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◇ ◇ ◇


「……」


思い返せば、子どもの頃のこっ恥ずかしい記憶だ。


亘 が父親を忘れないように、と父親の(桂輔のフィルターが混じっていることがあ る)話をする!と、したいだけなのかも知れない決意で亘の父親の素晴らしさを 延々と語られたり。


命を狙われまくっていたことに亘の影の守護者が殺されたことで発覚し、怒り狂った桂輔の仕出かした過保護攻撃。


やってられない、と海外逃亡を決意した亘を離れたくないと泣き叫びながら引き留めてきたこと。


まあイギリスに行ったら行ったで、騒ぎに終始巻き込まれアチラでちょっと有名になってしまったが。



芋づる式に思い出したあれこれにため息をついていると、桂輔がお茶を啜りながらニコニコと亘を見つめていた。


「……何?」


「うむ。

亘くんがいるな、と」


真正面から言われた亘は、ため息が深くなった。


昔は嬉しかったが(いや今でも嬉しいことは嬉しいが)、親バカの度が過ぎる。

これでは桂輔にお嫁さんが来てくれないのでは、と言う懸念が最近かなり大きくなってきた。


「……あ〜桂輔さん?」


「うむ? 誰も聞いておらんのだから、いつもの呼び方で構わんよ」


叔父の言葉は出来るだけ叶えようと思っている亘は、素直に言い直す。


「あ〜叔父さん? 叔父さんは結婚しないの?」


実は一族の当主からも聞いてみてくれ、と懇願されていた亘は、恐る恐る尋ねた。


「うん?」


首を傾げた桂輔は一瞬眉をひそめたが、亘を見るとにこやかに手招きをした。


いぶかしげに叔父の言葉を待つが、手招きをするだけだ。


しぶしぶ立ち上がりテーブルを回って叔父の傍に寄ると、ガバリと抱き着かれた。


「私には亘くんがいるからいいのだ。

心配しなくても良いぞ!」


想定内の回答にため息をつく亘。


そんな甥に気付いた桂輔は、亘の頭をくしゃくしゃ撫でながら苦笑を浮かべた。


「それに、私はな。

素晴らしい理想の間柄の二人を知っていてな。

あれほどの相手に巡り合え、縁を結ぶ力と想い。

私は彼らの関係を見れて、私はそれだけで満足しているのだよ」


うむうむ、と頷く叔父を見上げ、亘は早々に話を諦めた。

無理だ。

桂輔は物凄く満足した顔をしている。

よほどのことがない限り無理。

叔父の顔を見て、今での体験から亘は悟ったのだ。


「ふ~ん、そっか」



改めて今度は叔父の隣に座った亘は、仕事時の無表情に変える。


「それで総長。

博士として勤務していた、一族の人間としてはほぼ部外者となっている私を呼び戻すほど、今回の事件は大きいのですか?」


白旗を挙げた亘は、まったりモードから頭を切り替える。


雰囲気から気付いたのだろう、残念そうに桂輔は亘を離す。


「ふむ」


大きくため息をついた後、桂輔は威厳のある組織代表としての表情を浮かべた。


「結論から言うと、そうだ。

一族の者も動いてはいる。

が、如何せん被害が拡大している。それにまだ一族の者では尻尾も掴んでいない。

私としては、解決するなら別の一族たちに任せても良いのだがな。

一応今代の、5つの一族を統率する立場である我等が一族が解決できない案件を他一族が解決してしまうのは、と当主が気にされてな」


桂輔の言葉に嫌そうな表情になった亘。

甥の顔を見て、桂輔は小さくため息をつく。


「亘の言いたいこともわかる。

パワーバランスを気にするより、解決することが先であることも。


だがな」


真面目な表情を浮かべた叔父に、亘も真剣な表情に変わる。


「時代は変わりはじめている。

力ある者となき者が極端になってきている昨今だ。

他家に任せ、力なき者が当たり、この案件を適当に終わらせて欲しくはないのだ。

残念なことに、異種族に対する風当たりも一族によって大きく異なるようになっているのだ」


手を組み、両肘をテーブルにつきつつ難しい顔をしていた桂輔だが、ふと小さく首を傾げる。


「亘?

聞き忘れていたが、亘はどこまで一族の立ち位置、組織のこと、国との関わりと役目を把握している?

日本を離れたのは確か10歳になっていなかっただろう?」


割と重要なことを今更問う叔父に、亘は呆れた表情を浮かべた。


「……、叔父さん、今更そんなこと聞く訳?

てかオレ、もう組織の一員として登録されて、事件の担当としてここ、伽廼カナイ町まで来ているのに……」


「あ、いや、済まん。

事情を理解して依頼を受けてくれていたように見えたからな。

私が軽く国際電話で話しただけのことで、ここまで動いてくれるとは思っていなかった。

それに、できればこのような危険な事に関わって欲しくはなかったのだよ。


……、例え”ディモンジオナル・ハウシャー”と呼ばれる実力者であっても、な」


叔父の口から飛び出た言葉を聴いた瞬間、亘はテーブルに倒れ込んだ。


ーー……誰だ! 叔父さんにそんな痛い単語を教えたのは~!!


心の中で絶叫する亘。


突然テーブルにうっぷした亘に首を傾げながらも、桂輔は言葉を続ける。


「亘は宗家の第一相続者であるが、襲名するかどうかは好きに決めてくれれば良い。

兄さんは足蹴にしていたぞ?」


自分の父親のフリーダムさは、今更だが。

帰国してから今日までの緊張が一気に抜け去った気分がした。


ーーあー、一応”ゼルバイ”の一人なんだけど、オレ。


「ふむ。

とりあえず亘の知る、我等に関する知識を教えてくれぬか?

今回の件も含め、詳細を詰めたいのでな?」


どこまでも生真面目な叔父の科白に、亘はぐったりした身体を無理やり起こす。


首を一度回し心を切り替えると、虚空を睨み自分の中の情報を整理する。


もちろん、亘は叔父に隠し事をする気はない。

……、隠さざることが多々あるのは、心痛いことだが。


少しの沈黙の後、亘が把握している出来るだけの状況を話すことにした。

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