表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
実験台の女騎 ――赤い夢の復讐――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第2章 再会か出会いか ――エリア:テトラル――
6/21

第5話 見覚えないですか?

 【パスリュー本部 エリア35 実験施設】


 私はぼう然としていた。開かれた扉の先は……外だった。真っ暗な空。レンガ造りの建物が並ぶ街。道路に転がるのは壊れた車と戦車。そして、無数の軍用兵器。街のアチコチから煙が上がっていた。


「な、なんだ、ここは?」

「……選抜施設ですよ。あなたのクローンの内、あなたと同じ能力を有する優秀な固体を選抜する為に作り出された……」


 私のクローン……。出来そこないを殺す為の施設というワケか。相変わらずクズ集団だな。連合軍は。


「でも、ここは外じゃないのか?」

「いえ、ここは“中”です。巨大なパスリュー本部要塞の内部に建造された実験用の街です」


 へぇ。ずいぶん、精巧な造りだな。ここまでする理由が分からない。それに、私と比較的近い能力を有する私のクローンを選抜してどうする気だ?

 私は市街戦でも行われたかのような街を歩く。ガラスの破片や瓦礫とかが至る所に転がってる。せめて、靴は履いてこればよかったな。裸足で歩くのは危なすぎる。


「……見覚えないですか?」

「は?」

「この街」


 私は辺りを見渡す。壊れた連合軍の軍用兵器、政府軍の軍用兵器。辺りに転がるガラス片や瓦礫。壊れた車と戦車。炎と煙の上がる夜の街……。


「さぁな」


 私は頭をフル回転させながら進んでいく。……そうだ、どこかと似ている。どこだ? どこの街なんだ? でも、以前、私はこれと似たような光景を見た記憶がある。


「この実験施設はあなたになるべく近い能力を持つクローンを選び出す為の施設です。つまり、あなたが切り抜けられた苦難を同じように切り抜けられるクローンを選び出す為の施設なんです」


 私の模造品が欲しいんだな。つまりのところ。それを得るための実践テストを行うための施設。……という事は“ここ”は以前私が来たことのある街をモチーフに造っているのか。


 私はかつては「国際政府」の軍人だった。政府軍人として平和な世界で起きる事件を解決する為にあらゆる場所に行っていた。

 その中で戦場の街はたった1つだけだった。平和な世界で起きた唯一の戦争。小さな戦争。1つの都市内で起きた戦争。間違いない。ここは――


「思い出しました?」

「……テトラルシティか」


 ツヴェルクは無言で頷く。その表情はなぜか重かった。

 テトラルシティは私が16歳の時に来た事があった。そこで目にしたのは戦争だった。無数のバトル=アルファや生物兵器“ハンター=アルファ”によって大勢の非力な市民が殺されていく姿は今でも忘れられない。


「1800年続いた平和が最初に消えた街です。そこをモチーフにしました」


 ツヴェルクは小声で、震えながら言う。

 私は特に気にせずに、進み続ける。こんな街、今更見たって何も変わらない。ここは所詮、レプリカ。現実のテトラルシティは戦争で死に絶えた。私は何も出来なかった。


[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]


 遠くでバトル=アルファの声がする。なんだ? 実験中か? 私はその声と銃撃音のする方向へと走り出す。ツヴェルクは躊躇する。置いてくぞ。

 私は建物の影から飛び出す。そして、アサルトライフルを持った20体ほどのバトル=アルファに向けて無数の電撃を落とす。バトル=アルファたちは簡単に倒れていく。ザコめ。


「す、すまん、助かった」


 私の背後から、最初にバトル=アルファの相手をしていた女性が近寄ってきた。私は振り返る。そこでぎょっとした。


「……どうした?」


 そこにいたのは2人の女性。片方は栗色の髪の毛をした女性。政府軍人だ。灰色の服。黒いブーツ。白い手袋。腰にあるアサルトソード。間違いなく政府軍人だ。コイツ、見た事ある。かつての私の仲間……。


「――アリナス……?」

「えっ? な、なんで私の名前を!?」


 私は俯く。そうか、コイツもクローンか。かつて、私が“助けられなかった”アリナスじゃない。アイツとはまた違う人間……。

 私はアリナスを助けられなかった。目の前で彼女は撃ち殺された。あの街から脱出する直前、奪ったヘリに乗り込む直前、彼女は死に、私だけが生き残った。


「お前、何者だ……?」

「……壊れたNo.1」


 私はアリナスの横にいる少女を見る、赤茶色の髪の毛をした少女。私とよく似た姿をしていた。コイツは私のクローンだな。今まさに選抜テストを受けている……。


「……私と似ているんですね」

「…………」


 私は自身のクローンの言葉を無視し、歩き始める。


「あ、待って。私たちと一緒に行きましょうよ! この先にヘリポートがあります。そこでヘリを奪って逃げましょうよ!」

「ヘリ? ……どこの情報だ?」


 私は立ち止まって2人に聞く。彼女たちが行こうとしている方向は脱出のゲートがある方向とは違う方向だ。もし、2人がどうしてもそっちへ行くなら私はここで彼女たちと別れなければならない。


「……えっと」

「なんで、だっけ?」


 2人は途端にオロオロする。恐らく彼女たちの頭にあるのは“作られた記憶”。その記憶だと彼女達の進む方向にヘリがあるのだろう。でも、ここは室内。例え、ヘリがあったところで逃げ出せない。

 私はツヴェルクの方を向いて言った。


「この先には何がある?」

「……えっと、実践テスト最終段階です。生物兵器ハンター=アルファが配備されているハズです。それに勝てたら合格です。……レプリカ7――あ、いや、アリナスさんは記憶を消され、別のクローンとまた同じことをさせられます」

「な、なに!?」


 アリナスは驚いた表情を浮かべる。私のクローンに至ってはぼう然としていた。状況が呑み込めていないらしい。

 やはりな。そんなことだろうと思った。人の命をなんだと思っているんだ、ここの連中は。……人を殺しまくっている私が言えることじゃないのかも知れないが。


「行くぞ!」


 戸惑う2人に強い口調でそう言うと、私は歩き出す。ここでグダグダ迷っているとザコ軍団が集まってくる。早く行かないと……。

 私のクローンとアリナスのクローン。クローンの命と普通の人間の命。その価値はどっちが重いのだろうか? 連合軍の人間はクローンの命なんか紙切れ程度にしか扱っていないだろうが……。

◆国際政府

 ◇連合政府と敵対する国家。

 ◇実験体No.1(フィルド)は元々、この国の軍人だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ