第12話 頭を壊すんです!
【連合軍パスリュー本部 エリア5 外部エリア】
入ってきた方向とは逆方向の扉が開かれる。開くと同時に冷たい風が入ってくる。外は極寒の世界だった。真っ白の雪が吹き荒れている。“外”……か?
外に出ると、辺りを見渡す。長方形状の広いコンクリートの床。それが外に向かって突き出ている感じだった。
ヘリポートの横半分までは天井に覆われ、もう半分は完全に露出し、雪が薄らと積もっている。雪が積もっているところに10機ほどの黒い機体をしたガンシップが並んでいた。左右にプロペラを持つ、戦闘型ヘリコプターだ。
「…………」
私は天井に覆われていない場所まで歩く。冷たい雪が体にかかる。このまま、ガンシップに乗れば脱出できる。だが、ツヴェルクとセイレーンは……。その時、ガンシップの扉が開き、中から誰かが出て来た。
「ツヴェルク!」
「No.1!」
ツヴェルクが駆け寄ってくる。コイツ、なんで私より先に……?
「よかった、無事だったんですね!」
「あ、ああ……。それよりも何でお前が先に?」
「アレ? 説明していませんでしたっけ? ボクは体が小さいから排気口を通ってここに来たんですよ。ほら、あそこ」
ツヴェルクが斜め上の方を指を指す。そこには金網のない排気口があった。確かに、体の小さいツヴェルクなら通れそうな穴だ。私やアリナスには無理だろう。――むろん、セイレーンにも無理だ。
「セイレーンは、どうした?」
「……えっ? 一緒じゃないんですか?」
私はさっと後ろを向く。最悪だ。アイツ、あのエリアにいたんだ……! 私は急いで戻ろうとするが、その手をツヴェルクが握る。
「…………? ツヴェルク?」
「もう、間に合いません……。それに、急がないと、艦隊が……」
艦隊? 何の話だ?
「通信を盗聴したんです! ティワード総統とバトル=オーディン将軍、メタルメカ将軍の3人が大軍を率いて戻って来るって!」
「なにッ!?」
連合軍の主要メンバー3人……! もし彼らが戻ってこれば、脱出が難しくなる。それに私の体力も、もう限界だった。
頭に迷いが生じる。セイレーンを助けたい。でも、新手の敵と戦う体力はない。ツヴェルクの言うように彼女を見捨てて逃げるか……?
「いいじゃないですか。彼女は元々、敵だったんですよね!?」
「……それはお前も、だろ」
確かにセイレーンはその昔は敵だった。だからと言って彼女を見捨てて、私とコイツだけで逃げていいのか……? ……パトラーなら見捨てないだろう。でも、見捨てなければ、自身の破滅に繋がるかも知れない。
その時、エレベーターの扉が開く。中から複数の人間が現れる。アレは……!
「セイレーン!」
エレベーターの中から現れたのはセイレーン……とケイレイト。上級戦闘用ロボットのバトル=メシェディ。それに槍を持った2体のバトル=パラディン。2体のバトル=パラディンに槍を突き付けられているのを見る限り、セイレーンは途中で捕まったようだ。
「……逃がさないよ」
ケイレイト……! 連合軍主要メンバーの1人にして、連合軍七将軍の1人!
「……探す手間が省けた」
私はツヴェルクの腰からアサルトソードを無理やり引き抜くと、それを握り締めてケイレイトに飛びかかる。ケイレイトは腰に装備していたブーメランを握り、同じように私に向かって来る。
激しい金属音が鳴り響く。私は何度も、何度も激しく攻撃を繰り返す。正直なところ、もう魔法は使いたくなかった。体力の限界だった。
「フフッ、焦ってるようだね」
「うるさいッ!」
ケイレイトのブーメランを剣で弾き飛ばす。彼女を斬り倒そうとするが、素早く後ろに飛ばれ、避けられる。チッ!
私は今度はバトル=パラディンに近づく。1体がセイレーンの背中に槍を突き刺し、そのままの状態で電撃をする。彼女の体に激しい電気が流され、彼女は悲鳴と共に倒れる。それが終わると、2体のバトル=パラディンは私の方にやってくる。
[No.1 破壊スル]
[ターゲット ロックオン]
槍を振りかざし、私を突き刺そうとする。私は剣で1体のバトル=パラディンの槍を斬り壊す。それを見たそのバトル=パラディンは槍を捨て、私に向けて腕を突きだす。その手首から無数の銃弾が飛んできた! アイツの手首はマシンガンになってるのかッ!
「う、うわっ!」
物理シールドを張っていない私は慌てて飛ぶ。飛ぶ先はバトル=パラディンの頭上だった。私はバトル=パラディンの頭に対になって付いている角に飛びつく。
片方のバトル=パラディンが槍で私を突こうとする。突かれる寸前で私はもう片方のヤツに飛び乗る。槍は片方のバトル=パラディンの角に突き刺さる。
私は飛び降りると、落としたアサルトソードを拾う。そして、そのまま槍を持ったバトル=パラディンの首をハネる。首は薄らと白い地面に転がる。残り1体!
「No.1! バトル=パラディンは頭部を完全に破壊して下さいッ! 頭を壊すんです!!」
「えっ?」
片方のバトル=パラディンの角に刺さった槍が引き抜かれる。引き抜いたのは首の飛んだバトル=パラディンだった! なんでコイツ動けるんだ!?
ふと地面を見る。転がったバトル=パラディンの目がこっちを見ていた。そういう事か! あの角は電波の役割をしている。だから首が斬れても敵を捕えることが出来るんだ!
首を失ったバトル=パラディンは槍をぐるぐる回しながら近づいてくる。その時、誰かが私の体に抱き着いてくる。もう片方のバトル=パラディン……じゃない! バトル=メシェディだ!
「クッ、離せ!」
片方の角に損傷を負ったバトル=パラディンとケイレイトがツヴェルクの方に走って行く。ヤバいっ! でも、それはこっちも同じだった。
バトル=パラディンが私の方に槍を向ける。先端がビリビリと電気を放っていた。シールドなしであの槍を喰らったら終わりだ。どうすれば……!