一方その頃 ─菊太郎編─
はんなりはんなりしていってください
タロウ達と別れたあと、菊太郎はある違和感を感じ、大広場へと戻ってきていた。
「(やっぱりどこか違和感が……)」
菊太郎は徐々に視線を上へあげ、ついにその違和感の原因に気づいた。
「(星が……なくなっている?)」
確かに星はなくなっている。
しかしこのツリーは全長15mあり、一般人が素手で一番上の星をとるのは不可能だ。
「……」
菊太郎はロングコートのポケットからスマートフォンを取り出し部下に電話をかける。
『はい、菊太郎様。どのような御用でしょうか』
ワンコールもしないうちに部下の声がスマートフォンから聞こえる。
「ちょっと駅前の大広場にある、菊花社が建てたクリスマスツリーのことで聞きたいことがあってね。……クリスマスツリーの一番上の星がなくなっていることを菊花社は既に知っているのかい?」
『もちろんです。しかしツリーが監視カメラの範囲に収まらないため、犯人の姿はとらえられていませんし、動機、盗み出した方法も不明です。現在一部の社員が犯人を捜索中です」
「……そうかい。じゃあぼくの指示を上に伝えておいてくれないかい?」
『はい』
「今回のことはほっておいて構わないよ」
『――え?』
「今回の星のことはほっておけばいい。そのうち帰ってくるだろうし、もし帰ってこなかったとしてもまた作り直せばいいだけの話さ」
『菊太郎様、もしや――」
「じゃあ、上の人への連絡は頼んだよ」
『は、はい。かしこまりました』
菊太郎は通話終了ボタンを押し、スマートフォンをポケットの中へとしまう。
今、日本には何百、何千、何万という監視カメラが町に設置されている。
その89%は菊太郎の会社で作られたものだ。
たとえ、ツリーでは姿を映らないようにできたとしてもいつかはどこかで映ってしまう。
それに部下は『社員に犯人を探さしている』と言っていたが、あれは普通の社員に探さしているのではなく、特別訓練を受けた社員のことだ。そこらへんにいるサラリーマンとはわけが違う。
その社員のすごさは菊太郎にも十分わかっていた。
あの部下の話し方を聞く限りでは星が盗まれたのは数日前のことなのだろう。
ERTが数日たった今でも犯人を捕まえれず、しかも特定すらできていないということはつまり、犯人は何の証拠も残していないということだ。
菊太郎はそんなことができる人物とそんなことをしようとする人物を知っていた。
「(フッ……)」
菊太郎は長い前髪をかき上げる。
「これだからやめられないね」
そう言って菊太郎はその場を離れた。
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