21.より完璧なかませ犬になるために
「勇者様がグリムシャークを倒してくださったおかげで、漁業も交易も再開したぞー!」
グリムシャークが討伐された翌朝。長い間、交易船や漁船、旅客船を襲い、海路を塞いでいた魔物が倒されたとあって、シールの町はお祭り状態だった。実際、勇者様はシールの領主に招かれ、記念パーティーに参加している。
「それにしても勇者様、かなり成長してたね」
「そうだな。あのタイミングから俺とグリムシャークの間に入ってこられるようになってるのは予想外だった……」
宿屋の部屋。俺はリーナが淹れてくれたコーヒーを啜る。コーヒーの苦味が、かませ犬を上手くこなせなかった俺の、今のモヤモヤとした心境を表しているようだった。
勇者様も強くなってきている。俺も成長するときだよな。
「リーナ。ちょっと出てくる」
今は勇者もミスリル装備の完成待ちで動けないし、今のうちにかませ犬の特訓だ。
「あっ、カイ。それなら先に、あたしを王城に送ってくれない? 今回の勇者様の活躍を国王様に知らせないと」
「分かった」
俺はリーナを王城に転移させ、自分は宿屋を出て近くの山へと足を運んだ。
***
「グギャオォォッ!」
海の上。船の甲板で立ち尽くす勇者たちと、海を泳ぐ二頭のグリムシャーク。それを見て俺は満足げに頷いた。
よし。こんな感じか……。
俺は幻影魔術を使って、山の中に今回のグリムシャークとの戦闘状況を再現した。
今回の俺のミスは、勇者様の成長具合を見誤ったこと。
「次からは、かませ犬ムーブを始める前に勇者様の力量を確かめることを忘れないようにしないとな」
俺はメモを取り、幻影魔術を操作する。次は俺がグリムシャークを釣り上げたところを再現した。そして、立ち上がる。
「もう一テンポ早めたらどうだ?」
俺は裕也の幻影に土人形という肉体を与え、実際に裕也がした動きと同じ動きをするよう命令する。そして、前はグリムシャークの頭が落ち始めてからジャンプしたところを、一テンポ早く跳んでみた。
結果は成功。裕也の幻影がグリムシャークの幻影に攻撃するより先に、グリムシャークの幻影が俺の足を喰らった。
「これなら勇者様は間に合わなかったのか! いやー。ほんのちょっと早く跳んでれば……」
いやまてよ。でもそうすると今度は、あの場にいた全員の視線を集めるための時間が足りない。かませ犬は人に見られていて初めてかませ犬として成立するのに……。
じゃあグリムシャークをもっと高くまで釣り上げ──いやダメだ。それだと俺の踏ん張る力に船が持たなかった。
「勇者様の成長に合わせて、直接的なやり方だけじゃなく間接的なやり方も検討しないとダメってことか……」
例えば、今回は「敵に有利な海から敵を引きずり出すと楽に倒せる」こと、もっと言えば「隙のない敵に隙を作らせる方法の一例」を教えたかった。
だから釣り上げたわけだけど、それだと分かりやすすぎる。すぐに勇者様が気付く答えの示し方じゃ、場合によっては勇者様は、俺がやられる前に敵を倒してしまう。
「なら、今回はどうすればよかった?」
シンプルに勇者様との距離をもっと確保すればよかったっていうのもあるが、今後のためにも他の解決案を──。
それから俺は、正午の鐘が鳴るのも気付かず、思案にふけった。幻影魔術をこねくり回し、思いついたことを片っ端から試した。
今の俺を見たらリーナは「なんで自分のやられ方についてそんな本気で考えてるの……」と言ってドン引きしそうだ。
正午の鐘が鳴ってから二時間。その前も合わせると五時間ほど試行錯誤したが、漁師として名を売った時点で他に方法はなかっただろうと結論付けた。
「次からはやられ方から逆算して、何で名声を売るかもよく考えた方がいいかもしれない」
そうメモを取り、俺は幻影魔術を解いた。
「フゥ……こんなに頭使ったのは久々だな……」
俺がかませ犬をやるのは、父さんみたいに自分を犠牲にしてでも誰かを導く姿に憧れたから。それと、痛みを知って、人の痛みに寄り添えるようになりたいから。
でもやっぱり、楽しからってのが一番かもな。かませ犬の準備も本番も、こうして考えるのも。
工夫を凝らして名声を上げて、渾身の演技で勇者を惹きつけ、有益な情報を残して負ける。この一連の流れの全てが楽しい。
楽しいことのために努力し、本番では本気で楽しむ。今俺は、人生で一番充実した時間を過ごせているのかもしれないな。
こうして、勇者の旅と俺が最高のかませ犬になるための旅は続いていく。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
****** 重要 ******
この後も二十話分くらいのプロット(シナリオ的なもの)を組んではいるのですが、区切りもいいので一度様子見します。
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