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訳あり元傭兵のVRMMO  作者: 大佐
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第4話 姑息な悪事と懐かしき戦闘

 第四話を投稿しました。

 お楽しんでいただければ嬉しいです。

 南に位置する門の傍まで来た俺は、その巨大な門を見上げる。パリの凱旋門並みの大きさを誇り、門の両脇に古代ローマ兵に似た巨大な像が槍を持って凛々しく立っている。そして、その周りには外から来る者、外へ出ていく者、南通りと東西の通りから合流した人々で溢れていた。俺は活気に溢れたその様子を見ながら門の外に出る。


 門の外には外壁に沿って多くの人集りや露店が開いていた。アイテムを売っている者、武器の手入れを請け負っている者、知り合いと待ち合わせする者、道行く人に話かける者などがいった。俺はその中を人とぶつからない様に進んでいく。


 「森へ行くつもりの<パイオニア>たちよぉ~。今なら我々が森の地図を安く提供しよう!さっ!数量限定の品だっ!買ったっ!買ったっ!」


 そう大声で言う露店商人の言葉を聞き、俺は足を止める。もし、彼らの言葉が本当ならば未知の土地で地の利を得ることでき、様々な面で有利に行動できる。しかし、これまでの経験を踏まえて露店でそういう重要な物を大声で宣伝する、まして安い値段で売っているという事は偽物か劣化品の可能性があると感じたが、これはあくまでゲームなので、そこまでするメリットがないと考え直し、取り敢えず聞いてみる事にした。


 「少し見せてもらってもいいかな?」


 「おっ、お客さん目の付け所がいいねっ!もちろん、見てもらって結構っ!ほら。」


 そう店員が言うと、地図を開いて見せてくる。地図の名前は<平穏の森>と書いてあり、ウィンドー画面の左端上にある。地図は森の大まかな通りや広場、草や石のマークが通りから離れた位置にまばらに記されている。正確なものではないが、必要最低限な情報は載っていた。


 「・・・なるほど、信用はできるようだなぁ。それじゃ、貰えるかな?」


 「まいどっ!1000ゴールドになります。」


 そう店員が言うと、ウィンドー画面が出てきて<平穏の森の地図>と<1000G>を取引しますか?と書かれ<はい・いいえ>の選択肢が出る。


 俺が<はい>を選択しようとしたが、とっさに<いいえ>をタッチする。すると店員は不機嫌な顔をしながら「どうした?」と聞いてくる。


 「いや、すまないが持ち合わせが無くてなぁ。今度にするよ。」


 と俺が言うと店員は「ちっ!冷やかしかっ!」と言って踵を返す。俺はそんな店員を見ながら、少し離れた場所で彼らの露店の様子を窺う。数分間見ていたが、露店は多くの俺と同じ第二陣と思われる者たちが訪れ地図を買っていく。だが、数量限定にしては多くの客に提供しているので、違和感を覚え少し露店裏を覗くと複数人のプレイヤーが町と露店を往復し、何かを店員たちにウィンドー画面を開いて渡していった。それを見て俺は、門の傍に身を寄せ町に戻っていったプレイヤーが来るのを待つ。その間にチャットを使用してガンテに連絡を入れる。


 <・・・おうっ!ティーゲルかっ!どうしたっ?別れてから十分も経っていないじゃないか。>


 「親ッさん、突然で悪いが町で地図を無料で配っているヤツらいるだろ。そいつらはリリースの地図のみを配っているのか?」


 <なんだぁ、藪から棒にぃ~。まぁ、広場を中心に配られているのはリリースの地図だけだかぁ、確かギルドのほうじゃぁ、<平穏の森の地図>が配られていたはずだぜ。それも無料だからお前も外に行くならぁ、先にギルドへ行ったほうがいいぜ。しかし、お前今どこにいるんだぁ?>


 「・・・そうか。いや、ちょうど門を出たすぐ傍にいるんだが、そのギルドで配っているという地図を転売している露店を見つけてな。」


 と言うと親ッさんの陽気な声が一瞬にして真剣な声に変り<・・・・本当か?>と尋ねてくる。


 「ああ、今その地図をまた調達しに行ったと思われるプレイヤーが戻ってくるのを待っている。」


 <・・・・・ティーゲル、俺は今から運営にGMコールをして、知り合いに連絡を入れてから、人手を集めてそっちに向かう。お前はその調達係をひっ捕まえて証拠を押さえろっ。ただし、無茶はするなよ。>


 「わかった。こっちは任せろ。」そう言って俺はチャットを切り、門を行きかう人たちを監視して調達係を待ち伏せする。


 しばらくして、露店裏で見たプレイヤーの一人が町から戻ってきたので「おい、そこの君。」と言って呼び止める。


 「なんだ?」と言いながら、その調達係は俺のほうを見る。俺は「こっちに。」と通りから少し離した場所に誘導する。調達係のプレイヤーは露店のほうを気にしながらも俺についてくる。


 「単刀直入に言おう。君が町で・・いやギルドで調達した地図を俺に融通してくれないか?」


 調達係は驚いた顔をしたが、すぐに警戒心を露わにし後ずさる。「なんで俺が地図を持っていると?」と言ってこちらに探りを入れてくる。


 「そう警戒しないでくれ。俺はあくまで地図を融通してほしいだけだ。もし、融通してくれるのなら露店の倍の値段を払わせてもらう。」


 俺が得られる利益を提示すると調達係は、少し考え込み「・・・しかし・・・でも・・・なら」と呟いている。数十秒悩んだ結果、俺との交渉に乗ることを決めたらしく「わかった。地図を渡すから、言った金額をもらうぞ。」と言って<平穏の森の地図>と<2000G>を取引しますか?という画面が出てくる。


 「ああ、ありがとう。」と言いながら、俺は<はい>を選択した。すると<取引結果:平穏の森の地図>という画面が出てきて俺は手を横に振り閉じる。


 「それじゃ、取引ついでにもう一ついいかな?」と俺が言うと、調達係は「なんだっ?」と言うが何やらそわそわしながら聞き返してくる。俺は「耳を。」と言って調達係を誘い、顔を近づけさせたその瞬間。


 「えっ?」という間の抜けた声を出す調達係の腕を右手で掴み、背中に捻りあげて左手で頭を地面に押さえつけて組み伏せる。


 「いただだだっ!この野郎っ!何しやがるっ!ふざけてんじゃねぞっ!」


 「何、不正の現行犯で取り押さえただけだ。おとなしくしていれば痛くしないさぁ。だがもし、暴れるのなら。」


 そう言って、調達係の腕をもう少し捻ると「痛いっ!痛いっ!わかったっ!抵抗しないからっ!」と言って叫ぶ。そうして証人と証拠を押さえた俺は、腕を捻った状態の背中に座りガンテの到着を待つ。時おり、もがく調達係の頭を地面に押し付ける事でおとなしくさせながら。


 そう待ちながら数分、門からガンテが複数人の集団で出てきたので「お~い!ガンテっ!」と呼ぶ。するとガンテが止まって周りを見るので、もう一度「こっちだっ!こっちっ!」と呼んで俺に気づかせる。


 「おっ!ティーゲル!どうだっ、町に行った奴らは帰ってきたかっ?」


 「ああ、この通り。証拠の地図も手に入れている。」


 そう下敷きにしている調達係を指差しながえら言う。それを見たガンテは「おおっ!そいつは上々だっ!」と言って俺の肩をたたく。そして、調達係を一緒に連れてきたプレイヤ―たちに引き渡す。


 「それじゃぁ、今すぐその露店に向かいたい所だが、少し待ってくれ。合流しなきゃならん連中がいる。」


 「分かった。」と俺が言うと、ガンテは門の傍に歩いていくのでその後についていく。しばらくして、門から見覚えがある人物が出てくる。その人物にガンテは「ハヤテ坊っ!」と言う。すると止まって周りを見渡してこちらを見つけて近づいて来る。


 「ガンテっ!例の露店はどこだ。」と言いながら来るプレイヤーを見て俺は、どこで見たかを思い出した。広場でリリースの地図を渡してくれたあの青年だった。そして、そのプレイヤーは俺にも気づいた。


 「おおっ、あんたはっ!よかったっ、名前を聞くのを忘れていたから気になっていたんだ。それじゃ、改めて自己紹介をしよう。俺は<ハヤテ>だっ!ガンテからはハヤテ坊と呼ばれているが、ハヤテと普通に呼んでくれるとうれしいなっ。」


 「分かった、俺はティーゲルだ。よろしくなハヤテ。」と言って手を差し出す。するとハヤテは笑顔で「ああ、よろしくティーゲル。」と手を出して握手してくれた。そんな俺たちにガンテが「よしっ!挨拶も済んだところで本題に入ってもいいか?」と聞いてくる。俺たちはそれぞれ頷く。


 「それじゃ、確認だ。俺たちが集まったのは、ここにいるティーゲルからギルドで無料配布されている地図が転売されているという情報を貰ったので、その摘発のためにきた。その道中でハヤテたちに連絡を入れてきたはずなんだが、ハヤテ他の連中はどうした?」


 「お前から人手を集めるように言われた後、行こうとした際にギルドが近かったからついでと思って調べてきたんだが、その時に丁度例の連中と思われる奴らいたからそいつらを運営と共に捕まえていた。集まった人手はその場の事後処理の手伝いとして置いてきた。しばらくすれば、運営と一緒にくるはずだ。」


 「分かった。まぁ、ここにいる俺らだけでも対応できると思うが、それとも、後続が来るまでここで待つか?」


 「いや、調達係をを捕まえてから時間が経っている。あまり悠長にしていると露店の連中が調達係が居なくなったことに気づいて身を潜めかねない。とりあえずは露店に行って連中を足止めするべきだ。」


 「そうだなぁ、俺はティーゲルの提案に賛成だ。ハヤテはどうだ?」


 そう言うガンテに、ハヤテは「ああ、俺もそう思う。」と賛同してくれたので、俺たちは露店に向かうことにした。


 露店の場所に来ると、相変わらず多くの客がいたが店員が声を張り上げて「地図の在庫が無くなったのでっ、今出ているのが最後になりますっ!」と店仕舞いを進めている。俺は店に近づき、俺の対応をした店員を見つけ「おい。」と話かける。


 「んっ、なんださっきの冷やかしかっ。悪いがもう品切れだ。帰ったっ!帰ったっ!」


 と不機嫌な顔を隠さずに俺を追い払おうとしてくる。


 「いや、今回は買い物に来たわけじゃない。」と言うと、「それじゃぁ、何しに来たっ。」と睨んでくるので、その場をガンテとハヤテに譲るとガンテが代表して話し始める。


 「てめぇらが無料配布されてる地図を転売して、初心者から金を巻き上げてる事はすでにわかってんだ!おとなしく捕まるか、もし抵抗するって言うってんならすこ~し痛い目にあってもらうぞっ!」


 そうガンテが怒り心頭の声で最終勧告ともとれる言葉を言い終わると、露店の店員たちは少し困惑した顔を浮かべているが、俺を対応した奴だけは薄ら笑いをしているので俺はこいつが元締めで主犯格だと感じた。すると元締めがガンテに「面白れぇことを言うなぁ。俺たちがインチキした証拠でもあるのか?」と笑いながら言ってくる。ガンテは俺を見て首で前へ出るよう促したので、それに従い、証拠の地図を出して元締めに突きつける。


 「この地図はお前たちの露店で売られている物と同じだが、ギルドで手に入れた物だ。しかも、これの調達を担当していたプレイヤーたちは町で確保している。もう、洗いざらい話している頃だと思うが、まだ白を切るか?」


 俺がそう言うと、元締めは「ちっ!」と舌打ちをして苦虫を噛み潰した顔をする。そして、露店の周りにいた地図を買った者たちが「どういうことだっ!」「金を返せっ!」と怒りを露わにする。すると・・・


 「ほらっ、言ったじゃないすっか!」


 「町に行った連中が戻ってこなかった時点で、とんずらすればよかったんだ!」


 と露店の者たちが小さく文句を言い始める。そんな状況で元締めが「うるさい!黙れ!」と叫ぶ。


 「確かにっ、転売はしたっ!だが、しちゃいけないなんてルールはないだろうがっ!」


 そう大声で言い、自分たちの正当性を主張する。それに対し、ガンテは呆れた表情で「無料のもので金を取っている時点で非常識だろう。」と溜め息をはきながら言う。


 「それにお前たちはすでに運営とAIに監視さているはずだ。もうダイブアウトもできなくなっているんじゃないか?」


 とガンテがそう言うと、露店の連中が急いで手を縦に振ってるが一向に何も出てこない。「ちくしょっ!どうなってんだっ!」「おい、どうしてくれんだっ!」と慌てふためきながら、次第に元締めへ怒りをぶつけ始める。


 そんな仲間割れの様子を見ていると、俺たちの後ろから「すいませ~ん、通してください。」と言いながら人集りを割ってくる人がいった。その人を見てガンテが「おお、サユリ嬢ちゃん!」と笑顔で迎える。


 サユリと呼ばれた女性は、テルより高い170ぐらいの身長に、スリムな体格で、両耳の前にあるおさげが特徴の肩まであるストレートな髪、そしてラフな服にスカートをはいた格好にローブを纏った姿だった。


 「これはこれはぁ~、どうもご無沙汰していますガンテさん。それでGMコールの対応に来たわけですが、件の人たちはどこですか~?」


 サユリのゆっくりな言葉に、ガンテが「ほら、あれだ。」と言い争いが激化した露店を指差す。それを見てサユリは「わかりました。それではお任せくださぁ~い。」と言いながら露店に近づく。


 「え~、すいませ~ん。お話をよろしいですかぁ~?」


 と言うものの露店の連中は言い争いに夢中になって聞こえていない。それを見かねたのか、ガンテが「おいっ!聞かねぇかっ!」と大音量の怒号を響かせる、その場にいる全員が凍り付いた。俺はとっさに耳を塞ぐことで回避している。その場の全員がこちらに意識を向けた事を確認したのか、サユリが「それでは話をさせてもらっていぃ~ですか?」と言う。


 「え~、私は<D・L・O>運営員の一人、<サユリ>と申します。今回はあなた方が行った<平穏の森の地図>を転売し、不正に第二陣のプレイヤーの皆様からお金を徴収したという事でしたので、我々運営はあなた方の行動を迷惑行為と不正行為の両方として断定し、現場を押さえる為にダイブアウトを凍結させていただきました。ここまでの対応に何か質問はあります?」


 「いっ、いくら、非常識なことをしたからってダイブ機能を操作するのはやりすぎじゃないのかっ!」


 「それは~、あなた方が素直に罪を認めて我々に従ってくれるとは思えないうえ、ダイブアウトで逃亡する可能性があったからです。実際にあなたはこちらのガンテさんに問い詰められた時、白を切っていましたね。その様子はAIが録画をしているのでごまかせませんよ。」


 そう言われた元締めは「くっ!」と悪態をつく。


 「それでですねぇ~、あなた方には制裁として半年間のユーザーアカウントの凍結を行います。また、地図の確保を行っていたお仲間は全員が第二陣の方々でしたので厳重注意としました。」


 「なっ、なんでそいつらだけ特別扱いなんだっ!納得がいかないぞっ!」


 そう食って掛かる元締めとそれに同調する取り巻きに、サユリは呆れた顔をして答える。


 「ここにいるあなた方は第一陣のプレイヤーなんですから、この世界での常識が身について当然であり、何よりあなた方は前にも他の方々からGMコールされている前科がありますね。今回の制裁はそれも考慮した結果です。それと凍結が解除されて活動を再開した瞬間からAIによる常時監視が行われますので、ご了承ください。また次に問題を起こした場合は勧告なしに強制ダイブアウトをした後、アカウントの削除を行います。」


 そう言われた露店の連中は意気消沈した表情を全員が浮かべている。するとサユリは耳に手をあて出てきた画面を操作し、二三話すと手を下ろし閉じる。その瞬間、元締めと取り巻きたちが青い光りを纏って消える。強制ダイブアウトされたのだろう。そして、サユリは俺たちに向き直り「ご協力、ありがとうございました。」と頭をさげる。


 「いやいや、俺はティーゲルに言われて今回のことに気づいたんだ。礼を言うんなら、ティーゲルに言ってやってくれ。」


 とガンテは俺の肩に手を置きながら言う。それにハヤテも「ああ、俺もそう思う。」と笑顔で賛同する。


 「ええ、分かっていますよ~。ティーゲルさんには後日改めて感謝状などをお送りしますから~。それに解決に協力したガンテさんやハヤテさん、他の皆様にも何かしらのお礼があると思いますよ~。」


 サユリは笑顔を浮かべてそう言う。そして、サユリは「それでは、これで失礼しますねぇ~。」と言ってダイブアウトしていた。それを見送ると周りにいた大勢のプレイヤ―は次第にその場を離れていく。


 「それじゃぁ、色々とあったが一件落着という事で解散するかぁ。またなぁ、ティーゲル、ハヤテ坊。」


 「ああ、またなガンテ。・・・さて、俺も戻って広場で依頼の続きをするかなぁ。じゃなぁティーゲル、また会おうぜ。今度はゆっくり町を案内したり、分からない事を教えてやるよ。」


 と言ってガンテとハヤテは町に戻って行くので、それを見送る。


 ガンテたちの姿が見えなくなったので、俺は当初の目的である<平穏の森>に行って、この世界での戦闘を経験しようと歩き出す。その途中で装備画面を出して、証拠として手に入れた地図を出そうとアイテム項目をタッチしようとした時、武装の覧に武器が装備されていない事に気づき急いで装備する。それが済むと改めてアイテム項目をタッチし地図を出す。そして、リリースの地図と同様に開くと消え、<平穏の森のマップが更新されました。>とウィンドー画面が出てきたので閉じる。そして、森の入り口前に着いたので一応警戒しながら、森へ入っていく。


 森の中に入って数分、開けた通りに沿って進むが今の所は何かに遭遇することもないので、一旦止まり地図を開く。現在位置はちょうど森にある一つ目の広場の手前に矢印風に表示されている。その俺の横に少し離れた位置に草の採取マークがあったので、ついでに取ろうとその場所に行く。


 「う~ん、ここら辺だったと思うんだが。」


 地図で見たあたりに来たが、それらしきものがわからないので周りを見渡していると光る草が目に映ったので近づくと<鑑定結果:回復草>と表示された。


 「ほぉ~、スキルは常時発動しているのか。これは便利だな。」


 と感心しながら、回復草を回収しようと片膝を曲げるが採取道具がない事に気づき、何か代わりになるものを探していると腰に剣と斧があったので、剣を鞘から抜いて回復草を中心に周りの土に刺していき、最後に剣の腹を台にして掘り出す。


 <採取物:回復草(品質:A)、HPを回復する効果がある。丁寧に採取されているので品質が高い。>そう書かれたウィンドー画面が出てきて、下に<収納>と表示されているのでそれをタッチすると画面が消える。


 他にも採取できる物があったので回収していく。結果、<回復草×5、魔力草×3、石×6、アオノ実×2、砥石×3>となった。<魔力草>はMPを回復する薬の材料、<アオノ実>はHPを少量回復する木の実と説明された。草の品質はどれもAだったが、他のはC・Dが多かった。


 採取は順調だが一向に何かしらの生物と出会っていなので、肝心の戦闘ができないでいる。もう少し奥に行ってみようかと考えていたその時、後ろでガサッと草むらが音をたてたので息を潜めて近づくと白く丸い毛玉がいた。


 「なんだこれは?」と思い近づこうとしたが、よく見ると何かひくひく動いている部分が見えた。草むらに身を隠し観察すると毛玉がピョッンという擬音がつきそうなジャンプをした。俺は瞬時に装備画面のアイテムから石を取り出して投げつける。するとふっわふわの白い毛に当たる瞬間、鋭い無数のトゲとなり石を弾く。


 「迂闊に手を出すと、ただじゃすまないなぁ。・・・よしっ!」


 俺は意気込んでもう一度石を投げつける。そして、先ほどと同様に毛がトゲになった瞬間を見逃さず、素早く腰にある斧をひくひく動いていた部分に投げつける。すると石を弾いた事で気が緩んだのか、トゲが一瞬元に戻る。しかし石の後に飛んできた斧にようやく気づいたのか、もう一度トゲにしようとするが間に合わず、斧が当たる。


 それを確認して、草むらから出てそいつに近づく。斧が当たった所から血を流し続けているそれは、<ニードルラビット>と表示された。


 <ニードルラビット:白くふわふわな毛に丸く覆われたウサギだが、その見た目とは裏腹に脅威を感じると毛を鉄並みに硬く鋭いトゲに変化させるので、見た目に騙されてケガを負う者が多い。しかし、基本的に大人しく寝ているか、食事をしている。その素材は耐寒に定評がある毛皮や時おり手に入るトゲの毛皮がある。食材として肉が手に入るが、若干の臭みがあるので処理が必要。>


 そんな説明を読んだ後、ニードルラビットを仰向けにして体の中心線に沿って剣で切り、皮と肉の間に剣を入れて毛皮を剝がしていく。剥がし終わった後<ニードルラビットの毛皮、ニードルラビットの肉>という表示とその説明の画面が出てきたので<収納>をタッチして閉じる。ちなみに、仕留めた直後に血が出ていたが解体中にポリゴン風に霧散した。


 事を済んだので立ち上がると、こちらに向く複数の気配を感じて俺は動きを止める。


 その気配は強いて言えば懐かしいもの。そうとても懐かしく、それでいて慣れ親しんだ、ついこの間までその気配に囲まれて生きていた事が鮮明に思い出せるほど、記憶の隅々に刻まれたもの。そして、それに一瞬でも気を許した時、自分の全てが失われると覚悟しなければならない、大切で忘れる事ができないもの。・・・・〝殺意〟や〝殺気〟と呼ばれる気配。


 「懐かしいなぁ、この感覚。この張りつめた空気。ついこの間まで日常の事として当たり前に感じていた!」


 そう静かに言い終わると、それを見計らった様に俺の周りを4頭の狼が出てくる。4頭は「グルルルッ!」と今にも襲い掛かってこようと姿勢を低く構える。俺は両手に剣と斧を持ち構える、すると俺の前に陣取るひときわ大きい狼が飛び掛かってくる。


 まず、俺は正面の狼の攻撃を左前に体を逸らすことで回避し後ろに回る。リーダーの攻撃を合図に回りの3頭も襲いに来たので、最初に右にいる狼の顎下を剣の柄で強打して弾き返す、次に左にいる狼を左手の斧で丁度目の位置を攻撃、そして俺の正面から来ている狼の腹へ右手の剣を投げつける。


 剣と斧が刺さった2頭は血を流しながら痙攣していたが、次第に動きが鈍くなり息絶える。瞬時に配下を2頭失ったリーダーの狼はこちらに憎悪が宿った眼を向けてくる。


 そして俺が右足を後ろに引くと、それを合図にもう一度リーダーの狼が飛び掛かってくる。俺はそれにあえて突っ込み、途中で投げた剣を乱暴に死体から回収し、飛び掛かってくる狼の下に滑り込む。その際に剣を縦にして狼の腹へと突き刺す。しばらく狼は暴れて俺に攻撃をしようとするが、それを左腕も使って押さえて剣を深く刺しこむ。すると暴れていた狼が次第に大人しくなり息絶える。その後、狼の下から這い出るとリーダーを失って逃げていく手下の狼の後ろ姿が見えた。


 しばらく、息を整えて座っていたが倒した狼の解体をするために立ち上がる。結果、<ウルフの皮×2、ウルフの肉×2、ラージウルフの皮×2、ラージウルフの肉×2、骨×4、魔力石×1>が獲れた。ラージウルフはリーダーだった俺と同じか、一回り大きい狼のことだった。そして、その狼から<魔力石>が出てきたので、それを確認しようと装備画面を出したが、ふっと時間を見ると11時半過ぎと表示されていた。


 「やばいっ!」と思わず口から出て、急いで地図を出して現在位置を確認し、リリースの町の方角も確認してその方向に猛然と走る。


 


 


 

 第四話、いかがでしたか?

 またも物語にぶっつけ本番の話を割り込んだことで長くなりました。そのため、誤字・脱字の見落としがある可能性が高く、読者の皆様のお知らせと感想をいつも以上にお待ちしています。


 第五話はついに寅尾の妹たちが登場しますので、楽しみにしてお待ちください。

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