活動3日目その②
3
「……な」
おれはその扉の向こうにある風景に思わず声が詰まる。
地下4階にあったもの、それは広い空間にポツンと立ったきれいな一戸建ての家だった。
「なんでやねん!!?」
「タロウくん新ノ介の大阪弁うつってるよ」
菊太郎先輩にツッコミを入れられる。
いやそんなことよりも!
「だってなんで家なんすか、ここ地下っすよ!? アニメとか小説じゃないんすよ!」
「う~ん、宏一たちがすることだからねぇ」
菊太郎先輩は楽しそうに笑って答える。
「笑いごとじゃないっすよ……」
そう言いながらふとおれは思った。
おれと菊太郎先輩は宏一先輩の暗号(どこにも宏一先輩が書いたなんて書いてなかったけど文的にあれは宏一先輩に違いない)を見てここに来た。
そしてそこにあったのは家。
宏一先輩も新ノ介先輩の姿もない。
「先輩もしかしてこれって……」
「まぁ普通の家ではないだろうね」
菊太郎先輩が前髪をかき上げながら言う。
「タロウくんは何故昨日サークルが突然休みになったと思うかい?」
「そりゃあ、たぶん……」
おれは目の前に建っている家を見上げる。
家は2階建てで壁とかも新しくきれいだけどカーテンが全て閉まっているから窓から中の様子はわからない。
「そうだね、ぼくもそう思うよ」
菊太郎先輩も家を見上げる。
この家はおそらくたぶんきっと、いや、ほぼ間違いなく新ノ介先輩の発明品だ。
「中はどうなってるんすかね……?」
「まぁ、新ノ介も悪い奴じゃないよ、あまり深く考えないでまず入ってみるべきだね」
そう言って菊太郎先輩は家の玄関を開ける。
その時、家の中からすごい勢いで何かがおれたちめがけて飛んできた。
「危ないっ!」
おれは無我夢中で菊太郎先輩を押して、自分もその勢いで床に伏せた。
その何かはおれの頭上を通り過ぎ大きな音を立てて壁にぶつかった。
その何かは1回だけだったようでしばらくそのままじっとしていても特に危険はなさそうだった。
おれと菊太郎先輩はそっと顔を上げる。
「タロウくん、大丈夫かい?」
「あ、はい。大丈夫っす。先輩こそケガとかないっすか?」
「無事だよ、君だとっさに押してくれたからね。ありがとう」
おれは礼を言われ少し照れる。
やっぱり感謝されるっていうのはうれしいもんだ。
って違う、こんな和やかになってる場合じゃない。
おれはドアの向かい側を見る。
床には野球に使われるボールが一個転がっていた。
壁を見るとボールがぶつかったと思われるところが少し凹んでいる。
「……菊太郎先輩」
「なんだい」
「新ノ介先輩はおれらを殺す気なんすかね?」
「そうじゃないと信じたいね」
おれと菊太郎先輩は何とも言えない表情をする。
よし、先輩たちがおれを殺すつもりなら全力で逃げてこの人たちから縁を切ろう。
そう決意しながらおれは床に転がっているボールを拾いジャンバーのポケットに入れた。
「とりあえず中に入ろうか」
菊太郎先輩の言葉にうなずき、おれはドアからもう一度中の様子を見る。
中は真っ暗。
何にも見えない。
仕方ないのでおれは一歩家の中に足を進めるとパッと中に明かりがついた。
おれはビックリして目を閉じ、ゆっくりと目を開く。
4
……。
あれ、目がおかしくなったのかな?
おれは菊太郎先輩を見る。
菊太郎先輩も不思議そうな顔をしていた。
だって中は明らか家よりも広いバッティングセンターがあったんだから。
ちゃんとバッターボックスもあるし奥にはネットが張られ、ホームランを表す標的もついている。
そのネットの向こうが青空でしかも部屋の壁や天井もないってことはここが外っていう事なんだろうなぁ。
もうどういうことなのかワケワカメ状態なので多少のことでは驚かなくなってしまっている。
しかしおれはあることに気づいた。家の玄関の真正面のバッターボックスのドアだけ開いていた。
しかもバックネットもここだけない、つまりこのボックスに設置されているピッチングマシーンからボールが投げられれば自然と外に出て来る、もちろん家のドアを開けていればさっきみたいに家の外にも出てきてしまうということになる。
うん、なんか誰とはあえて言わないけど金髪の先輩の悪意を感じる。
おれはボールがまた外に飛び出さないようにキチンとドアを閉めた。
「ここに宏一たちはいないみたいだね」
菊太郎先輩が辺りを見回しながら言う。
確かに、ここにはおれと菊太郎先輩以外の人は見当たらない。
「さて、どうしようか」
菊太郎先輩はニコリと笑っておれに問いかける。
「えぇ~っと……。と、とりあえずせっかくバッティングセンターなんすからボールでも打ってみるっすか?」
おれはなんとなくそう提案してみると菊太郎先輩はうなずく。
「じゃあタロウくんがやればいいよ」
「え、先輩はしないんすか?」
バッターボックスはパッと見でも五個ぐらいはある。
別に順番を譲らなくたって同時にできるはずだ。
「しないよ」
「野球、苦手なんすか?」
菊太郎先輩はとても頭がいい、だから運動ができなくてもなんか納得できる(アニメやマンガで頭はいいけど運動はできないなんてよくある設定だしね)。
「いや、野球も体育も普通だよ。よくも悪くも平均さ」
「え、そうなんすか」
「ただボクは体育全般が嫌いでね」
「ええ!?」
おれはその言葉に耳を疑う。
勉強ができないおれの唯一の取り柄はスポーツがみんなより少しできることだ。
つまり体育が得意なおれにとって体育とは女神に等しいものなのだ。
友達と弁当と体育のためだけに学校に行ってると言っても過言ではない。
そんな体育が嫌い?
確かに体育は得意苦手がある。
苦手な子は辛い時間かもしれない。
けどそういう子だってゲームなんかになるとけっこう盛り上がって楽しんでる。
そんな楽しいものを嫌うなんて、なんてもったいない!
「先輩っ運動は楽しむもんすよ!」
おれが意気込んで言うと菊太郎先輩は少し驚いた顔をする。
「ああ、ごめんよ、ぼくの言い方が悪かったね。スポーツはもちろん楽しんでるさ、ただね……」
先輩が少しまゆをひそめて目をそむける。
「ただ……?」
「運動をした後が嫌なんだ!」
「は?」
「せっかく整えた髪が乱れるのはもちろん、外だと下手したら服だけではなく手なんかも砂だらけになってしまうだろ? しかもだ! 人間っていうのは運動をすると汗をかく、それなのに学校では衣服を着替え気持ち程度の臭い消しをすることしか許されていない! そしてそのまま次の授業が始まってしまうんだよ? とても不衛生的だとは思わないかい!?」
菊太郎先輩の迫力に押されそうになりながらもおれは菊太郎先輩に質問する。
「えと、菊太郎先輩は潔癖症、なんすか?」
「いや、普通だよ」
「じゃあ気にしなければいいんじゃ……」
「確かにそうだ。きっとぼくなら砂まみれでも泥まみれになっても美しいだろう。でも、それでもぼくは中、外ともにいつでも自分が思う美しい姿でありたいんだよ! 何故ならそれがぼくのプライド日本語で言えば自尊心だか――」
「ボール打ってきマース」
おれはどう見てもおれの存在をすっかり忘れ熱く自分の美学について語る先輩に一応一言ことわってバッターボックスに入った。
ここまでご覧いただきありがとうございました。




