第16話 実践テスト、して上げるね
【パスリュー本部 エリア1 メイン・エントランス】
わたしは今まで自分が乗ってきた巨大な司令艦から降りる。激しく雪が降り荒れる中、大勢の兵士が慌ただしく動き回っていた。
「……何があった!]
「あ、ティワード総統! 大変です! パスリュー本部の一部の電力が停止して……!」
電力停止?
「大量のクローン・フィルドが反乱を起こしました!」
「なんだとッ!?」
わたしは拳を握りしめる。被験体No.1の、フィルドのクローンが反乱を起こしたとすればやっかいだな。あの女のクローンは1人1人が強い。
[全部隊を本部要塞内に突入させよ]
「イ、イエッサー!」
その将校は慌てて返事をすると走って行く。あの女のいるエリア5のヘリポートには軍艦5隻を向かわせた。時間なら十分あるのだ。焦る必要はない……。
◆◇◆
【パスリュー本部 エリア32 廊下】
「撃て撃て!」
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
「容赦するな!」
“私たち”は手をかざす。一斉に兵士たちの脳みその血管を切っていく。人間ってもろいね。私たちの超能力ですぐに死んじゃう。バトル=アルファならメインチップを壊せばいい。もろい。
「ぐぇッ!」
「ぐぁッ!」
[破壊――!]
隣の子のお腹を銃弾が貫く。その子はその場に血をまき散らして倒れる。あーあ、また1人死んじゃった。私、君の分まで“お返し”して上げるね。
私たちを拷問し、実験した人間。みんな殺してやる。私たちからすれば、あなたたち人間は下等な生き物。魔法も超能力も使えないのだからね。
「ク、クソッ!」
「抑え切れないッ!」
「コッチからも現れ、ぐあぁッ!」
強い者ほど命の価値があるんでしょう? それを教えてくれたのは、あなたたちじゃない。強い子だけを残して後はみんな恐ろしい実験に使われちゃったもんね……。
「ひぃ、うわぁッ」
「ギャァッ!」
「ぐぇぇッ!」
血が舞い、兵士や幹部たちは次々と倒れていく。弱いんなら生きる価値がないんでしょ? じゃ、殺してもいいよね。
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
「隔壁を閉じて! 早く!」
「電力がダウンしたままだ! 隔壁を閉じれな、ぐぁッ!」
「きゃあッ!」
私は血まみれの床を歩く。生温かい血が素足に伝わる。生温かくてなんだか気持ち悪いや。汚いね。私たちの血の方がキレイだよ。
私たちが真っ暗な廊下を歩いていると、不意に隣のスライド式の扉が開いた。一斉にそっちを見る。開けているのは男の人だった。電気がなくなって手で開けていた。
「みぃーつけた」
「実践テスト、して上げるね」
「……えッ?」
誰かが手をかざす。その男の人の首が飛ぶ。中にはまだまだ大勢の人間がいた。命の価値がないちっぽけな存在。私たちを実験台にした人間……
「うわあああッ! 扉を閉めろ! 何十体ものクローンが歩き回ってるぞ!!」
私たちは無理やり狭い隙間から入って行く。怯えて逃げ回る幹部や兵士たちに向けて一斉に手をかざす。たくさんの血が舞う。人の首や腕、脚が斬れ飛ぶ。悲鳴と絶叫が響き渡る。
私もみんなと同じように手をかざし、将校の1人を殺す。バトル=アルファを破壊する。弱いね。もろいね。私たちが今度は実験台にして上げるよ……。
◆◇◆
【パスリュー本部 エリア3 飛空艇プラットホーム】
私たちはぞろぞろと飛空艇格納庫に入る。射程範囲に入ったヤツから順番に斬り裂いていく。もはや、アイツらは半狂乱だった。
人を押し込んだガンシップが、灰色の雪の世界へと次々と飛んでいく。飛んでいく際に誰かを轢き殺したり、他のガンシップにぶつかるのは全く気にしていなかった。
「早く離陸しろ!」
「邪魔だ! どけテメェ!」
「もうそこまで来てんぞ!」
私は衝撃弾を飛ばす。大勢の人間が吹き飛び、宙を舞う。あはは、これは面白い。私のを見て、他のみんなも同じようにマネをし出す。何百発ものおびただしい数の衝撃弾が飛び、爆発する。建物が激しく揺れる。
まだたくさん残っていたガンシップは粉々になり、飛び立てても、他のガンシップにぶつかって爆発した。炎と怒号が渦巻く。
……私たちの怒りはこんなものじゃない。価値なき人間を殺しつくすまではこの怒りの炎は耐える事はない。
「ひぃぃッ、助け、ぐぁぁッ!」
「ぐぇッ!」
「ぎゃぁッ……!」
私たちは生き残った人間を殺していく。私たちは戦う為に生み出された。人を殺す為に生み出された。だから、殺した人間の数だけ価値が上がるんでしょう? そう教えたのはあなたたちだよ……。
隣の子をチラリと見る。お腹や背中に無数の鞭の後。私にも後ろの子にもある。生まれた時のキレイな体のままの子は誰もいない。みんな傷がある。
「うぁッ!」
[破壊セヨ!]
「ガハッ!」
傷だらけにされて、痛い事いっぱいされて、いっぱい訓練された。人を殺す為に。その成果を見せて上げる。あなたたちの身体にね……。
◆◇◆
【パスリュー本部 エリア25 居住エリア】
私は今の今まで寝ていた女をベッドから引きずり下ろす。
「いやぁぁッ! 殺さないで! 死にたくないぃッ! 許して、許してぇッ!!」
彼女は泣き叫びながら許しを乞う。私は無言で彼女を引きずって行く。腕力でも人間と私たちとじゃレベルが違う。私たちは人間の男性の1.5倍の腕力があった。
女を引きずってる最中、バトル=コマンダーを先頭としたバトル=アルファの分隊に出くわした。全員がアサルトライフルを装備している。
[彼女を放せ!]
「…………」
邪魔な機械だ。私はバトル=コマンダーに向けて火炎弾を撃つ。彼は一瞬にして炎に包まれ、その場に倒れる。その瞬間、バトル=アルファたちは一斉に射撃を始める。
私は素早く物理シールドを張り、銃撃を防ぐ。そして、彼らに向けて大型の衝撃弾を撃った。爆音と共に、全機が吹き飛ばされ、破壊された。
「助けて、助けて……。死にたくありません、死にたくないです……」
女は泣きながら懇願するが、私は気にも留めずに引きずって行く。服を着ていないせいか、廊下は冷たかった。この女、ここで燃やして温まってもいいかな……?




