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 羅刹はシャルティールを寝かしつけた後、王座の間に座っていた。

 羅刹は悩んでいた。

 悩みに悩みぬいていた。

 何故か?

 

 ウインドウに写るエルフ(捕虜)をどうするか悩んでいた。

 

 ついノリで拉致してきたものの、一体どう説明すればいいのか。

 改めて彼のことを言おう。

 対人スキル皆無である。


 対人スキル皆無である!


 ゲームとしてやっていた時は配下になれば自動で命令に服従したがどうやら今回はそうではないようである。

 しかもどうやら感情値のようなものまで導入されている模様。

 更に更に、ゲームでは必要なかった(配下のステータスを上げる為に存在した)衣食住も必要であるようである。

 彼は思った。


 何て複雑なゲームなんだ。


 しかし、彼も廃人ゲーマーとしての吟じがある。

 少々難易度が上がったとしても全てに対応して見せる自信があった。※対人スキル以外

 其処から魔改造が開始された。

 ゴールデンバウム内部にポイントを使って様々な施設を作った。

 生活スペースではきちんとした間取りで居住区を仕切られ、食堂から浴場、トイレに備蓄庫、必要そうな物を配備していく。

 

(ふむ、生活スペースはこれでいいだろう。次は生産スペースだな。)


 羅刹の考えと共に生産性を重視した間取りでゴールデンバウムの周囲にどんどんと畑が作られ、牧場が作られ、それに沿った水路も作られていく。果樹園も忘れない。

 傍から見れば小さな王国だろう。

 中心に神樹ゴールデンバウム。そして其処から伸びる整備された道。

 日当たりを計算されつくした南側には畑と果樹園が広がり、その周りにはゴールデンバウムから溢れ出る水を用いた水路。北には一面広い牧草地が広がる。

 そしてそれらを囲いつくす有り得ないほど密度の濃い森。

 まるっきり隙間のない壁として中心から半径5km程先を覆い尽くしていた。

 現在のロリフ王国はざっとこんな感じに改造されていた。

 では迷宮部分はどうなのかというと、実に簡単な造りになっていた。

 入り口→小部屋→転送陣→王座の間。

 全くもって簡単なつくりである。

 しかしこれには理由がある。

 現在の羅刹のレベルは1である。

 その為作れる階層もまた1である。

 基本的に迷宮は、縦1km×横1km、1000平方メートルのサイズが1階層分の大きさである。

 下に伸びる迷宮と違い、横に伸びる世界樹という迷宮の種類は1階層分のサイズが大きく、半径1kmの円状である。

 概ね3倍程度の面積を1階層で有している。

 しかし、追加ポイントを使い、その十倍の面積を有していたとしてもそれは羅刹には狭すぎた。

 

 迷宮自体を巨大な魔方陣にする建築物、5行相克。

 5つの属性特化召還陣をペンタグラムの各頂点に配置する事によりその効果を高める迷宮施設。

 その中心に存在する土地の強化も果たされている。

 これの存在によって迷宮内部のスペースは殆ど使い切ってしまっていたのである。

 ちなみにこれを開放させる為に羅刹は初期の迷宮施設から建設してはレベルを99に上げて次の施設を建て、また上げて開放された次の施設を建て、を数え切れないほど行っている。


 そうこうした作業をこなした後に思い出したのか羅刹はまた頭を抱えた。


 結局エルフ達の問題が解決していなかったのである。

 また頭を抱えた羅刹の前にウインドウの一部が点滅する。

 それは侵入者を警告する表示だった。

 

 それを見た羅刹はにやりとほくそ笑む。

 その笑みはこう語っていた。



 やれるものにやらせればいいではないか!と。


  ■ ■ ■



 その日、彼女は愛騎と共に自由に空を飛びまわっていた。

 彼女の名前はクレイン・ディザス。

 南に位置する大国、魔族国ディザスの第2王女である。

 現在16歳。嫁の貰い手絶賛募集中である。

 クレインは王であるアンドリュー・ディザスの血を濃く受け継ぎ、国内外に響き渡る程、名が通っている。

 曰く、『殺戮人形』『爆炎の女神』『怒髪天』である。

 数々の異名を持つ彼女であるが、国王に次ぐ実力を持っている。

 その彼女は愛騎である火竜の幼生であるザグムンドと共に城を抜け出し息抜きをしていた。

 暫く大空を駆け抜け、そろそろ城に戻ろうかという所、突如として大陸中央部の方から天をも照らすほどの光が迸った。

 それを眺める彼女の相貌が獲物を見つけたが如く細くなる。


「ザグムンド、今の光の元に向かうよ 」


 彼女は知らず唇を妖艶に舐めた。



 暫くの後、彼女は原因であろう物を視界に納める。

 遠目に判る、黄金に輝く世界樹。

 何処からどう見ても未知の状況である。


 それが彼女の好奇心に火をつけた。


 愛騎を走らせその樹の元へと辿りつこうとした。

 しかし、ある一定距離からは何故かたどり着けない。

 飛んでいるにもかかわらず、何故か進まないのである。

 まるで結界が張ってあるかのごとく。


 其処で彼女は思い出した。

 世界には迷宮と呼ばれるものがあり、そこには独自のルールが存在するのだと。

 だとすると此処は迷宮。

 しかもできたばかりであるに違いない、と。

 

 で、あるならば入り口から堂々と入ればよい、と彼女は世界樹を取り巻く鬱蒼と生い茂る森を見つめる。

 そこには普通では考えられないほどの高さ、100mはあろうかという木々が群生していた。

 その一箇所にどうやら入り口と思わしき穴を見つける。


 そこを目指し彼女はザグムンドを急降下させた。



 彼女の目の前には木々のアーチで作られた巨大な回廊。

 その入り口たる門は限りない月日を連想させるほどに古い、しかし荘厳な石でできた門。

 どのような生物が通る事を想定しているのか、余りにも巨大であった。

 彼女の愛騎、火竜のザグムントですら余裕で通れる大きさである。

 

 彼女は迷った。

 余りにも桁の違う未知。

 一度引き返した方がいいのではないか。

 ……しかし彼女は好奇心の塊。


 自身の力を信じるが故に軽い気持ちで中へと入って行った。



「見て、ザグムンド。すごい、綺麗 」


 彼女の目の前には長く続く回廊がある。

 それを覆うように木々が絡み合い、そして優しい日の光が中を照らす。

 木々自体も淡く発光しており、恐らく夜になると更に幻想的な光景が見えることだろう。


 騎乗したまま、クレインとザグムンドは木々の回廊を進む。

 暫くすると更に大きなドーム状の広間へと出た。


 そこで彼女は更に幻想的な光景を見る。


 広間の中央部に広がる大きな、複雑な魔法陣。

 そしてその後ろにそれを守護するかのごとく跪く巨人。

 その周囲には羽の生えた結晶が浮かび、虹色に輝く光の玉がそれを煌びやかに映えさせる。


 まるで御伽噺の1ページのような光景。

 彼女が見ほれるのも仕方がないであろう。


 だが、彼女は決して油断はしなかった。

 見える巨人が巨石兵の上位存在である事も認識していたし、虹色に輝く玉が魔法玉であろうということも、魔方陣は何かしらの罠であるかもしれないと。


 しかし、彼女の判断では、例え襲ってきたとしても直ぐに振り切れるだろう、と、そう見積もっていた。


 羽の生えた結晶が光り輝くまでは。


「……な、に……? 」


 彼女達は知らなかった。

 祝福の浮遊結晶というモンスターの事を。

 この迷宮内部の至る所にそれが存在しているという事を。

 彼女の背後で、既に発動準備に入っていた事を。


 かくして彼女は魔王と対面する事となる。




  ■ ■ ■




 辺りが光に包まれたと感じた直後に一瞬の浮遊感。

 そしてクレインの目の前には先ほどの回廊もかくやというほどの光景が広がっていた。

 木々の絡まる古びた王座に、そこから伸びる広間。

 広間の脇には光り輝く樹木が壁を作り、広間の中央にはまるで王の通り道であるかのような道。

 クレインは馴染みのある光景に、それが王の謁見の間であると理解する。


 そして王座から男が立ち上がる。


「ようこそ侵入者よ、我はこの王国の主、らせ「ザグムンド」」


 羅刹の大げさな自己紹介は火竜のブレスによって掻き消された。

 灼熱のブレスが王座ごと羅刹を飲み込む。


「燃やし尽くせ爆炎、そは終焉の理 」


『ギャザ・プロミンス』


 クレインの詠唱から羅刹の足元に魔方陣が浮かぶ。

 そこから突き上げるかのように炎の柱が羅刹を飲み込んだ。


「……………… 」


 先手必勝とはこのことなのか。

 火竜のブレスで動きを止めた所を位置指定型の魔法で殲滅。

 範囲を狭め、火力も底上げしている。


 クレインの目の前で炎の柱が魔方陣へと消え、火竜のブレスの煙も晴れていく。


 しかし、そこには変わらず男が佇んでいた。


「……気が変わった。対話ではなく、まずは半殺しにするべきだった 」


 クレインの端正な顔がピクリと動く。

 その感情が伝わったのか、ザグムントが大きく羽ばたいた。

 一瞬で逃走に切り替えたようである。

 が、そこで声が響く。


「……ロック 」


 その声と共にクレインは驚愕する。

 今まで開けていた空が一瞬で木々に覆われていく。

 それはあたかも自分達を捕える檻の如く。

 ザグムントは飛ぼうと思っても飛べなかった。

 一体いかなる摂理なのか、羽ばたけはするが、舞う事はできない。

 そうしている一瞬の間に、羅刹は王座から火竜の直ぐ下まで潜り込んでいた。


 そうして飛び上がりながらの一閃。


 それは易々と火竜の翼を切り裂き、腕すらも一刀両断にした。

 

 クレインは暴れ、咆哮を上げる自分の愛騎を庇うようにその前へと降り立った。

 その瞳は怒りに濡れ、真紅の髪が天を突く様にたなびく。


「……許さない。殺す…… 」


 

 こうして羅刹vsクレインの第2幕が開始された。



  ■ ■ ■



 怒りに任せて火竜の腕を力任せに切り裂いた羅刹は頭の中で情報を整理していた。

 

 彼のアバターは元々の彼の体格と違う。

 しかし、思ったとおりに動く。

 それはひとえに彼のゲーム脳が、あくまでも羅刹ならばこう動く。ここまでの動きであれば達成できる。それの現れである。

 まさに、ゲームをしているかのごとくであった。

 ゲームでの動きを忠実に再現し、計算されつくした動き。


 機械的ともいえるその動きは洗練され、隙がない。


 その彼が追撃をかけようとして振り返ったとき、それが目に入った。


 白銀の鎧に身を包み、流れるような真紅の髪をたなびかせ、透き通るような白い肌。

 少し尖った耳に好奇心の強そうな目。

 但し、その瞳は怒りに燃えていた。

 しかし、そのような事は羅刹には関係がなかった。

 問題は1点のみである。


 彼女が、ロリ体型であったことである。


 羅刹にバッドステータス:YES!ロリータ、NO!タッチ!が発動した瞬間である。

 追撃をかけようとしていた足が止まり、一瞬の停滞。

 それを好機と取ったのか、クレインが短く詠唱する。


「生み出すは火焔。穿ち、貫く。『フレイム・ランス』」


 彼女の頭の上に魔方陣が煌きそこに燃え盛る炎の槍が生まれる。


「……死んで。欠片も残さない 」


 それは留まる事を知らぬ勢いで増え続け、一瞬の躊躇いもなく怒涛の如く羅刹へと降り注いだ。


 足を止めた羅刹は降り注ぐ炎の槍を無視するかのごとくそれに向かって緩やかにクレインに向かって歩いていく。


 炎の槍を、盾で受け、剣で切り裂き、ガントレットで握りつぶす。

 高速で飛来するそれを高速で処理し続ける。

 決して弱くはないその怒涛を羅刹は突き進んだ。


 そうして微かな攻防の後、クレインの目の前に羅刹が現れる。

 振り下ろされる剣戟。

 クレインは死を予感した。


 が、それは首の1mm手前で止まり、引かれる。

 そうして羅刹は後ろに下がり、ドヤ顔をしながら言い切った。


「……これでお前は一度死んだ…… 」


 兜がなければ台無しであっただろう。


「……ふざけた真似。死んで。荒れ狂う終焉の焔、灰燼と帰せ。『テラ・プロミンス・ウェラ』」


 クレインを中心に発生した焔の波が回り全てを飲み込む。

 

 だが、それを突き破って現れた羅刹が手に持った剣をクレインの喉に突きつける。

 そしてまた下がって言い放つ。


「……また、死んだな…… 」


 そこからは最早子供の癇癪であっただろう。

 クレインが乱発する魔法を羅刹が事も無げに受けきってクレインに一撃寸止めする。

 それが幾度も幾度も繰り返される。

 もはや意地であった。


 何十回と繰り返され、クレインは息も絶え絶えと言った様相である。


「……はぁ、……はぁ。もういい、これで最後にする。消えて。眠りから解放されし原始の炎。そは焼き尽くす。身も心も魂さえも。『フレアル』!!!」


 その瞬間、羅刹の前の空間に亀裂が入る。

 そこから溢れ出す血のように紅い炎が羅刹へと絡みついた。

 

 だが、それは羅刹の一言で終わる。


「……『アブソリュート・アブソーブ』」


 羅刹の体から漆黒の陽炎が、あたかも捕食するかのごとく紅い炎を喰らいつくしていく。

 そうして一言。


「げぷっ。……失礼 」


 その言葉に、流石にクレインも諦めたようである。

 矢継ぎ早に質問をする。


「……好きにすればいい。私をどうするの?どうしたいの?ていうか、貴方は誰?むしろ何?どうしてそんなに強いの?それに此処はどういうこと?昨日、無かった。教えて。教えて 」


 クレインは知りたい事に遠慮しないようである。

 それに羅刹は事細かに答えた。


「……俺はお前が(指示を俺の代わりに出す参謀として)ほしい。我が配下となるがいい。我は羅刹。このロリフ(ロリエルフ)王国の主である。我が強いのは、そうだな。人生を(ゲームに)捧げてここまで辿りついた。それだけだ。ここは今日、我が創造した。それが全てだ。質問は以上か?ならば早々に返事を聞かせてもらおうか?我が配下になるか否かを 」

 

 羅刹は聞かれた事に簡潔に答えただけである。

 彼の対人スキルの低さからの精一杯の回答であった。

 しかしそれは目の前の少女の好奇心をとてもとても刺激する。


「……別になってもいい。お父様が言ってた。自分より強い男の下へなら言ってもいいって。意味はわからなかったけど、多分羅刹はお父様より強い。でも…… 」


 そう言ってクレインは後ろを指差した。


「ザグムンド、腕切られてる。もう飛べない。だから、私は貴方を許せない。……配下にはなれない 」


 その言葉に呆気に取られた羅刹は意味を理解するのにほんの少しだけ時間がかかった。

 そしてまた指を彷徨わせる。


「ふははははっ!なかなか難易度の高い交渉システムではないか。最初のアレがフラグだったとはな 」


 そういってウインドウを操作した羅刹はゴールデンバウムに指示を出した。

 目の前で腕を切られて蹲っている火竜を癒せ、と。


 その指令を受けたゴールデンバウムは光り輝き、一枚の光り輝く葉っぱを落とす。

 それが火竜の傷口に触れた瞬間、まるで斬られた事実は無かったかのように火竜の腕は再生し、落ちていた腕が消え去る。

 まさか瞬時に癒されると思っていなかったのか、クレインが一瞬呆ける。

 その後に羅刹に向き直った。


「……ありがとう。どうやったのかとか色々と聞きたいことが沢山ある。配下になったら教えてくれる? 」


 そういって感情の起伏の薄い、しかし好奇心に満ちた瞳でクレインは見つめた。


「……そなたの願いは叶えよう。此処に正式に我が配下となることを認める!ふむ、名はなんと言ったかな? 」

「……クレイン。クレイン・ディザス。羅刹は特別にレンって呼んでもいいよ 」

「ではレンよ、以後よろしく頼むぞ!ふははは、はーっはっはっはっは!!!」

「うん。聞きたい事、沢山ある 」


 クレインの教えて教えて攻撃が始まる前に羅刹は手で牽制した。


「それよりもだ、レンよ。そなたにやってもらいたいことがある 」


 ようやく当初の目的を果たせそうだと羅刹は安堵した。




 そして羅刹のウインドウの配下の欄に、やっと二人目の名前が増えるのであった。






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