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8.波乱の作戦会議

「ふんッ……このオレに手を貸して欲しいとは、何があった?」


 オークロード討伐に向け、Aランク冒険者や、俺が勝手にかませ犬の師匠と崇めるレイジを始めとした高位ランクの冒険者が二十人ほど集められたギルド会議室。そこに勇者──裕也、隼人、彩花の三人が合流した。


「おう勇者様。到着早々で悪いんだが、オークロードの討伐に手を貸してくんませんかね?」


 そうしてギルドマスターのオーグスは勇者たちに事情を作戦を説明する。


 その間、フードで顔を隠したリーナが俺の耳に口を近づけ囁いた。


「ねぇカイ。気付いた? 勇者様たちのレベル」


「ああ。三人とも三十を超えてるな。メルトスライムを倒してレベルアップした時はまだ二十くらいだったよな? ってことは、アドバントに来る途中にメルトスライムクラスの魔物を倒してきたのか……」


 なんだろう。勇者様が成長するの、嬉しいかも。


「勇者様たちも、ナルシストで暑苦しくて無愛想なだけじゃないんだねっ。あたし、ちょっとだけ見直したよ。まあ、マイナスがゼロになっただけだけどね」


「そうだな」


 そんな話をしていると、勇者への説明を終えたオーグスが会議室中央に立った。


「みんな聞いてくれ! オーク殲滅作戦の決行は今夜、オークどもが寝静まるのを確認した時だ。作戦には、ここに集まったおまえらと、町中のB、Cランク冒険者全員でかかる。冒険者の町アドバントの底力、魔物どもに見せつけてやろうぜ!」


「おう。このオレ様に任せとけ! 全員このレッドドラゴンソードの餌食にしてやるぜっ!」


 誰よりも早くオーグスの鼓舞に反応し、愛剣を抜いて意気込むレイジ。その様子に、オーグスや控えていたエリエッタ、それに他の冒険者たちも微笑ましく笑った。ただし、裕也と彩花、Aランク冒険者三人を除いて。


「ふんッ! このオレよりも目立つとは、見込みのあるやつもいるではないか」


 裕也は髪を掻き上げて首を曲げ、自分に酔っていた。その横で隼人はさわやかな笑顔を浮かべ、隣の彩花は相変わらずの無表情。だが彼女の死んだ魚のような目は、意味ありげに俺を見ていた。


 なんだ? 俺、変装してるよな……?


 自分が前にメルトスライムに溶かされた少年と同一人物だとバレたかと思い、体を触る。そんな時、唐突に会議室の扉が勢いよく開かれた。


「邪魔するぞ。ギルドマスターよ」


「シベリウス……伯爵様。……どうされたんだ? 今はオークの軍勢を殲滅するための作戦会議中なのですが……」


 「厄介な野郎が来ちまった」と顔に書いてあるオーグスが、拙い敬語で問う。その相手──シベリウスは、全身金ぴかの服に身を包んだ七歳児くらいの背丈の老人だった。その周囲には護衛らしき数人の騎士を侍らせている。


「うげぇ……センス悪ー」


 リーナが俺の背中に隠れて、シベリウスの服装に辟易する。他の冒険者たちも、険しい視線をシベリウスに向ける。そんな時、裕也が槍を構えて前に出た。


「貴様。その魔物はなんだ?」


 子供が見れば泣き出しそうなほど鋭い眼光を向ける裕也。その標的は、シベリウスの足元にいる狼型の魔物──ブラックウルフだった。


「これはこれは勇者様。こちらは私どものペットでございます故、お気になさらず」


 裕也に問い詰められたシベリウスは怯むことなく、ひどくねちっこいしわがれ声で返答する。彼は裕也に向かって、ブラックウルフの首と繋がった手綱を見せつけた。


「ふんッ……そうか。……それで? どこぞのお貴族様がここに何の用だ?」


「おお、そうでしたそうでした。ここへは私の護衛を雇いに来たのです」


 そう言うとシベリウスはニタニタと三日月の形に目を細め、Aランク冒険者たちを見た。


「いえね。最近はオークジェネラルやらオークロードやらで物騒でしょう? 私の騎士たちも腕利きではありますが、魔物への対処は専門ではない。万一にも高貴なるこの私が怪我でもしたら大事でしょう? ですから、騒動が収まるまでの間、Aランク冒険者を私の護衛に貸していただきたい」


「はぁ!? ふざけ──ふざけないでいただけますかね伯爵様」


 あまりの横暴に、オーグスの頭部には血管が浮きでる。だがそれでも、彼は奥歯を食いしばり拳を握り締め、なんとか敬語を保った。そんな彼を嘲笑うかのごとく、シベリウスはAランク冒険者たちに近づいていく。


「いやなに、もちろん三人ともとは言わんよ。貸してくれるのは二人でいい……どうかね? Aランク冒険者の諸君」


「そんな誘いに乗るような奴はここにはいな──」


 Aランク冒険者がそんな誘いに乗るわけがない。そう言おうとしたオーグスの唇は引き攣り、止まった。


「ぜひおれにやらせてくれ!」


「いえ、護衛ならタンクである俺の方が向いているでしょう!」


「いえいえ、それなら魔術師である私の方がどんな魔物にも対処しやすいはずです。ぜひとも私をお選びください!」


 三人のAランク冒険者たちはこぞって地面に膝をつき、子供程度の背丈しかないシベリウスに縋りつく。


 オークロードと聞いて怖気づいたのか。それとも貴族に恩を売るチャンスと思ったのか。どちらにせよ彼らは、シベリウスに選ばれようと必死だった。


「情けないっ……!」


「救いようのない人たちですね」


 オーグスは頭を抱える。エリエッタは、受付の時の朗らかな彼女からは想像もできない底冷えのする声で、シベリウスやAランク冒険者たちに軽蔑の眼差しを向けた。


「ハッハッハ! どうやら、彼らは私の護衛を引き受けてくれるようだな。折角だ。三人とも護衛として雇おう。冒険者の自由を尊重するという方針をかかげるオーグスくんなら、止めはしまいな?」


「ぐっ……」


 シベリウスの勝ち誇った高笑いに、オーグスの奥歯がギリギリと音を立てる。


 俺は、Aランク冒険者がいなくともかませ犬ムーブをするのに支障はないため、静観していた。


 貴族に絡まれて正体を明かすことなったら、勇者様に俺たちの存在を知られるからな。その方がマズい。


 そう思っていたのだが──。


「ちょっと! あなた貴族として恥ずかしくないの?」


 シベリウスの横暴に堪忍袋の緒が切れたリーナが、シベリウスの前に躍り出て啖呵を切った。


 だよなぁ……リーナって頭はいいのに、昔っからこういう腹立つやつには正面からぶつかるもんなぁ……。


「なんだ貴様? ただの平民の分際で、伯爵たる私に意見するとでもいうのか?」


 案の定シベリウスに目を付けられるリーナ。シベリウスの騎士たちにも敵意を向けられた彼女はしかし、シベリウスへと一歩詰め寄る。


「意見するよっ! こんな横暴許せないっ!」


「ハッ……なぜ伯爵である私が平民なんぞに許される必要がある? これだから低脳な平民は理解に苦しむ」


 リーナに向かってゴミを見る目をしたシベリウスは、手を振り下ろして騎士たちに合図する。それに応えて騎士たちは剣を抜き、リーナに襲いかかった。


 対してリーナは、フードの下の栗色の瞳に怒りを宿し、魔術を組み上げる。


「死ね。平民」


「フェアリースト──」


 騎士の剣が振り下ろされ、シベリウスが勝ちを確信する。同時に、リーナも最も得意な魔術を発動しようとしたが──。


「待て」


 その一言で、騎士もリーナも動きを止めた。有無を言わさず従わせる魔性の声。それを発したのは裕也だった。彼は優雅に歩を進め、シベリウスとAランク冒険者三人を見下す。


「ふんッ……無様だな」


「……っ! 勇者様! いくら勇者様とは言え、この私を罵倒して許されると?」


 引き攣った作り笑いを浮かべて裕也を見上げるシベリウス。そんな彼に対し、裕也は自分の額に指を当て、さらに上から目線を強めた。


「手に入れた地位に甘んじ、自らの足で立つことすらやめ肥え太った豚ども。貴様らは陰で震えながらこのオレの華麗なる勇姿を目に焼き付けろ。貴様ら愚図に代わって、このオレがアドバントを救ってやる」


「貴様っ……! 勇者と言えど今の発言は許されんぞ!」


「ならばオレもこう返そう。このオレに、貴様のような小物の許しをもらう必要はない」


「……っ〜〜! 私は屋敷に帰らせてもらう!」


 シベリウスはヤカンの水が沸騰した時のような奇声を上げ、顔を真っ赤にした。そして彼は地団駄を踏み、騎士やAランク冒険者たちを引き連れ会議室を後にする。


 会議室の扉が閉まる直前。僅かな隙間から見えたAランク冒険者たちの目は揺らぎ、確かに迷いが生じていた。


 さすがは勇者って感じだな。人を焚き付けるカリスマがある。


「さすがだぜ裕也! あのムカつくオッサンの真っ赤な顔、見たかっ? 最高だったぜ!」


「うざい。離れろ隼人」


 裕也と無理やり肩を組んで脇腹をグリグリする隼人を、裕也は振り解く。


「でも、Aランク冒険者さんたちの抜けは痛いですね」


 手元にある冒険者名簿を確認して、エリエッタが顔を顰める。すると裕也は鼻を鳴らし、扉の前に歩み出た。


「ふんッ……やる気のない奴は足手纏いになるだけだ。さっさと行くぞ!」


「おうよっ!」


 裕也と隼人が意気込むと、レイジを筆頭に冒険者たちが騒ぎ出す。


「しゃあっ! Aランクなんかいなくたって、俺たちだけでやってやるぜ!」


 自信に満ち溢れた裕也の背中に、冒険者たちの指揮は格段に上がるのだった。

この話を読んでいただきありがとうございます!


それとシベリウスですが、彼の悪行は他にも出てきますし、五話くらい後にザマァもまだあります。


カイのかませ犬ムーブや勇者の活躍も合わせてお楽しみに!


「面白かった!」

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