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9.オーク殲滅作戦

「よし。オークどもは眠ったな?」


 魔物の森の奥地で、オーグスがオークの軍勢の様子を確認する。オークの軍勢が寝静まる位置からおよそ五十メートル離れたここには、俺や裕也、隼人。それにレイジ含めたBランクの前衛職冒険者が集まっていた。


「ケッ……結局Aランクの奴らは来ねぇのかよ。とんだ腰抜けじゃねぇか」


「ふんッ……放っておけ。戦う覚悟の無い奴に来られても足手まといだ」


 レイジと裕也の端的な会話に、オーグスは盛大なため息を吐いた。


「ハァ……あいつらには後で喝を入れてやる。だが今は目の前のオークだ。全員、準備はいいか?」


 冒険者たちは昂る感情を抑え、オークに気付かれないよう、静かに頷いた。


「よし。魔術師部隊。やっちまえッ!」


 オーグスの合図と同時。俺たちよりさらにオークから離れた位置に待機していたCランク以上の魔術師たちが魔力を一点に集中する。百人以上の魔術師から集められた膨大な魔力は、周囲を昼よりも明るく照らし、景色を歪めた。


 リーナ。ちゃんと手加減してくれよ……!


 集められた魔力は、トウヒの杖を構えたリーナの元へ。あまりのエネルギー量に突風が吹き荒れ、リーナのフードがはだけて鮮烈な赤髪が靡く。彼女の輪郭は溢れんばかりの魔力で淡く光り、杖にはめ込まれた水晶は青白く輝いていた。


「やっちまえリーナ! アドバントの冒険者の実力をオークどもに分からせてやれ!」


「あんな魔力、見たことねぇ!? いっきに全滅させちまえるんじゃねぇか?」


 ロードと、それにジェネラルもできれば三十体くらいは残しておいてくれ……!


 集められた魔力の量と、リーナの集中した姿に期待を膨らませる冒険者たち。だが俺は、かませ犬になるために必要なオークロードとジェネラルをリーナがちゃんと残してくれるのかを心配していた。


 そして、リーナの唇が魔術名を紡ぐ。


「フレアバード・ストライク」


 集められた魔力が、リーナの頭上で火の鳥を形成。生半可なドラゴンよりも巨大なそれは、炎の羽を散らしながら悠々と夜空を滑空し、オークの軍勢へと迫った。


「やっちまえぇ!」


「マジでこれ全滅あり得るんじゃね!?」


「ふんッ……このオレの前座にしては悪くない」


 頼む頼む頼む頼む! 耐えてくれよオークロード。少しでもいいから生き残ってくれよオークジェネラル! 手加減していてくれリーナ!


 俺は目を細めて両手を合わせ、祈った。


「「「ギィヤアアァァアァァァアアッ!」」」


 火の鳥はオークロードに直撃するや否や火柱を上げて周囲を焼き払う。ロードのそばにいたオークジェネラルは一瞬にして消し炭にされ、少し離れた位置に立っていたジェネラルは体に火が付き悶絶。


 それでもなお勢いは止まず、波紋のごとく円形に広がる鮮烈な炎は、まるで紙屑のようにハイオークたちを一匹残らず焼き尽くした。後には、半径五十メートルほどの、焦土と化したクレーターだけが残った。


 よかった……リーナはちゃんと手加減してくれたんだな。


 オークジェネラルは元の半分以下の二十二体にまで減ったが残ってくれた。オークロードに至っては、リーナの魔術の直撃を受けてなお、軽度な火傷しか負っておらずピンピンしている。


 俺は胸を撫でおろし、口角を吊り上げた。


 ようやく俺の時間だ! やっと勇者のかませ犬になれる!


「よくやったリーナ! 行くぞおまえらぁ!」


「「「おうっ!」」」


 目の前の森が消え、呆気に取られていたのも束の間。オーグスを先頭にして、冒険者たちは残ったオークたちに向かって我先にとクレーターを滑り降りた。


「……っしゃ行くぜ!」


「ふんッ……ようやくこのオレが輝く時が来たということか」


 魔術組に回った彩花を除いた勇者二人も、続いてクレーターを滑り降りる。彼らがオークジェネラルと交戦を始めたのを確認し、俺はクレーターの端で不敵に笑った。


「俺も行くか……ライトニングブースト」


 最近お気に入りの身体強化魔術を行使し、跳躍。俺が立っていた地面は凹み、亀裂が走った。


 さて、まずは実力の証明だっ! たまには派手に暴れまわってもいいよなっ?


「ストーンウォール」


 そう唱えた途端、眼下のジェネラル三体の足元に土色の魔法陣が出現。と同時に地面が大きく隆起し、三体のジェネラルが空へと打ち上げられる。


 俺は空中で頭を下にし、鞘から剣を引き抜く。そして落下する俺と、上昇するジェネラルたちの高度が重なった──その刹那。俺は目にもとまらぬ剣速で、ジェネラルの体を斬り刻んだ。


 どうだ? これで勇者様の目を引けたか?


 着地を決め、勇者二人の方をチラリと見る。すると彼らは、二人で協力して倒したのだろうジェネラルの死骸の横で、じっとこちらを見ていた。


「すげぇ……」


「なんだ今の剣は……このオレが、目で追えないだと……」


 よしっ! 上々!


 内心ガッツポーズをしていると、ふいに勇者たちの背後で、ジェネラル二体が棍棒を振り上げる。背後の殺意に、勇者たちは気付いていなかった。


「勇者様!」


 俺の焦った声で、勇者たちは背後の敵に気付く。だが、今からでは回避も防御も間に合わない。


 マズい……! 勇者が死んだらもうかませ犬になれなくなる……! くそっ……仕方ないか……。


 俺はかませ犬として勇者を導きたい。だから、直接的に勇者を助けるのはなるべく避けたかったのだ。が、今はそんな悠長なことは言ってられない。


 俺は勇者を守るために魔術を行使するべく、魔法陣を展開した。だが、その必要はなかったようだ。


「アイスウォール」


 どこからか聞こえた詠唱により、氷の壁がジェネラルの棍棒を弾いた。そうして怯んだジェネラルの胴を、一人の剣士がぶった斬る。


「十一時からも来ていますよ」


「分かっている」


 アイスウォールを唱えたのと同じ声が指示を出し、どこかで聞いたことのある男の声が応えた。そして重そうな盾を持った影が躍り出ると、勇者に忍び寄っていたジェネラルの攻撃を防いだ。


 すかさず、剣士が怯んだジェネラルの首を刈り取る。彼らの顔が月明かりに浮かび上がると、裕也はほんの少しだけ口角を上げた。


「ほう……来るとは思わなかったぞ貴様ら」


「あんなこと言われてじっとしていられるほど、俺たちは堕ちちゃいなかった。それだけですよ」


「勇者様にああ言われて、久々に冒険してみたくなったんです。それにもう、あんな虚しい思いはしたくない」


 勇者を助けたのは、会議の時にシベリウス伯爵に媚びていたAランク冒険者たちだった。三十代を過ぎた彼らの目は今、若々しくギラついていた。


 これは、勇者様のカリスマに助けられたかな……。


「ブオォォォオォォッ!」


 俺は自然と微笑み、背後から襲い来るオークジェネラルを見向きもせずに斬り伏せた。

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