7.ギルマスへの報告
「えっ!? オークジェネラルの魔石が──三つも!? お二人は本当にお強いんですね……」
冒険者ギルドに戻り、討伐したジェネラルの魔石をカウンターに置く。するとエリエッタは目を擦り、何度も魔石の数を確認した。
「エリエッタさん。それで少し、内密に話があるのですが……」
「……分かりました。ギルマスの元へ案内いたします。ついてきてください」
何か異常事態があったと察してくれたエリエッタさんは立ち上がり、階段を登り始める。俺たちもそれに続いた。
「あいつらってレイジを倒した新人だろ? 初日からAランク指定の魔物を三体とかどうなってんだよ……」
「てか、オークジェネラルは二体じゃなかったのか?」
「そりゃあれだろ。オークジェネラルのせいで普通のオークやハイオークも倒せてなかったからな。時間が経って、もう一体上位種に進化したってだけだろ」
階段を登る途中に聞こえた周囲のヒソヒソ声。その中には、テーブルに足を乗っけて椅子にふんぞりかえるレイジの声もあった。
「ケッ……やるじゃねぇか」
***
「ケイにリーナ、ね。俺はアドバントのギルドマスター、オーグスだ。よろしくな!」
スキンヘッドの細マッチョ。ギルドマスターはそんな見た目のアラフォーだった。声も大きく、ザ、体育会系みたいな人である。
「まあとりあえず座れ。話はそれからだ」
暑苦しい人だなー……。
俺とリーナは促されるままにオーグスと対面する形でソファに座る。それから、俺たちが目撃したオークの軍勢やオークロードのことについて話した。
「なるほどねぇ……そりゃかなりマズいな。しかも見たこともない模様入りの魔石ときた。きな臭い話だ」
オーグスは眉間にシワを寄せて目を閉じ、腕組する。するとエリエッタがお盆を持って戻ってきた。
「どうぞ。紅茶です」
「ありがとうございます」
ローテーブルに置かれた紅茶から立ち昇る湯気とともに、香ばしい香りが鼻腔を突く。隣では、すでにリーナがティーカップを口に運んでいた。
紅茶を飲むリーナの所作は思わず見とれてしまうほど上品で丁寧。目を閉じ、おしとやかに紅茶を味わうさまに、リーナが辺境伯家の令嬢であることを思い出させられる。が、リーナのお嬢様の仮面はすぐに剥がれた。
「エリエッタさんこの紅茶、すっごく美味しいですっ! 何の茶葉を使ってるんですか?」
リーナは勢いよく立ち上がり、無邪気な弾んだ声でエリエッタの手を握った。
「え、えぇっと……市場で売っている普通の茶葉ですけど……」
「えっそうなんですかっ!? それでこんなにおいしくなるなんてすごいですっ! よかったら今度、オークロードの件が終わった後でいいのであたしにも紅茶の入れ方を教えてくれませんか?」
「それはいいですけど……」
「やったあ! ありがとうございますエリエッタさん」
勢い任せに約束を取り付けるリーナに引き気味なエリエッタ。けれど、彼女の口元はかすかに緩んでいた。
リーナは相変わらず、料理関係のことになると強引だなぁ……。
幼馴染の暴挙に微笑ましくも苦笑いを浮かべ、俺は紅茶を啜った。
うまっ!?
香ばしい香りが舌を包み、後味もスーッと引いていく。けれどほどよく香ばしさが残り、最後まで紅茶をおいしく味わうことができた。
コーヒー派だったけど、たまには紅茶もありかもな……。
そうして俺が一息に紅茶を飲み干した時、ようやくギルマスが目を開いた。
「よし決めたぞ。勇者様の到着を待ち、この町の冒険者の総力を挙げてオークロードとその取り巻きを討伐する! まずはそれからだ。おまえたちの力も貸してくれ!」
「はい。もちろんです」
「あたしも協力します」
「いい返事だケイ、リーナ!」
即答する俺たちに、オーグスは白い歯を剥き出しにして笑う──俺の考えも知らずに。
オークロード……今の勇者じゃまず勝てない相手か。かませ犬としての腕が鳴るな! ……で、俺はかませ犬としてどう立ち回る? やっぱりまずはジェネラルを蹴散らして実力を見せてからロードの行動パターンや弱点を探るのがいいよな。それから──。
「……イ、おいケイ!」
楽しい創造を膨らませていると、俺の偽名を呼ぶオーグスの声に現実に引き戻された。
「あっ……なんですか?」
「何度も冒険者カードを出せと言っているだろうに」
「分かりました……?」
言われた通りに冒険者カードをオーグスに渡す。理由が分からずリーナに視線をやると、リーナはアイコンタクトで「すぐ分かるから」と言外に告げ、オーグスを見た。
「よし。できたぞ」
なにやら俺たちの冒険者カードを弄っていたオーグスは顔を上げ、歯を剥き出しにして野生的な笑みを浮かべた。
「これで今日からおまえたちはBランク冒険者だ! おめでとう」
そう言ってオーグスから返ってきた冒険者カードには、確かにBランクと記されていた。
「お二人とも流石です! 冒険者登録から半日も経たない内にBランクに昇格するなんて、ギルド創設依頼初めてのことなんですよ」
Bか……Aランクになるには、ジェネラル三体じゃ足りなかったなぁ……。まあでも、かませ犬としては『史上最速でBランクになった魔剣士』って肩書きも悪くないよな!
俺は得られた肩書きに対する興奮を、オーグスたちにバレないように押さえ込む。それから冒険者カードを上着の内ポケットにしまい、立ち上がった。
「では、俺たちはこれで失礼します」
「ああ。次はオークども殲滅の作戦会議でまた会おう」
俺とリーナは一礼して、ギルマスの部屋を去った。




