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3姫様の護衛侍女と料理人様

「護衛侍女って言うのか~。うちで言う護衛騎士のことだよね、戦う侍女さん」

「戦うと言うよりも、主の盾です」


そもそもそこまでの能力はありません。そうなんだ~と軽い調子で騎士様はうなずく。わたしを捕獲した騎士様はあっさりと開放してくれた


「お嬢さんの所の姫様ってスゴイ大物だよね~。態度デカいデカい、姫ッ!!って感じだね」

「スイマセン……」

「王太后様、すげ~引いていたし。『未来の夫が見えるギフトを私の為に使いなさい』って何様、姫様?」

「晩餐会に同席なされていたのですか?」


騎士様が同席するなんて事ある訳ない、護衛として部屋にいたのかもしれないと思ったのだが、なんと同席していたそうだ


「同席していた。料理の出来も見たかったし、一応貴族の令息だからさ……見合いなんだろう、姫様の親善旅行って?」

「え、高位貴族なの……ですか?」


ずいぶんと気安い令息様だなぁ、しかも姫様と同席できるなんて……。高位貴族で独身で騎士様、低くても侯爵位以上でないと同席は出来ないはずだけど、この国で有名な騎士様は大体伯爵家・子爵家が多いんだよね。前回の反省を生かして(女近衛騎士が公爵家令嬢だったあれ)貴族名鑑を見ておいたんだけど、付け焼刃の知識はやっぱり駄目だね、役に立たない


「まぁ、一応侯爵家の生まれなんだけどさ。俺自身は料理人だから、そんなにかしこまらないでも」

「料理人……ですかぁ?」


衝撃。侯爵家令息で職業料理人って、体格がいいから騎士様かと思っていたのに全然違う。と言うか、そんな斜め上方向の職業選択、アリなのこの国?


令息かつ料理人様は、姫様に出されたお茶についていた菓子類を作っている人だそうだ。残したものを裏でこっそり食べたけど、凄く美味しかったと感想を言うと、彼は恥ずかしそうに微笑んだ


眩しい笑顔だ、黒くない(と思われる)


「あの焼き菓子、農業国のオレンジを使っていない?あそこのオレンジって、香りが強くて酸味と甘みのバランスが最高だよね!!」

「お、詳しいな!!」

「そりゃそうよ。第1王女殿下付の侍女だもの、良い残り物頂いています……なんて、言っちゃいけないんだけどね。でもゼリーの方は国内産だったわよね、なんで?」

「本当に詳しいな、あれは単に俺の好みってやつだな。農業国の方が『愛と豊穣の神』を崇めているだけ、上級品なんだけどさ。ちょっと酸味の強い方がつるっといけて、俺好きなんだ」


お菓子なんてめったに食べられない貧乏貴族のわたしは、つい物珍しさから話し込んでしまった




顔見知りになった料理人様は、姫様付の使用人の為に軽食を差し入れてくれたり、姫様のご要望を厨房長に伝えてもらったりした。その度にこっそりお菓子をくれたりして、貴方は神様ですと拝んでおいた


「美味しかったです、ナッツが香ばしくてサクサクしていて……」

「それは良かった、残り物で悪いんだけどね。姫様に出しても大丈夫そうかな、ちょっと高級菓子って感じじゃないから駄目っぽい?」

「あ~、うん、姫様見た目が良い方が好きだからね。アイシングでデコレーションしているものとか」

「あ~、ぽいよね」


なんてほのぼのと会話を交わしているところを、まさか姫様に目撃されているとは知らずに……。姫様ってなんで王族として持っているべき知識や技能が残念な割には、こういう事には耳ざといのかね


護衛騎士様の先導で、第1席様が慌ててわたしを呼びに来た。料理人様が言っていた護衛騎士と言うのはあの方なんだ。お仕着せをまとって堂々と帯剣している、小剣と短剣を下げているから二刀使いなのだろう


第1席様は青ざめながら姫様が呼んでいると告げる。え、今の時間休憩だったんですけど?……うわぁ、すごく嫌な予感がしながら姫様の滞在なされている客間へと急いだ




ドアを開けると早速クッションを投げつけられる。どこかで見たような場面だなぁと思いつつ、避けると更に罵声を浴びせられることとなるので避けない。こうなったらひたすら頭を下げ続ける。姫様の罵倒は部屋の外まで響きそうなほど強烈で耳が痛い。姫様は髪を振り乱しながら言う


「何故私の夫候補を誘惑していた。そんな貧相なかたちで、媚を売っているの?お前は昔からそう、恥を知れ!!」


いや、していないし。色気よりも食い気な話題しか出ていなかった……よね?


昔からってたまたまドレスアップしなければいけなかった時の借り物のドレスが、姫様の好みにぴったり合っていたからと言って、「着飾って媚を売るな」って何時までも何時までも何時までも根に持ちやがって!!


あれ、中古の借り物なんだぞ、仕立てられるほど金なんか持っていない貧乏貴族で悪かったな!!


ぷっちーんとキレたわたしは部屋を退出し、もう無理ですと第1席上級女官様に泣きながら辞表を渡し、王宮を飛び出したのだった。書いておいてよかったね





亡き両親の為、子爵家の為耐えてきたけどもう無理。実力が無かったのと主に恵まれなかったのとで、悔しくて悔しくて泣きながら町を走ってしまったよ。冷静になるとちょっと恥ずかしいね、町民の皆さんがギョッとしていたよ


さて、どうしようかな。そう思いながら、側にあった花壇の縁に腰掛けため息を吐く。貧乏貴族とはいえ、存命している限りそう簡単に爵位を捨てることは許されない。《3の国》は役割の国だから、与えられた役割を放棄することは死を意味する……


……いえいえ、姫様の方が役割果たしていないとか思っていないよ


「あ~もう、どこか別の国の貧乏貴族にでも、嫁にもらってもらおうかな。そうすれば子爵位も国預かりとなるし。……最終手段としては、若さを生かしてエロジジィの妾とか?」

「貧乏じゃないけど、嫁にもらっていい?」


最近よく聞いていた優しい声。うつむいていた顔をあげると、目の前にはでっかい馬、その上に料理人様が乗っていた。……軍馬は料理人が乗る馬ではないと思う


「叔母上に姫様の所が騒ぎになっていて、君が飛び出していったって聞いてさ……慌てて叔父上から馬を借りてきたんだ」

「叔母?」

「護衛騎士隊長に会っただろう?あの方は母方の叔母なんだよ、俺達が話しているの知っていたからさ、知らせに来てくれたんだ」


二刀使いの護衛騎士様の事らしい、叔母さんなんだ


「君、侍女を辞めちゃったんだろう?今からだと、王宮に入れないかもな……取りあえず、もう夜も遅いしその辺で宿でも取るか……」

「あ~、そうだね。逃げ出しちゃったからには、姫様絶対締め出すだろうしね……」

「前に叔父上に聞いた出会い茶屋って言うのが、この辺にあるって聞いたんだけれど。泊まることも出来るって言っていたから、行ってみようぜ」

「うん、とりあえず何も考えず寝たいわ~」


お金を所持していなかったため、料理人様に借りることとなった。しかし、出会い茶屋というものはまさかの連れ込み宿の事で、ヤラれる!!とか思ったけど。料理人様もそうとは知らずに、真っ赤になって言い訳をしてくれた。あんな街中で、堂々と『泊まります』『寝ます』宣言をしてしまったわたし達は、恥ずかしさに悶えていた


「マジか……、叔父上何故詳しく教えてくれなかったんだ。女と同衾した事ないからって、からかっていたんだな!!」

「ないの?」

「ない。君は?」

「ないに決まっているでしょ、愛と出産の神を崇める国じゃないんだから……」


恥ずかしさにベッドでゴロゴロしていた料理人様は、ベッドに座ってガックリと手を付いて後悔していた私を上目づかいに見詰め、意を決したように口を開く


「なぁ、結婚しよ?今なら俺が毎日好きなものを作ってやるぞ?」

「する」


お菓子美味しかったし、食べ物につられるチョロイわたしと呼ぶがいい。それにエロジジイよりは全然好きになれると思う、そう言うと調子に乗った料理人様は


「じゃあ、……正しくこの部屋を使っていい?」


なんて言う。それ、さっきまで交合するための宿に連れ込んで、照れていた人の態度じゃないわ。隣に寝ころび、懲らしめるために意地悪言ってやる


「それは結婚後にしてよ、今日は……口づけと添い寝だけで」

「生殺しだ」


まぁ、シテも良いかな~とも思ったんだけどね。我慢出来るのならばしてもらおう、その方が大事にしてくれるかの指針になるかなって、わざと体を彼に添わせる。彼はむくれていたが、私の腰を抱いて口づけを落とす。絡み合いながら徐々に深くなる口づけをかわし、それ以上は進めず抱きしめあいながら眠った


どこかがちょこっと存在を主張し始めていたことは無視します、ぐぅ……






姫様はやはり結婚相手を見つけることが出来ず(料理人様以外にも候補はいたのだけれども)、北へ旅立った。北にある国は癒しと薬草の神を崇める医療大国……、知識と技術を重んじる国、駄目そうだなと思いつつ陰からお見送り。あの『町を泣きながら疾走後、大声で連れ込み宿宿泊宣言』という黒歴史を残したわたしと料理人様は、ひとまず結婚を前提にしたお付き合いというものをしている


正直戻るところのないわたしは結婚でもよかったんだけどね、料理人様の母上である侯爵夫人が


「それは公平ではありませんわ、弱みに付け込んで嫁に貰おうなんていけません。お嬢さん、無理をなさらなくていいのよ?なんだったら私の養女として迎えても良いわ!!」

「ちょっと待った母上、もう求婚して返事貰っているんだぞ。なんで義妹にするんだよ~」

「女は浪漫あふれる言葉を待っているのですよ?どうせ息子の事です、つまんない台詞を言ったのでしょう。母に教えてごらんなさいな」


そう侯爵夫人は言う。料理人様は仕方なく求婚の言葉「結婚しよ?今なら俺が毎日好きなものを作ってやるぞ?」を披露すると、


侯爵夫人は目を見開き口をパクパクさせて停止。少ししてから復活なさった侯爵夫人から、交際から始めなさいと言われた。う~ん、半分合格と言ったところなのだろうね


侯爵家の屋敷で侍女として働き、料理人様とお付き合いしながら時は流れる。やっぱり気が合うよね、と確認して改めて求婚を受け了承した(ご飯も美味しかったし)


実家の子爵家は、別の高位貴族様が爵位を預かってくれることになった。戻るつもりも子供に継がせる気もないのでそのまま管理していただくこととなった。未来の義父母である侯爵夫妻や、第1王妹殿下(侯爵夫人のご友人)や、宰相閣下(義叔父様の上司)や、宰相夫人(義叔母様の元主で第2王妹殿下だそうだ)が尽力して下さったそうだ……凄い大物ばかり


「実は王太后様も協力してくれると仰ってくれたんだけどさ、さすがに恐れ多くて丁重に断ったよ」

「やはり姫様の発言に、かなりお怒りだったのね……。ギフトを使いなさいって命令口調だったんでしょう?」

「みたい。王太后様、幼い頃にあのギフトで辛い思いをしていたそうだしね」


それにね、と料理人様は言う。生国で爵位を管理していただく高位貴族様と言うのは、第1席上級女官様のご実家だと聞いた。……心配して下さったようで、実家の方へご連絡して下さったとの事。まさかの公爵(・・)家預かりかぁ


第1席上級女官様にお礼の手紙を差し上げたいと思ったのだが、まさかあんなことになっているとは思いもしなかったのだ!!

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