第13話 ヘル=フィルドってなんだ?
転がっていたバトル=パラディンの首が、飛んできた火炎弾によって焼き壊される。それと同時に槍を振り回していたバトル=パラディンは機能を停止し、その場に倒れる。
私は後ろにいるバトル=メシェディを蹴り倒し、その手を振りほどく。バトル=メシェディはその場に尻餅をついて倒れ込む。
[あ、ケイレイトしょ――]
私は超能力でバトル=パラディンの頭部を真っ二つに斬り裂く。続けてケイレイトの首を斬ろうと、手を向ける。
だが、それとほぼ同時に彼女は空中に飛び上がり、私との間隔を5メートル以上空けてしまう。その背中にはいつの間にかジェット機が背負われていた。
「No.1!」
「お前はセイレーンを拾ってガンシップにへ急げ! もう離陸しろ!」
「えッ!? でも――」
「私なら飛び乗れる!」
私はツヴェルクに怒鳴りながらケイレイトに向けて5発の衝撃弾を撃つ。白い球体が飛んでいく。彼女はそれに向けてブーメランを投げる。全ての衝撃弾が爆発する。チッ……!
手に魔力を溜め、今度は電撃を繰り出そうとした。その時、視界の隅にあるものが映った。大型の黒い飛空艇。連合軍の軍艦の艦隊だ!
「エリア3の第4緊急エアポートに軍艦を1隻回せして! このままだと逃げられるッ!」
[――で―? ―――?]
「こんなときに通信エラーなんて……!」
空に浮かぶ無数の大型飛空艇。連合軍の軍艦。その数は10隻以上はあった。その後ろにはまだまだあるのだろう。軍艦の中には当然のことながら、小型の戦闘ヘリやガンシップが収納されている。追われながら逃げることになりそうだ……!
「パスリュー最高司令室! 軍艦を1隻をレベル3の第4緊急エアポートに回すように伝令を!」
[あ、ケイ―ト将――! 援軍――]
「えっ、何を言っているの!?」
ケイレイトはまた通信トラブルか。さっきの私の巨大衝撃弾でエリア:オーロラをぶっ壊した際に通信システムを壊しちゃったかもな。
私がガンシップに向かおうとした時だった。大型のエレベーターが開き、中から新手の敵が現れる。20体ほどのバトル=アルファと2人の軍人。そして、黒い円柱のボンベ。なんだアレ?
「ケイレイト将軍! ご無事ですか!?」
「…………! サーベ、ゴーギル、“それ”は……!」
“それ”ってどれだ? ……あの円柱のボンベの事か? 私は無視して飛び立とうとするガンシップに向かう。だが、ケイレイトの言葉で私の身体は止まる。
「“ヘル=フィルド”を持ち出したのは誰の命令……?」
「…………?」
「ティワード総統のご命令です」
金髪の蒼い瞳をしたサーベという男性が答える。服装から上級将校だろうか? マントのような白いコートにキレイなバッジが付けられていた。長髪の頭には黒い帽子。ゴーギルは黒の長髪にメガネ。瞳の色は緑。服装はサーベと同じだった。
「おい、ヘル=フィルドってなんだ?」
私は空中を飛ぶケイレイトに向かって低い声で言った。ぎゅっと拳を握る。何か、イヤな予感がした。彼女は答えずに顔を背ける。代わりにゴーギルが口を開く。
「新しい“生物兵器”さ」
「そのボンベが生物兵器だと? どっからどう見てもただのボンベじゃないか」
……そう、ただのボンベだ。……なのになんでこんなにイヤな予感がする? 何が気になるんだ? 放っておいてさっさとガンシップに乗らなきゃいけないのに……。
ボンベにはNo.321362と書かれていた。それがますますイヤな予感をさせる。私のクローンも同じようにNoで管理されている。
…………。……気のせいだ。あんな小さいボンベに人は入れない。大きさは140センチほどしかないボンベだ。人は入れない。
「……あ? 停電? それぐらいで連絡してくるな。……は? なんて言った? よく聞こえないぞ?」
サーベの言葉で私ははっと我に返る。そうだ、早くしないと軍艦がやって来る。もうすでにガンシップは離陸している。
「お前たちに私は捕まらない。残念だったな」
私は彼らに背を向けようとした時だった。私の体を1本の雷が貫いた! その威力はあまりにも高く、一瞬意識が飛んだ。私はその場に倒れる。
「がッ、ハッ――」
「オイオイ、挨拶なしで行くのかよ」
サーベの冷たい言葉が後ろから聞こえてくる。私は必死で意識を保つ。フラフラになりながらも、なんとか立つと魔法シールドを張る。
「ハ、ハハッ、そんなに挨拶が欲しいならしてやるよッ!」
私は笑みを浮かべながら大きく床を蹴って飛ぶと、サーベとゴーギルに向けて手をかざす。だが、2人は知らないのか全く恐れる様子はなかった。消えろ――!
「――No.362、“キャンセル”しろ」
それと同時に私の超能力は見えないシールドによって防がれる。それどころか私の身体も何かによって弾かれる。空中を舞い、地面に強く背中を打つ。痛みが走る。
「クッ……! な、なんだっ、挨拶はいらないのか!?」
「……挨拶? あぁ、そりゃぁ、“コイツ”にしろよ」
そう言うとサーベはボンベの上に手を置く。コイツ? ボンベに?
「チッ、あの実験体なんも分かっちゃいねぇぜ」
「じゃ、“中身”を見せりゃぁいいだろ」
中身? ウソだ、ウソだ……。あり得ないッ!
「いや、大方予測はついてんだろ? これの中身」
「何を言ってる!? あの中に人が入れると思うのか!?」
もはや震え声だった。何が入っているのか、予測がつきそうだった。いや、何となく分かっていた。でも、それを認めたくはなかった。
「よかったなぁ、お前は。また1つ、連合軍の生物兵器に詳しくなれるぞ」
サーベが左腕に付けた小型コンピューターを操作する。ボンベの側面がゆっくりと開いていく。そこにあったものは想像よりも酷いものだった。
「…ぁ、あぅ……、…助け、っ…。もう、殺し……て」
「…………ッ!?」
ボンベの中に入っていたのは、手と下半身を完全に切除された私のクローンだった――。