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実験台の女騎 ――赤い夢の復讐――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第3章 非力な敵 ――エリア:ポート――
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第9話 私のこと、殺さないの……?

「セイレーン」

「…………!?」


 私の呼びかけにセイレーンは驚いた表情をすると同時に素早く後ろに下がる。私を警戒しているのは明らかだった。そりゃそうだろうな。5年前のことがあるのだから。


「まさか、あなた……!」

「さっきのクローンのオリジナルだ。お前たちの間でいう被験体No.1だ」

「そんな……! どうやって出たの!?」


 私はセイレーンの質問に答えないで間合いを詰めていく。彼女は僅かに震えながら下がっていく。サキュバスでもほとんどの点で人間の女性と同じ。死ぬのは怖いらしい。

 だが、この狭い実験施設でそう逃げられる場所はない。あっという間に一番奥まで来てしまう。横のゲートは私たちの進む道だ。


「殺すのか?」


 後から追いついてきたアリナスが言う。この時、私は既にセイレーンに向けて手をかざそうとしていた。超能力で彼女を殺す気でいた。

 アリナスの言葉に私の手が止まる。迷い。ここの施設長官となった連合軍准将のセイレーン……。何の攻撃も抵抗もしない彼女を私は……。


「私のこと、殺さないの……?」


 震えながら彼女は言う。私は無言でゲートの横にある操作パネルに触れる。ゲートが開く。エレベーター。この先のエリアを突破すれば、パスリュー本部から出られる。


「殺して欲しいか?」


 私の問いに彼女は激しく首を横に振る。


「じゃぁ、殺さないでおこう……」


 ……5年前の私でも殺していただろう。思えば、敵を容赦なく殺すようになったのは5年前からかも知れない。

 10年前のテトラルシティでも私は人を殺した。その時は、敵は多くの市民を殺し、私を殺そうとしていた。だから、市民を守る為にも、自分を守る為にも、殺した。


「……連合軍の人間の命とお前たち魔物の命。私と私のクローンの命。どれが一番重いのだろうな……」


 私はそう呟くとエレベーターに乗り込む。アリナスとツヴェルクも乗り込んでくる。私が操作パネルに触れようとした時、セイレーンが飛び乗るようにして入ってきた。


「私も、一緒に……」

「お前は連合軍准将だろう?」

「…………。連合軍に捕えられて、無理やり今の地位を……。あなたのクローンをテストする任務を押し付けられた……」

「捕えられて? 5年前、死ななかったのか?」


 5年前、政府軍によるサキュバスの討伐作戦が行われた。その際に、セイレーンは死んだと報告を受けていた。てっきりコイツもクローンと思っていたが……。


「あなたの部下に逃がして貰ったの。優しいあの子に」

「……パトラーか」


 セイレーンは無言で頷く。そうか、パトラーが……。アイツは私とは違う。優しいあの子は物事を正しく判断出来る。……あの子は“私を殺せる唯一の人間”だろう。


「いいんだな?」

「……パトラーに助けて貰った命、連合軍の為に使いたくない」

「そうか……」


 私はボタンを押し、ゲートの扉を閉じた。エレベーターは上に向かって進んでいく。次のエリアで最後だ。次のエリアを突破すれば脱出できる。最初は出会う連合軍の人間を次々と殺していった。それが至福だった。でも、今は……。

 魔物の命、クローンの命、私の命、連合軍の人間の命……。どれが一番重い、なんて決める事は出来ないのじゃないのだろうか? 命の重みに差なんてないような気がした。


「…………」


 この時、私はセイレーンの視線に気がついていなかった。私と同じ“憎しみの目”をしていた事に……。



◆◇◆



 【パスリュー本部 エリア5 実験施設】


「ケイレイト将軍、第3中隊から第8中隊まで配備完了しました!」

「警戒を怠らないで……。この“エリア:オーロラ”を突破されればヘリポートに出られてしまう」

「はい、閣下!」


 私は震える手で将校達に指令を出していた。今、この施設にいる将軍は私だけ。何かあれば全責任が追わされる。被験体No.1を逃がせば、最悪、私は殺されるかも知れない。


「ティワード総統より通信が入っております」

「繋いで」


 目の前の小型立体映像投影機に蒼色をした小さな立体映像が表示される。連合軍の総統ティワードだった。


[ケイレイト将軍、わたしとバトル=オーディン将軍が戻るまで持ちこたえよ]

「はい、総督。必ず……!」

[必ず、だぞ……]


 彼はそう言うと通信を切る。私は下唇を噛み締め、さっと別方向を向く。


「エリア:テトラルのツヴェルク軍曹及びエリア:ポートのセイレーン准将は裏切り者だ。見つけたらすぐに処刑して」

「はい、将軍閣下」


 その将校は頭を下げ、一礼すると2体のバトル=パラディンを引き連れ、私の元から去って行く。その後ろ姿を見て、私は少しだけ笑った。モルちゃんの仇、絶対に取るよ……。私はあの女を絶対に許さない!

 私は後ろを向く。そこにいるのは黒いレザースーツを着た女性15人。彼女たちはこれから捕える被験体No.1のクローンたちだった。それも強力な“SFT(スーパー・フィルド=トルーパー)”たちだった。


「被験体No.1のみを殺さずに捕えて。他の人間は全員殺してっ!」

「イエッサーッ!」


 スーパー・フィルド=トルーパー全員が一斉に返事をし、散らばっていく。完成したNo.1のクローン部隊。絶対に勝てる。彼女たちだけでも勝てるかも知れない。

 彼女達に加えて、2000体ものバトル=アルファ軍団。更にはその他の軍用兵器。総兵力3000。3000体と4人。勝てる。何も焦る必要なんてない。私の勝ちは決まっている……!


[エリア:オーロラ 全部隊配備完了しました]

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