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ショートショート

愛の証 (ショートショート 65)

作者: keikato

 この屋敷に移り住んで、三年。

 昨年、夫の母が亡くなった。以来、夫と二人で暮らしている。

 敷地には広い庭がある。義母がこよなく愛した庭である。季節ごとに花が植え替えられ、決して他人に手を触れさせなかった……義母の庭。

 毎年、二月中旬。

 庭の片隅で、紅梅が花を咲かせた。

 真紅の花は義母のお気に入りで、縁側に座って日がな一日ながめていたものだ。

 その義母は、息子――私の夫を溺愛していた。

 結婚したとき、義父はすでにいなかった。外に女をつくって家を出たらしい。

 それからのようだ。異常なほどに、息子に愛を注ぐようになったのは……。

 そして夫も、ことあるごとに義母の味方をした。

 そうしたこともあって、やがてわたしたち二人の間には深い溝ができてしまう。

 夫は浮気をするようになった。

 すると。

 義母は私を責めた。私のせいで、息子を外の女に奪われたのだと。

――自分だって、夫をよその女に奪われているのに。

 私も義母を憎んだ。

 義母の死後。

 夫はほとんど家に帰らなくなった。


 この夜。

 気がついたら、私は夫を殺していた。ひさしぶりに帰ってきたと思ったら、いきなり離婚話をもちかけられたのだ。

 我に返ると――。

 あわてて死体の処置にとりかかった。

 夫の体を引きずり、紅梅の木の下に行った。

――義母さん、あなたとはちがうのよ。

 私は義母のように、ほかの女に夫を奪われたりはしない。

 夫はだれにも渡さない。

 夫の胸には出刃包丁が深く突き刺さっている。

 私の愛の証だ。

 紅梅の咲く下をスコップで掘った。

 二月、朝の六時までは暗い。

 休むことなく必死に掘り続け、穴が死体の入る十分の深さになった。

――あなたが悪いのよ。

 冷たくなった夫に語りかけ、最後の土をかき上げようとしたときだった。

 カチッ。

 スコップの先端が金属音をたてる。

 懐中電灯の明りを向けると、そこにはさびた出刃包丁があった。

 義母の愛の証が……。

 そして。

 紅梅が真紅の花が咲かせていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 愛の証、素晴らしく美しいです。 包丁が愛の証。ミステリの題材にもなりそうですね。 [一言] 「移り住んで、三年」 「結婚したとき、義父はすでにいなかった」 義父がいつからいなかったのか、そ…
[一言] 愛すればこそ、相手を殺めるくらいにわきあがる憎しみ。人間の持つ心理を巧みに描かれたショートショートだと思いましました。最後をどう締めるのかが気になっていましたが、すっぱりと一文にしているとこ…
[良い点] 紅梅。季節柄寒くなる作品でした。こんな想像力が働いたら怖くて浮気できないのでは?
2017/03/11 06:40 退会済み
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