第15話 ボクは、フィルドさんのことが、
私の足元に倒れるツヴェルク。その胸から噴き出る血。背中から胸まで銃弾が貫通していた。
「ツヴェルク!? ツヴェルク!!?」
私はツヴェルクを抱き締める。口からも血が出ていた。ウソだ、ウソだ……! ツヴェルクが、ツヴェルクが……死んじゃう……!
私はサーベたちの方を向く。誰だ、ツヴェルクを撃ったのは! ブッ殺してやる! よくも、彼を、彼を……!
「モルを殺したのは誰だっけ?」
銃口から煙の上がるハンドガンを握り締めたケイレイトが降りてくる。……煙の上がる? そうか、ツヴェルクを撃ったのはあの女か! 許さない……!
「ちょっと待ってろ。あの女、殺してくる」
私はケイレイトを睨めつけながら立ち上がる。殺してやる、バラバラにしてこの雪山に捨ててやる……! だが、私のズボンの裾を誰かが握り締める。ツヴェルクだ。
「に、げ……! ボクはもう――。名前、分かんなくて、…ごめ、な――い」
私は再びツヴェルクを強く抱き締める。涙が溢れてきた。さっき、あの時、私が変な気を起こさなければ、こんなことにはならなかった……! 私のせいで、ツヴェルクが……!
「フィルド=ネスト……。わ、私の名前、だ」
私は涙を拭いながら言う。後から後から涙が溢れる。
「……フィルドさ、ん、ボクがあなたを、助けた――のは、あなた、の泣き叫ぶクローンを、見ていて、非道な事を、するのに、耐えられなく、なって――」
「もう、いい。黙っていろっ! 一緒に、逃げるぞ」
私はツヴェルクを抱いて、空中で待機しているガンシップまで飛ぼうとする。少し距離がありすぎる……! 届くかどうか怪しい……。
「贖罪と信じ、あなたを――。でもっ、やっぱり、ボクは、死ななくちゃ、罪は、……。さ、ような、ら――」
「ツヴェルク!」
「……ボクは、フィルドさんのことが、好きで――」
急にツヴェルクの身体から力が抜ける。がっくりとしてピクリとも動かなくなった。私はその場で動けなくなる。
ウソだ、ウソだっ、ウソだッ! ツヴェルクが、死んだワケないッ――!
「うわああぁぁあぁッ!!」
私はツヴェルクを抱き締めまま、その場にうずくまる。
いつもこうだ! 私はどこからか脱出しようとすると、成功する直前でいつも誰かを失う! テトラルシティじゃアリナスたちを失った。エリア:テトラルでもクローンのアリナスを失った。そして、今またツヴェルクを失ったッ――!
私は下唇をかみしめながらツヴェルクをその場に置くと、ゆっくりと立ち上る。もう、イヤだ! 私の大切なものばかり奪われるこんな世界、ぶっ壊してやる! みんな死んでしまえぇッ!!
「死ねぇッ!」
「…………!?」
「…………!」
私は手をかざす。サーベとゴーギルの身体が一瞬にして上半身と下半身で斬れ飛び、そこから大量の血が噴き出す。周りのバトル=アルファも一瞬で木端微塵になる。
「ハハハハハッ!」
「ひぃっ……!」
ジェット機を使い、ケイレイトが逃げ出す。逃がすか! 私は彼女に向かって手をかざす。ジェット機が爆発し、彼女の体は弾き飛ばされ、ヘリポートの下、暗い谷底へと消えていった。
次は今まで通ってきたパスリュー本部の方、雪山の方に向けて手をかざす。次々と爆発が起こる。氷の塊が宙を舞い、金属の瓦礫が共に飛ぶ。
――そうだ、消してしまえ。みんな殺してしまえば、それでいい……。
轟音と爆音が相次いで鳴り響き、巨大なパスリュー本部は惨劇の要塞と化す。ヘリポートが激しく揺れる。私が乗ってきたエレベーターは既に炎につつまれていた。
私は自身の能力で壊せる範囲を壊しつくすと、次は激しく雪が舞い散る空を見る。連合軍の軍艦が5隻、こっちに向かって来ていた。
――殺せ、もっと殺せ、もっと多くの人間を殺すんだ……。
私は空の軍艦の艦隊に向けて手をかざす。一番近くまで近づいて来ていた軍艦の大きな機体に次々と爆発を起こさせる。何度も爆発が起こり、その軍艦は炎上し、そのまま雪原へと消えていった。
私はセイレーンの運転するガンシップに飛び乗ると、残りの4隻の軍艦に向けて手をかざす。軍艦は一斉に砲撃を開始する。無数の砲弾が飛んでくる。それら全てを私は着弾する前に砕いていく。
「ハハハハ! そんなオモチャで私に勝つと!?」
軍艦の機体に大きな爆発を起こし、穴をを空けていく。攻撃に耐えられなくなった軍艦3隻が炎に包まれ、雪山へと突っ込んでいく。
私は残り1隻となった軍艦を追おうとする。アレも既に瀕死の軍艦だ。炎を上げ、フラフラと飛んでいる。反撃する力もないのか、逃げ出していた。
だが、飛ぼうとした瞬間、激しい眩暈が襲ってきた。それと同時に自身の口から大量の血が噴き出す。咳き込む。その度に血が出る。
「な、なんだ、これ!?」
私は激しい眩暈と頭痛に倒れそうになりながら、ガンシップの中へと入る。ガンシップの中でまた激しく吐血した。
「グッ! な、んでッ……!?」
身体中が痛い! 意識が飛びそうだ……! 助けて、パトラー……! かつての仲間であった少女の顔が思い浮かぶ。人殺しと戦争を嫌う優しい少女。私の大切な仲間……。
「ティ、ティワードを殺す…… ヤツのとこに飛べ……!」
私は口から血を吐きながらセイレーンに“命令する”。心の中では連合軍に対する憎しみが渦巻いていた。その身体はすでにボロボロなのに。
「…………。無理でしょ?」
「だ、大丈夫っ、人を1人殺す力は、ある……」
荒い息をしながら、そこまで言うと、再び咳き込む。その途端、今までにないほどの血を吐き出す。真っ赤な、でもどこか黒い血液だった。私は、死ぬのか……?
意識が遠のいていく。消えゆく意識の中、私はまた泣いているような気がした――。
泣く? そんなワケないだろ。ツヴェルクが死んで、もう十分泣いた。
…………。なんで、また泣くんだ? 何が哀しいんだ……?




