第1話 再会
二話目の投稿になります。
楽しんでいただければ幸いです。
誤字・脱字の修正、文章の変更を行いました。
・・・・カラッン、カラッン、・・・・
喫茶店の扉を開くと寅尾はいるはずの顔を探す。すると奥のテーブルから手を振る女性が見えた。
「トラ兄ぃ~、こっちこっち!」
そう呼ばれて俺がテーブルに行くと、先ほど自分を呼んだ女性と他二人の三人が座っていた。それを確認しているとテーブルの左側に座る、背中の上半分まで伸びたストレートな髪に、スリムで特に大きく美しい形の胸が特徴の体型、綺麗な白い肌に優しい目が似合うキリっとした顔の美女がこちらに顔を向けてくる。
「やぁ、久しぶりだね兄さん。一年ぶりになるのかな。」
そう言う美女は、俺の異母兄妹である長女の小倉深雪、今年で19歳になる大学生だったと俺は記憶している。そう思い出していると、今度は右側の手前に座るたれ目が良く似合う穏やかな顔に、腰のあたりまで伸びたポニーテールの髪、向かい側の深雪と変わらないスリムで少し控えめな胸が特徴の体型である大和撫子を体現したような美少女が顔を向けてくる。
「お久しぶりです、お兄様。こうして再会できて白雪は嬉しく感じております。」
白雪と名乗った彼女は、次女の小倉白雪で18歳になっているはずと俺は思い出す。すると白雪は自身の隣に座るもう一人に顔を向け、口を開く。
「ほら。吹雪もしっかり再会のご挨拶をしなさい!」
そう白雪が言うと、隣の白雪と顔が似ているが鋭い目つきで強気の綺麗な顔と、グラマーで白雪より大きい胸が特徴の体型に、バサッとしたワイルドな肩まで伸びた髪、そして他の二人とは違って薄い褐色の肌が目立つ美少女が顔を寅尾に向けたまま、目だけを白雪に向ける。
「言われなくても、今から言うとこだよ・・。お久ぁ~、トラ兄。あたしのメールはちゃんと届いたみたいで良かったよ。」
笑顔でそう言うのは、白雪の双子の妹にして三女の小倉吹雪、元気あふれる男勝りで活発な子だったと俺は記憶している。そんな吹雪に俺は苦笑しながら言う。
「あのメールはお前が書いたのか、少しは内容とタイミングを考えてくれ。おかげでチャーフィーにからかわれたじゃないか。」
「そんなこと言ってもぉ~、トラ兄の状況なんてわかんないじゃん。それに深雪姉ぇの頼みで送ったメールだから深雪姉ぇのような文にしなきゃと思ってね。」
「あれのどこが、深雪のような内容なんだ。一瞬、赤の他人から送られてきたと思ったぞ。」
詫び入れる様子もなく、笑顔でそう言う吹雪に呆れた感じで俺はため息をはいて言う。すると深雪が奥にずれて座り直し、俺に座るよう促す。
「ほら、まずは座るといい。話の続きはそれからだ。」
「そうだな。このまま立ていたら他の客の邪魔になるからな。それじゃ、失礼して座らせてもらうよ。」
そう言って俺は深雪の隣に座り、改めて三人を見る。三人とは去年の親父との再会で会ったのが最初で、短い時間の中で俺がいなかった間のことを聞かせてもらい、念のためにと連絡番号とメールアドレスを渡された為、ある程度のやり取りはしていたが直に会うのはこれで二回目になる。そう思っていると吹雪が再び口を開く。
「大体ねぇ~、トラ兄はそんな旧式のケータイなっていうものを使わず、【B・D】に買い替えた方がいいと思うよ。最近じゃぁ、【B・D】との通信や修理も打ち切ろうって話まで出てるみたいだし。」
吹雪は右腕を見せながらそう言う。吹雪の右腕には、朝に来たチャーフィーが腕に着けていた物とデザインは違うが同じ腕輪がある。現代で主流の最新式コンピュータで、名称は【ブレスレット・デバイス】と呼ばれていると俺は記憶している。安直な名前だと感じたが名前の短さと腕輪という扱いやすさで若者を中心に人気を集め、【B・D】という俗称まで付いている。
「電話やメールしか必要としない俺には、ケータイだけで十分なんだよ。」
「だが、今のご時世では【B・D】のほうが何か都合の良いこともあるから、替えたほうがいいというのは私も賛成だな。それにそう考えてすでに用意してきた訳だが。」
そう言って、深雪が自身の横に置いていた大きな紙袋からBDの絵が描かれている箱を出す。
「頼んでもないのに、そんなもの渡されても困るんだが・・・。それに確かそれは結構な値が張るものだったはずだが。大丈夫なのか?」
「そんな心配は無用だよ。これは私たち三人からの兄さんへ改めて送る再会祝いなんだから。それに吹雪が送ったメールの内容は見たがあながち間違いではない、唯一の男兄妹にしてこんなにいい男なんだから、これまでの電話やメールのやり取りで恋人気分になるのは仕方ないと思うけどね。」
そう笑顔で言う深雪は頬を少し赤く染めている。他の二人も小さくうなずいている。そんなこと言う三人に俺は苦笑と困惑が混ざり合った顔を浮かべる。
「年頃の娘がそういうことをそこまで面識がない男に、ましてや腹違いの兄妹に言うものじゃありません。お前たちが俺のことをそういう感情で少しだけでも思ってくれることは嬉しく感じるがな。そういうのは心から愛せる人に出会った時まで取っておきなさい。」
そう俺が説教じみた感じで言うと、三人はポカンとした表情で俺を見て、吹雪がたまらず頭を下げて小刻みに震える。
「フフフフッ・・、あはははっ! まさか、そんなことを言われるなんて思わなかったよ。まるでお父さんのようことを言うのねトラ兄は。」
そう笑いながら言う吹雪と、その隣に座る白雪も口を手で隠しつつ少し体を震わせながら、口を開く。
「フフフ・・、そうですね。私もそう言われるとは思いもよりませんでした。しかし、私たちの気持ちに間違いはありません。生涯を共にしたいとまでは言い切れませんが、この人と時間を共に過ごせれば楽しい、血のつながった兄妹として愛しいぐらいにはお兄様のことを想っていますよ。」
「吹雪や白雪の言う通りだ。確かに私たちと兄さんは長い付き合いではないが、19年前に死んだと言われてきた唯一の兄が、時を越えて帰ってきたんだ。嬉しいというのではなかったが、興味深々でどう接していいか分からなかった自分たちに兄さんは困惑しながらも優しく接してくれた。そのことを思えば、ある程度の愛情を抱いても不思議ではないと私は思う。」
そう白雪は微笑みながら、深雪は大切な思い出を語るように俺のこと言ってくれた。はっきり言って、俺は嬉しい想いが込み上げてきたが、複雑な想いも同時に込み上げきたので少し寂しそうな笑顔で「ありがとう。俺もお前たちが妹で良かったよ。」と言った。すると、深雪たちは微笑んで「ああっ。」、「ええ、私も。」、「おうよっ!」とそれぞれ答えてくれた。
「・・・そういえば、俺に何か話があったじゃないのか?」
俺が一時の沈黙の中で、ここに呼ばれた用件を聞かされていない事を思い出し、三人に改めて聞く。
「そうだね、本題に入ろうか。あっ、それとこの【B・D】は渡すから大切に使ってくれると嬉しいね。それと勝手で悪いがパスワードやアドレス、連絡番号は決めさせもらった。すでに私たち三人と兄さんのアドレスや番号の登録を互いに済ませてあるから、取説を見て扱い方だけを確認してほしい。」
そう言って深雪は【B・D】の箱を渡してきたので、俺は「ありがとう」と言って受け取り、箱を脇に置く。すると深雪は【B・D】の箱を出した大きな紙袋をテーブルの上に置いて、改めて俺に真剣な顔を向ける。
「さて、本題に入るわけだが、兄さん単刀直入に言うが【V・W・D】を一緒にやろう。」
「はっ? 【V・W・D】?」
寅尾が拍子抜けした顔をして聞き返した【V・W・D】とは、正式名称【バーチャル・ワールド・ダイブ】型ゲームの略称で現代における主流のゲームのこと。しかも、国ごとに支部を設置することで世界の様々な人々が同じ仮想世界で楽しむことができるため、V・W・D型インターナショナル・オンライン・ゲームとも呼ばれ、様々なゲームのジャンルが生まれ人々の人気と注目を集めている。ちなみに、寅尾が生まれた頃から試験的に稼働を始めているが世界規模のシステムを構築するため、調整を繰り返すことになり当初はできないと絶望視されたが、5年ほど前に完成し世界の人々を歓喜させた。丁度、寅尾は傭兵として働いていた為に仲間内から存在を知らされていたが、身の周りの状況が急変したために気にしている余裕がなく、日本へ帰国した後も父親との再会、日本での生活基盤の構築、チャーフィーと組んでやる商売の安定などで忙しかったため、眼中になかったが本人自身が必要としなかったことも一因である。
「そう。兄さんはそういうモノはやったことはないだろう。」
「確かに、俺は今の流行りモノはやったことはないが、それでどうして俺を誘う理由になるんだ?言っとくがいくら体を鍛えた人間だからって仮想空間で同じように動かせる訳じゃない。お前たちがゲームを始めるにあって俺を頼りにしてくれるのは、嬉しいが逆に足手まといになりかねんぞ。」
「その心配は無用だ。一から始めるのは兄さんだけで、私たちはすでに始めて一年目のプレイヤーだから練度はある。だから、私たちは兄さんのサポートをすることもできる。それに兄さんを誘う理由としては、私たちは兄さんと会ってから家族としての思い出や時間を過ぎしてこなかった。いくら父さんとの溝があるとはいえ、私たちと兄さんの関わりは電話やメールのみで、これじゃ勘当された兄妹と密会しているみたいで私は心苦しく感じていた。だから、私は白雪と吹雪に相談して私たち姉妹だけでも兄さんと楽しく過ごし思い出をつくってもらうと考えて準備したわけだよ。まっ、父さんとはおいおい関係を改善すればいいと思う。私たちも協力するから。」
「そうです。深雪お姉さまがご相談にいらっしゃいまして、言われて初めて気づいた白雪はお兄様の妹として情けなく思いました。それと同時にお兄様のお気持ちを想うと辛く、悲しくてなりませんでした。」
「そうだなぁ、あたしも話を聞いてトラ兄が一人寂しい時間を家に帰ってきてからも過ごしていたんだなぁと分かったから、深雪姉ぇたちに協力することを決めたんだ。それに、そういうこと抜きにしてもトラ兄とゲームができれば楽しそうだと思ってたからね。これを機会に兄妹仲良くできれば、あたしはそれで満足だからねぇ~。お父さんとの事は、まぁ~気にしすぎないようにするのがいいと思うよ。」
深雪から順に言われて、俺は胸に熱いモノを感じ出そうになった涙をこられて鼻をすする。
「・・・すまない。お前たちにそこまで思わせるほど不甲斐なくて、ほんとにお前たちは俺にもったいない妹だよ。そうだな、親父とは帰ってきてから動揺と忙しさにかまけて向き合ってこなかったから、これから向き合って行けばいいか。・・その時はどうかよろしく頼む。」
そう言って、頭を下げる。そんな俺に三人は微笑んで「任せて」と言ってくれた。
「さて、いろいろと話が脱線したが、お前たちがそこまで考えてくれたんだから、やるのにためらいはないが、結局なんのゲームをするんだ?」
そう言う俺に深雪は紙袋から【V・W・D】のロゴが入った箱と封筒を出す。箱の中身はヘルメット型のハードウェアであることに寅尾はすぐに分かったが、封筒の方は宛先に荒木寅尾様と書かれ送り主に株式会社【小倉VR】と書いてある。
【小倉VR】とは、VWDの前身になったVRゲームのソフトウェアを開発し、販売していた株式会社である。VWDが完成すると一早くVWD対応のオンラインゲームの開発を行うが難航するも、去年の年初めに完成しサービスを開始している。ちなみにお分かりだと思うが寅尾と妹三姉妹の父親はこの会社の社長を務めている創設者になる。
「親父の会社から?何かしたけ・・、というよりなぜ深雪がこれを持っている。」
俺にそう聞かれた深雪は得意げな顔で、話し始める。
「それは、父さんたちの会社がサービスを始めたオンラインゲーム【Dream・Life・Online】のユーザー登録用パスワードが載っている用紙と利用規約書が入っていて、持っていた理由は私たちが勝手に予約して届いたものだからっ☆」
そんな風に茶目っ気な笑顔で言い終わる深雪に、俺は頭を抱えた。なお、【ドリーム・ライフ・オンライン】はファンタジー世界を舞台に現実的な生活をし、第二の人生を送ろうというキャッチフレーズを掲げるゲームである。特徴としてはゲームそのものに過去より存在したNPCが存在せず、ゲーム内のある程度のサポートやチュートリアルは運営の人々によって行われている。システム自体は高性能のAIで調整を行うため、メンテナンス作業などは短時間で終わるので、機械任せの運営よりも丁寧で素早い対応を行うためにユーザーの人気や満足度は高い水準を保っている。
「・・・確か、ユーザー登録の予約は早期に満員になって、予約数の増加で対応しているが、すでに埋まっていると聞いたんだが?・・というか、今朝のニュースで報道されてたぞ。」
「確かに、予定していた数をオーバーしたから急いである程度の希望者を抽選で選定しようとしているが、あくまでそれは満員になったことであぶれた人たちへの救済処置であって、兄さんのは予約開始すぐに予約して手に入った正式なものだよ。」
「ありがたいが、何かそこはかとなく納得がいかないなぁ~。お前たちには悪いがずるしているようで申し訳ない。」
そう困ったように言う俺に、吹雪があからさまに不機嫌な顔をする。
「そういうことは、気にしないでいいんだよトラ兄は。そういうのはラッキーって思ってあたしたちと遊べばいいの。あんまりそういうこと言うと怒るよ!」
「すまん、すまん。気を悪くしないでくれ、用意してくれたお前たちには感謝してもしきれんよ。」
「ならいい!」
吹雪はそんな風に言うと腕を組んで、鼻をフンっと鳴らし自慢げに笑顔を見せる。すると深雪が立ち上がると他の二人も一緒に立ち、深雪が会計を手に取って俺に口を開く。
「さてと、話はこれで終わりだよ。兄さんはすぐに家に帰ってBDの調整して私たち三人にメールか電話をしてくれ。それが済んだら、【V・W・D】の使用方法を取説を読んで覚えておいてね。あっ!それと【D・L・O】の第二陣のダイブイン開始日は、明後日からだから忘れないようにね。」
「はっ?!明後日から?!ニュースじゃまだ調整の真っ最中だて・・・。」
「すでに予約数は埋まっているだから、あとはその人たちを迎え入れるための調整をやっているだけだからね。じゃっ、会計は済ませておくから明後日は楽しみにしているよ。」
そう言って、深雪たち三人は会計を済ませて喫茶店を出て行った。・・・ポカンとした顔の俺を残していって。
・・・・・午後5時過ぎ、寅尾の自宅アパート・・・・・
とりあえず、俺は渡された【B・D】と【V・W・D】のハードウェアを持ち帰った。なお、帰宅途中で所持していたケータイの契約を解除してきた。そして、アパートの自宅部屋に帰ってきた俺は始めにBDの微調整を行い、三人にメールを送る。内容は明後日は【D・L・O】のどこで待ち合わせるかを決めていなかった為どうするか訊ねると、返信は<始まりの町の中央広場で、正午に会おうね兄さん☆>という短い文で深雪からのみ返ってきた。他の二人からは届いたことを知らせる返信が返ってきた。
「始まりの町っね・・・、まっ行けばわかるか。・・そうだチャーフィーに電話するか、俺が【B・D】に替えたの知らないからなぁ。え~と、チャーフィーの連絡番号はっと・・」
そう言って、俺はチャーフィーに連絡をいれる。【B・D】の電話は立体のモニターなんだが中々ハイテクだなぁと感じながらチャーフィーが応答するのを待つ。
<・・はいっ、はぁ~い、イケメン男ことチャーフィーですがどなた様か・・・・>
「・・・・、やっぱり、バカまる出しだな。」
意気揚々と出てきたチャーフィーが俺の顔を見て固まり、俺はそんなチャーフィーに呆れた顔で言う。
<なっ、なっ、なんでっ?! おっ、おっ、お前がモニターに・・・>
再起動したチャーフィーが動揺しながら聞いてくる。
「そりゃぁ~、俺も【B・D】を使っているからだろう。」
<そうじゃない!! どうしてつい今朝までケータイを使い続けていた男がっ、夕方にはハイテク機器の代表格を持っているのかっていうことだよっ!!>
「昼間に会ってきた妹たちの再会祝いで受け取った。」
<はっ・はっ・はっ・・・なるほどな。だがな、いきなり電話をかけてくるなっ!びっくりしたじゃないか。・・・それでなんで連絡してきた。>
ある程度、落ち着いてきたチャーフィーは息を整えながら訊ねてくる。
「ああ、連絡手段を替えたから教えておこうと思ってな。あとはこのBDの連絡番号をお前に渡すためだけだな。」
<わかった、登録しておくから。もう切っていいか?今日は飲んで騒いで・・疲れてるんだ。>
そう言うチャーフィーの顔はどこか疲労が溜まっているように見えた。
「そいつは悪かったな。じゃ、今後からこいつに連絡を入れてくれ。またな、お休み。」
<ああ、お休み。>
そう言い終わるとチャーフィーが映っていた画面は暗くなり通信が切れた。
「さて、俺も飯食って、風呂入って、寝るか。」
そう言いながら、【B・D】を置いて俺は夕飯や風呂の準備を終わらせ、夕飯を食い終わって後に軽いトレーニングを済ませた後、風呂に入って眠りについた。
文章におかしな点がございましたら、気兼ねなくお知らせください。前の話でも何かございましたら教えて下さい。




