第19話 すれ違う兄妹と新装備と鬼酒での団欒
大変お待たせしました、第19話の投稿です。
楽しんで頂ければ、幸いです。
【魔女の鍋】の外に出た俺は、背伸びをして体をほぐす。
「さて、決まっていた用事は済んだが、これからどうするか・・・。あ、オニメに顔を見せに行かなきゃならんな」
次の目的が決まった俺は、足を【鬼酒】の方へと向けて歩きだす。
ティーゲルが出て行って数分後、【魔女の鍋】の入口が開く。そこには、ガーネット色の長髪にスーツの様な男装をした女性が居た。
「ダルシア、どうしたの?」
現れたのはティーゲルの妹にして、第一陣のトッププレイヤーに数えられる【ダルシア・ファミリー】のリーダーであるダルシアだった。
「久しぶりだな、マヤ。元気で何よりだ」
「うん、元気。特に今日は気分が良い」
そう言う彼女の顔は、無表情のままだがダルシアはそんな彼女を見て驚き、笑みを浮かべる。
「確かに、そのようだね。マヤがそこまでの笑顔を見せるのは珍しい。何があったんだい?」
「・・初めてのお客さんが来た」
「それは良かった。なら、今回はマヤの愚痴を聞かないで済みそうだね」
「そんなに、こぼしていたの?」
「さすがに、毎回ではないわね。でも、マヤは愚痴をこぼし続けるものだから、私を含めて多くの者が、どれだけ心配していた事か」
「それは・・・、ごめんなさい」
「フフッ、別に怒っているわけじゃ無いから、安心して。しかし、本当に良かったよ。これを機に繁盛すれば、文句無しだね」
「うん、がんばる。・・・それで、あなたが来たって事は急用?」
マヤが本題に話を移すと、ダルシアは真剣な顔になった。
「ああ、そうだ。・・・マヤ、君の力がいる。また一緒に戦ってくれないか?」
「・・・今度の相手は何?」
「ジャック・・・、【首狩りジャック】」
ダルシアがそう言うと、マヤは驚いた顔を浮かべて、すぐに険しい顔と変える。
「・・・・あいつが、活動を再開したの?」
「第二陣がこの世界に来るのと同時に姿を見せ始めた様だ」
「・・私を呼ぶって事は、潜伏場所が分かっているの?」
「ああ、だからこうして君を呼びに来たんだ。私も君もあいつに借りがあるからね」
「すぐに準備する。待ってて」
そう言ってマヤは奥へと行き、それを見送ったダルシアは商品棚に目を移す。
入れ違いでダルシアがマヤに会っている頃、ティーゲルは行きつけの食事処であり、住まわせてもらっている【鬼酒】に到着していた。
「オニメ~、いるか?」
と言いながら扉を開いて入ると、視界いっぱいにフライパンが飛んできた。そして、そのフライパンは油断していた俺の顔面に直撃して落ちる。
「・・・・・どういう事か説明してもらえるか、オニメ?」
突然の出来事に俺は戸惑う事無く、冷静にフライパンを投げた張本人と思われるオニメへと問いかける。
「別に~、せっかく部屋を貸してあげているのに、ほとんど居ない事に不満を溜めている訳ではないよ」
そう言う彼女の顔は笑顔を浮かべているが、不機嫌であることは分かる。というか彼女の後ろに般若の幻影が見える。・・・俺はついに幻覚まで見えるようになった様だ。ってそんな事を悠長に思っている場合じゃない。とりあえずは、オニメに謝らなければ。
「それは、すまなかった。確かに、無理を言って部屋を借りているのに、使っていないのは借主であるオニメに失礼だった」
そう言って俺は頭を下げる。すると、「フフフ、あはははっ!」と急にオニメが笑いだした。
「何が、そんなに可笑しいだ?」
「いやぁ~、すまないね。別にアンタを笑っている訳じゃないんだよ。あははっ、まさか真面目に謝罪してくるとは、思っていなくてね」
まだ、笑いが収まらない中でそう弁明するオニメ。
「それだけ、お前さんの顔が真剣に見えたんだが・・・」
「まぁ、不満があったのは本当だからねぇ。でも、ちょっとしたじゃれ合いのつもりで、わざと怒ったように言ったんだよ」
「なら、せめてフライパンは投げないでくれ。これのおかげで冗談に感じなかった」
そう言いながら、俺は足元に落ちたフライパンを拾ってオニメのいるカウンターへと進み、フライパンを渡す。
「すまないねぇ、アンタなら避けれると思っていたもんだから。つい、ね」
彼女の言葉を聞きながら、カウンターの椅子に座るとオニメは立ち上がって俺の顔に自身の両手を添えてくる。
「それにしても、うめき声の一つでも上げたらどうだい? まさか痛みを感じない訳じゃないだろう」
添えた両手で俺の顔を動かしながら見て、そう言うと両手を離す。
「痛いことは痛いが、こういった痛みには慣れてしまったのでね」
俺はオニメの質問に、両肩を少しだけ上下に動かして答える。
「フフフ、そうかい。・・・ちょうど昼だね、お詫びに今回の料理は食材から調理までアタイがやってあげるよ」
時間を確認してそう言うオニメは奥に行く。
「別に、食材ならいつも通りに提供できるが?」
「お詫びって言ったろう。細かいこと気にしてないで、そこに座って待ってな」
仕方ないので、持ち物や装備の確認をしながらオニメを待つことにしよう。
数分経った頃、奥から薄らっと香ばしい匂いが漂ってくる。その匂いに気づき俺はウィンドー画面を閉じて顔を上げる。すると、タイミングよく奥からオニメが皿を両手に持った姿で戻って来た。
「ほら、できたよ。今回は久々に仕入れた魚を使ってみた」
そう言って出された皿には、焼き魚に少し焦げ目の付いた野菜が添えてあった。
【川魚の塩焼き(焼き野菜付き)】:川魚と野菜をシンプルに塩焼きした一品。食べるとHP・MPの継続回復効果が付与される(10分)。と鑑定の結果に書かれていた。そんな俺の前でオニメは自分の分の皿を置いて座る。そして、カウンターの引き出しからフォークとナイフを二人分取り出して渡してくれた。
「それじゃ、食べようか。いただきます」
オニメの後に続き、俺も「いただきます」と言って食べ始める。・・・・・美味い、その一言に尽きる。
その後、10分ぐらいで食べ終えた俺は、フォークとナイフを置いて「ごちそうさま」と言った。
「はい、粗末さま。しかし、いつ見ても良い食べっぷりだねぇ」
そう言いながら、オニメは皿を奥へと持っていく。しかし、すぐに戻ってきて棚からコップを二つ出して水を注ぐとカウンターに置くとまた座る。
「それで、また出かけるのかい?」
「いや、一旦ダイブアウトしようと思う。だから、部屋をまた貸してくれないか?」
「ああ、いいよ。というか、アンタが使っていた部屋はそのままだよ」
「そうか、あまり居ないのにすまないな。・・そういえば、オニメもダイブアウトしなくていいのか?」
「私はさっきダイブインしたばかりだから、大丈夫だよ。それに昼食も済ませてるからね」
「そうなのか、なら余計な心配だったな。それじゃ、部屋に行くよ。また後でな、オニメ」
「ああ、またあとでね。ティーゲル」
そういった感じでオニメと一階で別れ、階段をのぼって二階の部屋と入る。以前来た時と変わらない間取りの部屋を見回してから、ベットの方へと移動して横になる。そして、ダイブアウトする。
ダイブアウトした後、現実での昼食やその他もろもろの用事も済ませてから【D・L・O】へと戻る。
目を開けて上半身を起こすとベットから降りて立ち上がり、部屋を出て一階に向かう。
「おや、早かったねぇ」
「用事は済ませたからな」
「そうかい。それで、また出かけるのかい?」
「ああ、武器が思いのほか損耗していてな。鍛冶屋に行ってくる」
「なら、気を付けていってくるんだよ」
「何に気をつけろと言うんだ?」
「だから、細かいことは気にしないで、そういう時はただいってきますとでも言えばいいんだよ」
「・・・そうだな。それじゃ、行ってくる」
「ああ、いってらしゃい」
オニメの見送りを受けて、俺は鍛冶屋の悪む・・じゃなかった、鍛冶屋のカブキの所へ向かう事になった。
とりあえずは、南の大通りに出てガンテの店がある方角に行くことにしよう。その近くにカブキの鍛冶屋をあったはずだ。
・・・ガンテの店の前までは行き、立ち寄って挨拶をしたまでは良かったんだが、そこから細道に入って鍛冶屋を探しているさなかで危うく迷子になりそうになった。相変わらず、街中の道は入り組んでいる。
まぁ、それも目当ての場所を見つけられたからよしとしよう。・・ただ、その場所に〝チャイナ服を着た巨漢〟が客と思われる男性プレイヤ―を締め上げているという現場が無ければ、こんな心境にならずにカブキと再会できたと思わずにはいられない。
「さぁ。もう一度、言って見なさいッ!」
そう言って腕に力を入れて、さらに締め上げるカブキ。ちなみに締め上げられている相手は、あと少しで意識が落ちそうな顔をしている。見ていてもあれなので、カブキに声をかける。
「カブキ、久しぶりだな」
「あらぁ~、ティーゲルじゃない。数日ぶりねぇ~。今日はぁ、どうしたのよぉ?」
「武器の修復を頼みに来たんだが、取り込み中の様だし時間を置いた方がいいか?」
「まさかぁ、構わないわよぉ~。別に大した事じゃないからぁ、店に入って」
締め上げていたプレイヤーを放り投げて、俺を店に誘導する。・・・・・相手を怒らせたなら、締め上げられても文句は言えないと思うが、建物の壁に打ち付けられて、顔面から地面に落ちた彼は、はっきり言って気の毒な姿だった。
「それでぇ、あなたの武器って言ったら、あの飢狼シリーズ?」
「そうだ。だいぶ損耗したから修復を頼む」
そう言って俺は、画面を操作してロングソードとグレートアックスを装備から外して実体化させる。そして、作業台と思われる台に置く。すると、カブキはそれぞれ手に取って観察する。
「・・・だいぶ酷使したわねぇ。壊れる寸前よ、これ」
そんな風に、武器の損耗具合から呆れられた。まぁ、切ったり、刺したり、投げたりと酷使した覚えはかろうじてある。
そんな事を思っていると、カブキがエプロン型の作業着を身に着けて修復を始める。
作業開始から十分弱ほど、カンッ!、カンッ!、カンッ!と鉄を打つ音を聞きながら、俺は壁やタル、棚に置かれている商品を眺めている。
剣や斧、ナイフ、槍、ハンマーといった近接武器が主に置かれている。盾や鎧なども置かれているが、武器の数より少ない。ただ、その中で特に俺の興味を引いた物が、店の隅っこに立てかけてあった。
それは先端に縦に割れた30センチほどの筒状の物が溶接され、その後ろに横にした弓が組み込まれた銃身があり、持ちての方はライフルの様になっている。俗に言うボウガンだった。しかし、俺が知っているボウガンとは、ほんとんど似ておらず、全体がある程度のスマートな形状になっているが、全長は俺の腰あたりまである大型だ。また、所々から内部の歯車が見える機械仕掛けの姿だった。
そんな変わったボウガンをじっくり見ていると、後ろから声をかけられた。
「ティーゲルちゃん~、おわったわよぉ~ん。なにを見ているのぉ?」
「なに、終わるまで商品を見せてもらっていた」
「そうぉ。で、何かお気に召すの物はあったかしらぁ?」
「残念ながら、近接武器は今の装備で間に合っているから、めぼしい物はなかったな。・・・ちなみに聞くが、このボウガンは非売品なのか?」
「ああ、それは弓矢に代わる武器として作られたボウガンを、弦の引き絞りを機械仕掛けにすることで威力向上を目指した試作品よぉ。売り物ではないわねぇ~」
「そうか、使えそうなんで買えるなら、買いたかったんだけどな」
「まぁ、使えるには使えるわよぉ。目的の威力向上はできたしぃ、射程の拡大や命中率の向上という副産物もあったわぁ。でもねぇ、見ての通り図体そのものが大きくなってしまったせいで、後衛のプレイヤーには重量オーバーで扱えない。何より魔術という効率と使い勝手が良い遠距離攻撃があるから興味を持つプレイヤーがまったく居ないのよねぇ。それなら前衛プレイヤーに持たせるという案も考えられたんだけどぉ、そもそも前衛は近接武器を持っているから必要がないうえに、矢の装填は一発一発込める手動式だから、逆に弓矢よりも面倒くさい無用の長物になってしまったわぁ」
「それは・・・、散々な言われようだな」
「ええ。結局、ボウガンと言うよりも携帯式の小型バリスタの様な物になったから、その一つを完成させただけで強化計画は終了ぉ。発案者のプレイヤーから「あげるよ」の一言で押し付けられて、そのままぁ」
「なら、カブキも要らないと思っているのか?」
俺はボウガンを持ち上げながら、カブキにそう聞く。・・う~ん、大型のミサイルランチャー並みの重さはあるなぁ。確かに、これは後衛プレイヤーにはお荷物だな。そんな事を思いながら、すぐに元の場所に置く。
「そうねぇ~、要らないと言えば要らないわぁ。そろそろ解体してしまうかと思っていたしねぇ。っていうかあなた、持ち上げられるのねぇ」
「まぁ、なんとかな。・・しかし、それなら俺に譲ってくれないか?」
「えっ? ・・いいけど、かなり使い勝手が悪いわよぉ?」
「承知の上さぁ。それに要は運用を間違えなければ、それなり活躍してくれると思うぞ」
「・・・分かったわぁ、譲ってあげる。どうせ、買い手どころか貰い手すら今後現れるのか怪しいもんねぇ。でもそれなら、矢玉が必要になるでしょうからぁ、私が作ってあげる。補充がいる時はいつでも来なさいねぇ」
「助かる。それじゃ、代金のほうを払うとしよう」
そう言って、俺は作業台の方へと行き、置かれた武器に触れると<支払い代金:3000G>という画面が表示されたので、慣れた手つきで支払いを済ませる。
支払いが済んだタイミングで、カブキがボウガンを持ってきて台に乗せた。その隣に今度は背負いカゴを置き、中から金属製の矢を取り出した。・・矢も結構な大きさをしているな。
「とりあえずは、今のところ渡せる矢はこの8本だけねぇ。後は作るしかないわぁ」
「そうか。まぁ、8本もあれば当分は大丈夫だろう」
「なら、渡す前に装填と弦の引く方法を教えましょうかぁ。まずはぁ、弦がつながっている取っ手があるでしょぉ。それを引っ張ってぇ」
カブキの言う通り、弦がつながっている部品にレバーの様な取っ手が銃身の上にある。それを後ろへと引き始めると弦が後ろに伸びる。60センチほど後ろへレバーを引くと<ガッチン!>と音が鳴り、それ以上は下がらなくなった。
「それじゃぁ、次は矢の装填ねぇ。銃身に溝があるでしょ?」
そう言われて、銃身を見るとほとんどが木造であるのに上部の真ん中に幅7センチ、長さ50センチほどの金属部分があった。そこを指でなぞると、二つに割れて沈み、指を抜くと元の形に戻る。どうやら、開閉ができる金属板が組み込まれている様だ。それを見たカブキが説明を続ける。
「そこに矢を入れるのよぉ。押し込まなくても矢の重さで入るようになっているわぁ」
「なるほど、結構な量のギミックだな」
「ええ、作るのに苦労したわぁ。おかけで、それも扱いずらさの要因になっているのよねぇ」
とカブキはため息を吐く。・・・というか、俺の後ろで俺の手にカブキの手を合わせて、手取り足取り教えられているので、ため息が首にかかって鳥肌ができた。
「それじゃ、1回だけ引き金を引いてみてもらっていい? 一応、部品や銃身の状態が万全かどうか、確かめたいからぁ」
重ねた手を離して、一旦離れたカブキにそう言われてので「分かった」と言って、俺は引き金を引くために構える。そして、引き金を引いた瞬間に空気を切り裂く様な音と大きく響き、小さいながらも衝撃が腕を伝って体に響いてきた。
引き金を引いた感想としては、持って使うのではなく、何かに固定して使った方がよさそうだ。
「すごい音だな・・。この音だけでどれだけ強く引き絞ってあるのかが分かる」
「さっきも言ったけど、威力に関しては自信をもって保証するわぁ」
ものすごく見たくないウインクを受け流しながら、ボウガンを台に戻すと台の向こう側に行ったカブキが画面を出して操作し、終わると「準備、終わったわよぉ~ん」と笑顔で言う。
目の前の笑顔に苦笑いを返しながら、再度ボウガンに触れると画面が出てくる。
<引き渡し装備:【試作型マシン・ボウガン】>
<引き渡しアイテム:【金属矢(マシン・ボウガン専用)】>
「・・金は払わなくていいのか?」
「別にいいわよぉ。持て余していた物を引き取ってくれるって言うのだからぁ、こっちとしてはありがたい限りよぉ。まぁ、サービスとでも思っておきなさい」
「分かった、ご厚意に甘えてありがたく受け取ろう」
そう言って画面を操作して受け取る。それを見て、カブキは「素直でよろしい」と言う
「ただし、矢だけは今度からキッチリと料金をもらうわよぉ」
「ああ、もちろんだ。その時は、原材料も持ってくるよ」
「いいわよぉ。なら、その時は値段を抑えてあげる」
こうして俺は、武器の修復と新装備の調達をした。店を後にしようした時にハグされそうになったので、なんとか回避して逃げる様に賑やか?に出て行った。・・その時の心境は、恐ろしいの一言に尽きる。
「そういえば彼の防具、以前に見た時と変わっていなかった様に見えたけど・・・。まさか、ねぇ」
そうして【生産街】の右町から南の大通りに戻った俺は、次にギルドへ立ち寄ってみる事にした。
しばらくして、南の大通りを北にさかのぼって【ギルド街】へと辿り着き、俺はギルドに入る。中は相変わらず多くのプレイヤーが居て、依頼の掲示板を見ていたり、アイテムを買っていたり、仲間同士で話してたりする。
俺は迷わずに依頼の掲示板を見に行く。討伐から採取、護衛など様々な依頼がある。中にはPVPの相手を募集するものまであったが、これは依頼として出す必要があるのだろうか?
とりあえずは、討伐ものから順番に見て今の俺にあった依頼が無いか確認する。その中であったのが、【トツゲキグマ討伐】だ。
内容は【背伸び草原】に生息するトツゲキグマを討伐するという特に変わったものではなかったが、そろそろ【平穏の森】以外の所に行きたかったので、この依頼を受けよう。
依頼を受注したら、すぐにギルドを出て生産街の鬼酒へと戻る。
「あら、お帰り。何か忘れものかい?」
「いや、大体の用事が終わったから戻って来たんだ。今日は、ちゃんと部屋に泊まる」
「そうかい。・・・3時半か、まだ夕食には早いね。ちょうど良いからお茶でも飲みながら、お前さんの話でも聞こうかね」
そんな事を言いながら、お茶の用意を始めるオニメ。
「話すのはいいが、何の話をすればいいんだ?」
「別になんでもいいのよ。・・そうね、ならここに居なかった時にどこで、なにをしていたかを聞かせておくれよ」
「そうだな、どこから話したものか・・・」
とりあえず、夜の森でPKプレイヤーと遭遇戦をして、それに巻き込まれたテル達との共闘から今日の朝に出会ったティファナとの飛行訓練をオニメに聞かせた。一通り話し終わった所で、出されたお茶を飲みながら目線を動かすと、オニメが呆れた顔で俺を見ていた。
「アンタ、この世界を一番楽しんでないかい?」
「楽しんではいるが、どちらかと言うと厄介ごとに巻き込まれている方が多いと思うんだが・・」
「アンタの場合、巻き込まれているじゃなくて、巻き起こしている方じゃないかい?」
「失礼だな、君は。俺がそんな人間に見えるか?」
「見えないけど、人は見かけによらないって言うからねぇ~。それよりティファナって子の事だけど、もしかしたら台風の目になる子かもしれないねぇ~」
前置きも無く、話題をすり替えられた・・。まぁ、呆れた表情の中に少し楽しんでいる様子が見受けられたので、体よく遊ばれたんだろう。しかし、ティファナが台風の目にっていうのはどういう意味だろうか?
「何故そう思うんだ? 確かに、ティファナが飛行に成功したことで運営が動くかもしれんが、あの子は表に出て胸を張る様な性格ではないぞ」
「そういう意味じゃないよ。・・まぁ、まだ予測の域を出ない話だからねぇ、それを確かめるのはこれからさぁ」
そう言って笑顔を見せて小さく笑うオニメ。どうやら、俺の話は退屈しのぎにはなったらしい。
「・・・そうだ、実は聞きたい事があるんだがいいかな?」
ふと思い出した事があったので、オニメに質問する。
「いきなりだねぇ、何だい聞きたい事って? お姉さんに遠慮せず聞きな」
そんな事を言いながら、得意気に先輩風を吹かせる。・・お姉さんっていうよりは、男勝りの姉御だと思う。なにより肌が少し濃ゆい褐色なので、外見と口調が姉御イメージと全会一致する。
「何か、言ったかい?」
すると真剣な顔で迫られた。どうやら勘ぐられたらしい、威圧感が半端ない。しかもオニメの目が獲物を狙い定めた者と酷似している。・・・・オニメの前では下手な事は言ったり、考えたりしない方がよさそうだな、命のためにも・・・。
「いや、何も。それより質問の件だが、【背伸び草原】ってのはどこにあるんだ」
「あの草原なら西門から出て道なりに行けば、辿り着けるよ」
「そうか、教えてくれてありがとうな」
「草原には、何しに行くんだい?」
「トツゲキグマっていう生き物の討伐依頼を受けてな。明後日にでも行こうかと・・」
「そうなのかい。なら、気を付けるんだよティーゲル」
「ああ、油断はしないつもりだから、安心してくれ」
第19話、いかがでしたか?
すでに登場しているキャラクターの再登場、ティーゲルの新装備、オニメとティーゲルのほのぼの。新たな厄介事の予感と新フィールドの情報集め。久々に内容が三つになり、大変でしたが楽しくもありました。また次回では、ついにチャーフィーとティーゲルが【D・L・O】の世界で顔を合わせます。楽しみにお待ちください。
それでは誤字・脱字・内容の間違いのご報告と感想はご遠慮なくお送りください。心からお持ちしています。
それでは、また次回の前書き、後書きでお会いしましょう。




