第14話 お前なんか、大っ嫌いだ
私はその場に座り込む。体の震え。心が壊れていくような気がした。
「あらあら、ビックリさせすぎたかな? まぁ、仕方ねぇよな」
腹から下の切除された部分から伸びる無数の管。生命維持装置だろうか……? 管の一部は背中にも取り付けられているようだった。その管でボンベの上から彼女を吊るしているようだった。彼女のやせ細った体が僅かに揺れる。
「痛いィ……! 痛い……」
小声で彼女が痛みを訴えてくる。その顔は涙で濡れていた。
「我々は魔法が使えるお前のクローンを利用し、強力な魔法を使える装置を作り出したのだ」
「…………!」
「どうかな? この素晴らしいクローン利用は…… 一応、下半身の方もは切る前にしっかりと遊ばせて――」
「痛いぃぃッ! もう殺してぇッ! 死にたいよ、死にたい、死にたいぃッ!!」
私のクローンが叫び始める。もはや、彼女は助けではなく、死を求めていた。涙の溢れるその目は私をしっかりと捉えていた。
「チッ、うるせぇ女だな。声帯も切っときゃよかったぜ」
「貴様……!」
私は涙を拭うと、彼らに飛びかかる。みんな、みんなブッ殺してやる……! 絶対に許さない!
「ははッ、“キャンセル”しろ!」
「いやああぁぁッ!!」
悲鳴と共に彼女は身体をのけ反らせる。その瞬間、私の体はまた吹き飛ばされる。物理シールドか何かか?
無理やりあの子の体から魔力を引きずり出しているのは明らかだった。あの体に打ち込まれた管のどれかがその機能を持ってるのだろう。
「クッ……!」
[サーベ少将、ゴーギル少将、ティワード総統率いる艦隊が着艦なされました]
「やっとご到着か。さ、早いところ捕まえるか」
[それと――]
「いやあぁぁぁッ!」
悲鳴と同時に無数の雷が落ちて来る。私は魔法シールドを張ったまま、素早く避ける。あんなに強力な魔法攻撃、到底防げるものじゃない。
何としてでも倒さないと……。あんな攻撃するヤツを残したままガンシップに乗れない。即座に撃ち落される。それに、アイツを――。
「痛い痛い痛いッ、もうしないで、せめて、私を殺してから……」
「バカ言ってんじゃねぇよ。テメェが死んだら魔法が使えねぇだろぉが」
「うぅッ、酷いッ……」
私は拳を強く握りしめ、下唇を噛み締める。許さない……! 再び彼女の元に向かって私は走り出す。怒りと憎しみが蘇りつつあった。殺戮騎としての私が姿を現し始めていた。
「バカめ、無駄な事を……! “キャンセル・シー……”!」
ゴーギルが再びキャンセル・シールドを発動させようとした時だった。乾いた音が鳴り響いた。私の後ろから1つの銃弾が飛んでいく。それは一直線に空気を切り裂きながら進み、“地獄”の中に閉じ込められら私のクローンの額を貫いた!
「なッ……!?」
私は驚き、後ろを振り返る。そこにいたのは少年――ツヴェルクだった。その手にあるのは煙を上げるハンドガン。
「お前ッ……!」
私はツヴェルクの元に駆け寄り、その胸倉を掴む。そして、拳を握り締めてその頬を思いっきり殴った。血が舞い、彼はうっすらと雪が積もったコンクリートの上に倒れ込む。
「お前っ、よくもあの子を、私のクローンを!」
「グッ……! じゃぁ、どうするつもりだったんですか……? あのキャンセル・シールドをどうするつもりだったんですか!? あの子を助けてどうするつもりだったんですか!?」
「なんだと……!」
「あの子はもう手足と内臓を失っているんですよ!? 今助けたって、3日後にはもう死ぬんですよ!? しかも、その間はずっと苦痛を味わうだけなんですよ!?」
私はツヴェルクを睨みつける。頭のどこかで分かっていた。彼の言っていることは正しい。私にあのキャンセル・シールドを防ぐ策もなければ、あの子を助けた後、どうするかも考えていなかった。ただ、怒りのままに突っ込んだだけだった。
それに、さっきの通信だと、ティワード率いる連合軍の大軍が到着した。このままだと脱出出来なくなる。時間がもうなかった。あの子を助ける時間が……。
ツヴェルクの言ってることは正しい。でも、感情は全くついて来ない。心の内側から湧き上がる殺戮騎が彼を殺せと囁いている。
――ツヴェルクは私イラつかせる人間だ。殺してしまえ。私にはその力があるんだぞ……。
私はゆっくりと歩き出す。ヘリポートのすぐ近くで飛んでいるガンシップに向かって。セイレーンの運転するガンシップに向かって。ツヴェルクにはもう見向きもしなかった。
「な、No.1……?」
「うるさい。二度と私の前に姿を晒すな。お前なんか、大っ嫌いだ。……それと、私をNo.1と呼ぶの、やめてくれ」
「え、えっ、そんな! No、……! あの、その、名前……」
いきなり動揺したような声を上げるツヴェルク。私は彼のことを無視し、ガンシップに向かう。ガンシップは空中で待機していた。あの距離なら飛び乗れるな。
ツヴェルクなんかもう知るか。“特別に”命だけは助けてやる。後は勝手にしてくれ。私の知ったことじゃない。
私がガンシップに向かって飛ぼうとした時だった。私のすぐ後ろで1発の銃弾が放たれた音がした。その音と共に、私の足元で誰が倒れた。
「ナ、…ン、――1」
「……ツヴェルク――!?」