第7話 お前はお前だ
※前半はツヴェルク視点です。
※後半は実験体No.1視点です。
ボクは店の中に入って行くNo.1の後ろ姿を見送ると、近くにあったベンチに座り込む。急に疲れが出て来ちゃった。ここまであんまり休まなかったからなぁ。
……ここがエリア35の実験施設。実はこんな施設があと2つある。しかも、この先の実験施設には管理官がいる。2人がボクらをすんなりと通すハズがない。絶対に妨害してくる。
これまでのNo.1の戦闘能力からしてたぶん次の施設があるエリア20はすんなりと通り抜けられると思う。
でも、エリア5は……どうだろう? ボク的にはこのまま、No.1が“変な感情”を持たずにいてくれるのが一番いい。そうであれば、エリア5も突破できる。
エリア5は広いエリアだ。人間の兵士が多く配置されてる。もし、彼女が“人の心を取り戻せば、危ない”。連合軍の人間は皆殺し。それが続けばいいんだけど……。
「…………」
こんな事を考えるボクはやっぱりおかしいですね。ごめんなさい……。でも、彼女に今はまだ心を取り戻して欲しくない。それが脅威になる……。
連合政府のリーダーであるティワード総統や他の将軍たちは全員出払っている。いるのはケイレイト将軍だけ。チャンスは今しかない。
このチャンスを逃せば、No.1は二度と出られなくなる。永遠に奴隷のように扱われ、いつか殺される。ボクはそんなのを見ていられなかった。だから、彼女を出した。……“自分の罪滅ぼしに”。
「ごめんなさい」
……ボクは本当に腐っている。ここの、エリア:テトラルの施設長官は――ボクだった。そして、No.1の今まで辿ってきた都市や施設を再現し、実践テストを行うように提案したのもボクだった。
多くのクローンがボクのせいで泣き叫び、苦痛に悶えながら、死んでいった。全部、ボクのせいだった――……。
◆◇◆
私は店の中にあった適当な服を着ると扉を開けて“外”に出る。黒いブーツにジーンズのズボン。黒い半そでの服。その上から黒いコートを羽織る。これで十分だろう。
「待たせたな。……行こう」
私はアリナスからアサルトソードを受け取ると、それを腰に装備して再び歩き始める。その時だった。後ろから何かが走ってきた!
私が振り返ると同時にNo.251が巨大な爪で背中から腹部を貫かれる! おびただしい量の血が床に散る。そのまま、彼女はその場に投げ捨てられる。彼女の体は床を転がり、ピクリとも動かなくなる。死んだ事は一目瞭然だった。
「グォオォォッ!!」
ハンター=アルファ……! まだ生きていたのか!
「そんな、死んだハズじゃ!」
「4体の内、どれかが生きてたんだ!」
私はアリナスとツヴェルクに迫ろうとするハンター=アルファの前にジャンプする。その途中で剣を引き抜き、着地と同時に露出した胸を斬り裂く。間髪入れずに何度も彼の体を斬りつける。連続攻撃。反撃のチャンスを与えない。私はトドメに胸を突く。怪物は雄叫びを上げながら倒れる。
「はぁ、はぁ……!」
「No.251!」
アリナスがNo.251の元に駆け寄る。腹部から大量の血を流し、彼女は既に死んでいた。また、私は人を助けられなかったのか……。
16歳の時、テトラルシティでの光景が頭を横切る。大勢の市民が次々と私の前で死に、最後には仲間までもが死んでいった。そして、私だけが生き残った。
「……ごめん」
一言、そう言うと私は重い脚を引きずるようにしてまた歩き出す。
私の周りじゃよく人が死ぬ。こんなに簡単に人って死んでもいいのだろうか……? 人の命は軽くは――。……いや、私が言えることじゃない。私は大勢の人を殺している“殺戮騎”なのだから……。
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ……!」
ツヴェルクが小さな声で言う。恐らく、No.251に言ったのだろう。お前が戦ったところでどうにかなる相手じゃない。お前も殺されるだけだ。
アリナスは何度も振り返りながら歩く。この中で一番、No.251の死を悲しんでいるのは彼女だろう。少なくとも、私じゃない。
「No.251とはどこで出会った?」
「……分からない。考えたこともなかった。気が付いたら、一緒に戦っていた。どうなっているんだ……」
ずいぶんと記憶の作りが甘いんだな。まぁ、この実践テストでアリナスの記憶を徹底的に再現する必要もないのだが。
私は歩きながら彼女に事の全てを説明していく。連合軍という組織、自身がクローンであること、テトラルシティとこの施設の関係、私のクローンであるNo.251の事を全て。
「私は……作られたのか」
「そうだ。オリジナルのお前を基に作り出されたクローンだ」
アリナスの表情は重くなる。ショックだったのだろう。だが、ほとんど何も反論しなかった。反論したくても出来なかったのかも知れない。
「私はその死んだオリジナルの代わりでしかないのか……?」
「……いや、お前はお前だ」
私はそこで立ち止まり、アリナスの方を向く。もうこのエリアからの脱出ゲートはすぐそこだ。
「例え、クローンであっても基となったオリジナルとは違う。お前は“死んだアイツ”とは別の人間だ」