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5姫様の元第1席上級女官とお医者様【前編】

「いっ……た!!」


意識を失っていたのはほんの少しの間だったのか、草原に寝転がっている状態で気が付いた私……空がとても青くて目に染みる


寝転がっていても仕方がないので、まずは自分の状態を確認しようと起き上がろうとするのだが……嘘、足が……折れて。向いてはいけない方向に曲がっていた。痛い、動かせない……涙があふれて、恐怖が忍び寄ってくる。嫌だ、お父様お母様お兄様お姉様、痛い痛い痛いッ!!


半狂乱と言うのはこういう状態だったのでしょうか、痛みに声を上げていた時、低く優しげな声が響いてきたのでした


「落ち着いて、動かない方が良い。まず痛みをおさえるから、そのまま眠っておくれ……大丈夫、ほんのひと眠りだ。医者のいう事を信じて目をつぶって?」

「おいしゃさま?」

「そう、ここは医療大国だからね。医者に任せて眠りなさい」


いたいの、こわいの、たすけて!!


お医者様に任せて眠りなさいと髪を撫でられる、すごく心地よかった。その優しい声に安心した私はお医者様の顔を見ようとする


けれど、不自然な眠気が忍び寄ってきて……そのまま目を閉じてしまった






気が付いたら真っ白なシーツと毛布に包まれていた。足はどうなったのかと視線を下にむけると、折れていたと思われる足はグルグルと包帯で巻かれヒモで上空に持ち上げられていた……動かすことは出来るけど、ケガをしたであろう個所の感覚は無かった


がっちりと包帯を巻かれ動かせない足は、どうなっているのかは想像したくないけれど、恐らく大きな傷が残っているのだろう。貴族令嬢としては致命的である……いや、その前に姫様に『いらない』烙印を押された私はもう国に帰ることはできないであろう、家に迷惑がかかってしまうから


またもやじわりと涙が溢れてくる


なんだろう、気が緩んだ所為か子供返りしているような感じがする。もともと兄弟の末っ子で、甘ったれだった私。国で1番高貴な女性である第1王女殿下の学友になる為に、甘えは捨てなければと頑張ってきた結果がこれ……みっともない。家にも恥をかかせてしまった。せめてお咎めを受けないように祈るしかない




コンコンとドアをノックする音が聞こえた


久々に出す声は弱弱しく掠れていたが、外まで聞こえたようだ。入ってきたのは少しお年を召した男の方、おそらくあの時声をかけてくれたお医者様だと思われる。幾つくらいの人なのだろう、お父様よりは年下っぽく見える紳士はにっこり微笑んで容体を聞いてきた


「気分はどうかな、吐き気や熱っぽいとかあるかい?」

「大丈夫です……痛みもありませんし」

「痛みは麻酔で抑えているんだ、だから動かしたりしないように……って動かせないようにしてあるから大丈夫だけど、油断は禁物だからね。貴女は運がいい、私に出会って最高の外科医の伝手をえたのだから、ね」


という事は、目の前のお医者様が治療をしてくれたわけではないという事だろうか?不思議そうな顔をしていた所為か、彼は説明してくれた。救急医療と言う、急を要するケガや病気の初期治療を行うお医者様だそうだ。私の場合は痛みを緩和し折れた骨を出来るだけ動かさないように固定、手術のできるお医者様に受け渡した……らしい


私の骨折はかなりの重傷だった、折れた上に粉々になった個所もあり、丁寧に破片を取り除き骨を繋いでギプスというもので固定して終了。後はくっつくのを待つだけだそうだ


「事務官が直々に手術してくれましたし、宰相閣下が手伝いをしてくれましてね」

「……じむかん?さいしょう?」


なんだかすごい役職名を聞いてしまったような。これから熱が出るかもしれないからと、お医者様は私の額にそっとふれた。その仕草と共に、ふわりと消毒薬の香りが立ち上る、あれ、少し熱っぽいような気が……する?


眠ってというお医者様の言葉と眠気に身を任せ、そのまま目を閉じた






姫様は現在王宮へと向かっている最中らしい、思っていたより日にちは経ってはいなかったのですねと言うと、お医者様はまだ2日だよと微笑まれた


優しい味のシチューをいただき、良い香りのするお茶をいただきながら現在の状況を聞きました


現在いる国は医療大国


この国は不幸な出来事があり貴族が凄く少ない状態であって、女王陛下に4人の夫がいるという。姫様の1番嫌いな状況だろう、1人の女に4人の夫……正しくは王配と3人の側室なのだけどこれは仕方ないのです。高位貴族と結婚出来るのは貴族だけ、と言うか貴族の役割をきちんと熟せる者だけなのです。女性貴族がいなかった為に女王陛下が全ての公位侯位を持つ男性を娶ったという話


これはこの国だけの話ではありません、こういう状況になればどこの国でもおこりえることなのですから


「お嬢さんは公爵家令嬢だったのですね、王女殿下の第1席上級女官殿」

「お調べになられたのですか?」

「王女殿下御一行の先触れとして一足先王宮へいらした侍従殿から聞きました。女官が保護されていないかと王配殿下に問い合わせがあったらしいです。あ、王配殿下はわが国の護衛官でもあるので」


この国には緊急移動用ゲートという魔法装置があるそうで、治療院や薬局や上級貴族の屋敷と繋がっているとのこと。だから姫様一行の移動よりも情報が早く伝達できたそうです


では私がこのような状態になっている理由も知っているのですね……そう問うと、「えぇ」と穏やかに答えてくれた






初対面に近い人にこんな込み入った話をするなんて、貴族としては失格ですがお医者様としての貫録でしょうか……洗いざらい話をしてしまいました。姫様の怒りを買って女官・侍女を辞めることとなった2人を……消えろと言われた自分の事を


「私の所為だったのです……、女官の長を賜りながらも、上手くお諫め出来ない上に心の中では……蔑んでいました」


あの方は悪意に聡い……、今思えばそのように思っていた使用人に心など開かないのは当然かもしれません。そう言うとお医者様は穏やかに意見を述べてくれました


「お嬢さんの話を聞く分には、あなたのせいではないと思うな。もし蔑まれていたとしても、それは王族としてしてはいけない態度だと思うよ。自分の方が劣っていると思うのなら、磨けばいい。役割を重んじる《3の国》の王族って言うのは、1番ポテンシャルの高い一族のはずなのだから。真摯に誠実に学んでいれば、確実にお嬢さんより素晴らしい淑女になれるのに。それこそかの国で1番の淑女に、ね」

「でも、お付の者に陰で侮られているとわかれば……」


後悔の念に駆られ、手を強く握り込みます。お医者様は大きな手で、私の拳をそっと撫でてくれました


「それでも、だよ。王族は役割を投げ出すことは出来ない。わが女王陛下もその為に4人の夫を娶り後継を生したし、王弟殿下は《3の国》で1番の医師だ。殿下は時間が許す限り身分の差なく診療をしていらっしゃるし、妃殿下はその手伝いを献身的になさっている。妃殿下は他国ご出身なのにもかかわらず、真摯に立場を受け止め働いていらっしゃる」


だから貴女が自分だけを責めるのはやめなさい、皆が少しずつすれ違ってしまったのだよ


そう言うお医者様は気分転換に庭へ出てみないかと誘って下さった。ずっと寝っぱなしだった私はその言葉に甘えしまう、お医者様はひもを外して軽々と私を抱き上げて車いすに乗せてくれた。ブランケットを膝にかけ、ゆっくりと青空の下、綺麗な庭を案内してくれた



ぐるりと回って再びベッドの上に。軽い食事を一緒にとってくださった後、もう一眠りした方が良いと言われると、また眠気が襲ってきてそのまま目を閉じた




目を開けると外は暗いようだ、いつの間にかカーテンが引かれている。ぼんやりとしているとまたもやノックの音、お医者様が入ってきた。状態の確認をして夕食を共にしながら


「では、どうしましょうかね……。姫君に疎まれてしまった貴女は、残念ですが国に帰ることは難しいかと」

「取りあえず……家に手紙を出したいのですが」


明日にでも便箋を用意しましょうと言って下さったお医者様


「これからは呼び鈴で娘たちを呼んでください、あれらも看護には慣れていますから体を清めてから着替えをすれば少しはスッキリするかもしれません。専門の治療院が良ければそちらに移動しましょうか?そちらには女性医師もいますし、私のようなおじさんよりは込み入った相談もできますが……」


娘……その言葉を聞いて、あぁ奥様がいらっしゃるのね……なんて。胸に痛みが走り、この痛みはお医者様でも治せない病だと気付いた。これはあれね、辛いところを助けていただいて話を聞いてくれたから。親身に寄り添って下さったから


依存だって、そう誤魔化さないともう私は1人では歩けない




夕食後、娘さんたちにお世話をしてもらった。看護や薬学を学んでいるという娘さんたち……取りあえず5人程お会いしたのだが、まだいるという……その……多すぎないかしら?いいえ、愛妻家なんだわ……多分


そういえば奥様にはまだお会いしたことが無い。お医者様の伴侶であれば、素晴らしい女性なのだと思う。しっかりとしている娘さん方を見てもわかる、私とは違って。……自虐的なのは解っているのだが、けがの所為でなかなか前向きになれないと自覚している


風呂には入れないので体を拭いてもらい、新しい寝着に着替えさせてもらった。看護を学んでいるという話通り、とても素早く丁寧な仕事だった。やはり病人相手で侍女の仕事とは少し違うけれど、お世話をするという共通点もあるかもしれない


足が治ったら、私も看護を学ばせて頂こうかしら……。それに、お医者様にも会えるかもしれない。こんな下心では駄目かしら?



また熱が出て来たようで、氷で冷やしてもらう。娘さん方がお医者様を呼んでくださって、診察をしてもらう。解熱剤を飲むために、私を起こしてくださった彼の腕は力強く、そんな些細な触れ合いでまたもや熱が上がってしまうのを感じた。浅ましい私。

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