活動1日目その③
どうぞごゆっくり
5
午後5時。
おれ達は宏一先輩の言う通り再び大広場に集まっていた。
宏一先輩だけはまだ来ていないけど。
「タロウ君はうまく宣伝できたのかい?」
菊太郎先輩がおれに話しかけてきた。
「まぁなんとか……。宣伝って結構緊張するもんなんすね」
おれは照れ笑いをしながら頭をかく。
「菊太郎先輩はどうだったんすか?」
おれがそう尋ねると新ノ介先輩が隣から呆れたように言う。
「あのなぁ、菊太郎やで? そんなん絶対に――」
「まぁ、このぼくから溢れ出るカリスマかつ素晴らしいオーラによってぼくとすれ違った人はハーメルンの笛吹男のごとく皆ここへやってくるだろうね」
「ほらな。あんな意味のわからんこと言い出すやろ?」
新ノ介先輩の言葉におれはうなずいた。
たしかに意味がわからない。
まぁ、分かりたくもないんだけど。
「おー、みんな集まってんな」
宏一先輩が歩いてやってくる。
自分が遅れてきてるっていうのにマイペースな人だ。
「じゃあ次すること言うぞ。おい新ノ介」
「了解や」
そううなずいておれたちの方を見る。
「今からもっかい基地に戻るで、ここからが本番やからな」
新ノ介先輩がまるで宏一先輩のようにニヤリと笑った。
6
「ほい、タロウの分や」
「はぁ……」
おれは上の空状態で新ノ介先輩からヘルメットを受け取る。
「まぁ、落ちるなんてことないと思うけど、なんかあったら困るからな一応かぶっとき」
おれは素直にヘルメットをかぶる。
これ、本物じゃないよな……?
基地に戻ったおれ達は新ノ介先輩の案内でリビングのさらに地下、新ノ介先輩の作業室の隣にある部屋、ドアに貼ってあるプレートには『実験室』と書かれた部屋にやってきていた。
そして「上は寒いから」という理由でおれ達4人はサンタ服としか言い様のない真っ赤な服を着ている。
ていうか何よりおれが今こんなぼんやり状態になっている一番の原因はおれ達の目にある、この立派なソリの存在だ。
なんというか……悪い予感しかしない。
「あの……新ノ介先輩」
「ん? なんや?」
「まさかこの後、トナカイが出てくるなんてありえない展開があったりしませんヨネ?」
おれの言葉に新ノ介先輩の顔がキョトンとする。
「何言うてんねん。トナカイなんておるわけないやん」
おれはその言葉にほっと胸をなでおろす。
「本当は用意したかったんだけどな」
宏一先輩がすねたように言う。
「あほう。そんなもん用意してもたらこっちの都合上いろいろとめんどくさいんや。元々空飛んでくれるトナカイなんておらんやろ!?」
「でもやっぱりサンタといえばトナカイ。トナカイといえばサンタだろ?」
宏一先輩と新ノ介先輩の口論が始まる。
完全におれと菊太郎先輩はおいてけぼりだ。
でも、先輩達がやろうとしていることはなんとなくわかった。
本当は分かりたくなかったけど。
菊太郎先輩もわかったようだった。
しかし菊太郎先輩は2人の口論を止める気はサラサラないようなので、仕方なくおれが間に入る。
「まぁまぁ、2人とも。そろそろ全部説明してくれてもいいんじゃないっすか?」
おれがそう言うと宏一先輩ははっと我に帰ったような顔をして「それもそうだな」と言った。
宏一先輩は近くにあったホワイトボードをガラガラと引きずっておれ達の前まで持ってくる。
「よし、じゃあ今回のクリスマス盛り上げ計画の全てを説明する」
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