら話し合っている。そんな中でエリマキが走ってきた。


 「おいおいおいっ! まさか、ティーゲルが三人と知り合いとはなぁ。驚いたぜ。それで、それで、お前さんたちはどんな関係なんだ?」


 と興奮気味に聞いて来るが、吹雪ことマチルダが俺とエリマキの間に不機嫌な顔で割って入ってくる。


 「おいっ! エリマキトカゲっ! お前はそうやってすぐ人のプライベートを聞き出そうとしやがて、この間も変な噂を垂れ流しやがったろうっ!? まだ仕置きがたりないかっ!」


 「勘弁してくださいよぉ~、マチルダの姉御ぉ~。それから俺の名前はエリマキであって、トカゲは余計です。」


 「お前のそういう人の周りを嗅ぎまわって、他人の話にいつも耳を傾けて、怒られそうになったら、一目散に逃げる姿はエリマキトカゲの二足走りと変わらないじゃないかっ! だからトカゲってつけて呼んでいるんだよっ!」


 「あんな独特な走りが人間にできる訳ないじゃないかっ! しまいには俺でも怒るぞっ!」


 「その前にあたしがお前を仕置きして、根性を叩き直してやるよっ!」


 「ふざけんな! アンタの仕置きはきつ過ぎるんだよ。・・・それに今回ばかりは引き下がれん。今まで男の影なんざぁ、これぽっちも見えなかったお三方がこうまで親しげに会話しているんだ。情報屋として聞かない訳にはいかねぇな」


 「たくっ~、変な所で頑固なんだから。・・・どうする?」


 と吹雪は心底困った顔を浮かべてこちらに訊ねてくる。俺はそんな二人のやり取りが面白かったので苦笑しながら「いいじゃないか」と言う。


 「エリマキ、俺たちは4人は兄妹なんだ」


 そう答えるとエリマキはますます驚いた顔をして「・・・実の兄妹ってことか?」と聞き返してくる。


 「ああ、俺が長男でダルシアが長女、シルフィーが次女、マチルダが三女だ」


 「あ、ああ、確かに彼女たちが姉妹ってことは知っていたが、兄貴が居たなんて初耳だ」


 俺は頬をかきながら「去年まで海外で暮らしていてなぁ、音信不通だったんだ」と答える。するとエリマキは一時、顔を下げるとバッと急に上げて走り去っていく。そんなエリマキの姿をマチルダは口を開いたままのポカンとした顔で見送り、シルフィーとダルシアは苦笑しながら「たぶん、広めにに行ったんだろう」、「ええ、きっとそうですね」と笑い合っていた。


 「さて、合流したことだし、落ち着いて話ができる場所に行こう」


 とダルシアが先頭を歩き進んでいく。そのあとをシルフィーとマチルダがついていくので俺は三人の後を追っていく。


 しばらく、北の大通りを歩いていく。北の街並みは南の<生産街>とは違って多くの集合住宅のような大きい建造物が建ち並んでいた。そして、北の門に程近い所にある<ダルシア・ファミリー>という看板が掲げてある建物に着いた。


 「さぁ、ここが私ダルシアの拠点にして【ヴァルハラ】のリリース支部だ」


 「・・・ここはどういう場所なんだ?」


 「簡単に言えば、リリースのヴァルハラに加入している者たちの家であり、会議や交流を図る場所と言ったところかな」


 とマチルダが説明してくれた。そして、ダルシアが階段を上って玄関を開け「さぁ、入って」と促す。そのまま促されて玄関をくぐると、豪華な広間があった。俺から見て正面に幅が広い階段があり、途中で左右に別れている。その空間に見入っているとダルシアが「こっちだ」と言って、右側の扉を開けて呼ぶ。


 扉をくぐた先には広くいくつものテーブルとイスがある部屋だった。


 「ここは皆の共有食堂だ。・・・さぁ、ここに座って話そう」


 そう言ってダルシアは窓から大通りが見えるテーブルに案内して座る。他の二人も同じように座るので、俺も座る。位置的に俺の正面にシルフィーが座り、その横にダルシア、俺の横にマチルダが座っている。


 「さて、兄さん。今回初めてのバーチャル・ダイブ・ゲームをプレイした訳だけども、感想はどうだい?」


 そう俺にダルシアが聞いて来る。


 「そうだなぁ、一言で言えば驚きの連続だな。俺が知るゲームはもう過去の遺物だと実感したよ。まぁ、でもお前たちに誘ってもらって俺は感謝している。はっきり言ってここまで色々な人に出会ってきたが楽しかった」


 「そうか、なら私たちも誘った甲斐があったというものだ」


 「それで、トラ兄はこれからどうするだ」


 「おいおい、この世界の俺はティーゲルだ。そう呼んでくれ。それがこういうゲームでの常識だろう」


 「確かに、そうだな。それでは改めてティーゲル君。私は【ヴァルハラ】所属の【ダルシア・ファミリー】のリーダーを務めているダルシアだ。交友の証に【パートナーズ・カード】を進呈しよう」


 ダルシアが芝居がかって自己紹介を始め、【パートナーズ・カード】を送ってくると、他の二人もそれに続く。


 「わたくしはシルフィーと申します。ダルシアと同じく【ヴァルハラ】に所属する者です、ダルシア・ファミリーの一員ですわ。わたくしからも【パートナーズ・カード】をお送りします」


 「あたしはマチルダっ! ダルシアのもとで戦闘の切り込みをさせてもらっている。ダルシアのファミリーにも加入しているし、【ヴァルハラ】にも参加している。よろしくなっ! ティーゲルっ! それと、これがあたしの【パートナーズ・カード】だ」


 三人の自己紹介が終わり、三つの【パートナーズ・カード】を受け取ると俺も姿勢を正して、自己紹介をが始める。


 「自己紹介をありがとう。すでに皆知っていると思うがティーゲルだ。まだ数時間の新参者だが、どうかよろしく頼む。そして、俺からも【パートナーズ・カード】を送らせてもらおう」


 と自己紹介を済ませ、三人に【パートナーズ・カード】を送る。三人はそれを受け取るとダルシアが「ああ、これからよろしく」と言ってきた。


 そして数十秒の間、沈黙すると全員が堪えきれずに笑いだす。


 「あはははっ! いや柄にもない事をしてしまったな。・・・さていいオチが入ったところで、兄さんに折り入って話がある。」


 笑い声をなんとか抑えた俺は一息吐くとダルシアに向き直る。


 「・・・なんだ改まって。俺でできる事なら可能な限り協力するが・・・。」


 俺がそう言うとダルシアは笑みを浮かべる。


 「それじゃぁ、兄さん。・・・私たちの【ヴァルハラ】に加入しないか?」


 と言い、笑みに妖艶な雰囲気を漂わせながら、その瞳は見定めた獲物は決して逃さないといった意思を俺は感じた。





 

 第五話、いかがでしたか?

 今回は前回に比べて少ないですが、丁度いい区切りがついたのでこのまま投稿させていただきました。

 また、誤字・脱字の報告や質問を心からお待ちしております。


 それとちょっとした報告なのですが、ついにブックマーク数が50を突破致しました。中々にうれしいものですね。なお、ブックマークをつけてくれた読者の皆様にはこの場で感謝を述べたいと思います。


 本当にありがとうございます。これからも気長に<訳あり元傭兵のVRMMO>をよろしくお願いいたします。


 次回は兄であるティーゲルを自分たちと同じ組織に誘う、深雪の思惑から始まります。楽しみにお待ちください。



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