表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/21

20.三度目のかませ犬

 よしっ! 勇者様も俺に気付いた。ようやくお待ちかねのかませ犬ムーブができるっ!


 俺──カイは、狼の耳と尻尾を持つゴーロに船を出してもらい、勇者とグリムシャークの戦場に乱入した。


 俺は船がグリムシャークに近づくのを待つ間、勇者たちの乗る船へと視線を向ける。


「あれって……この間ツナマグロを釣り上げたロイじゃねぇか!」


 そうそれだよっ! 町中に広まった俺の名声を自然と勇者が耳にする。今回も下準備は大成功だな!


 勇者の隣に立っている船長らしき男が、頼もしそうに俺を見る。絶望的な表情から一転、期待のこもった眼差しを見せた船長に、裕也はすぐに問う。


「あの男は何者だ?」


「そうか勇者様は知りませんよね。彼は勇者様がシールにお越しになる少し前、ツナマグロという、全長八メートルはあるマグロに似た魔物を一本釣りしたんですよ! しかも何の変哲もない普通の釣り竿でですよ? いやー私も彼がツナマグロを釣り上げる瞬間を見てみたかった……」


 オタクが推しのことを熱弁するように俺のことを話す船長。裕也は途中から彼の話を聞き流し、俺を見定めるように鋭い視線を向けてくる。


「ほう……そういえば、町でもそんな噂を耳にしたな。確か名前はロイだったか?」


 淡々と俺への感想を述べる裕也。しかしそこにはいつもの人を見下すオーラはなく、己の力不足への悔しさと、格上への僅かな尊敬がこもっていた。


 よしよしよしよしっ! 完璧だ! やっぱり完璧な準備の後のかませ犬はテンション上がるなぁ……。


「ロイおまえ。本当にあのグリムシャークを釣るつもりなのかよ?」


 ふいに、俺の隣に並んだゴーロが今更ながらに聞いてくる。その瞬間、俺はロイという架空の人物の皮を被り直す。


「なんだよゴーロ。実物を見て怖気づいたかぁ? おまえもここまで来たんだから覚悟決めろよっ!」


「そうは言ってもよぉ……グリムシャーク相手には、あの勇者様ですら苦戦してるみたいだぜ?」


「だが海の上は俺ら漁師の独壇場。違うか? それに、大物を見たら釣りたくなるのが漁師ってもんだろ!」


「はっ……ったく。それを言われちゃ黙っていられねぇよ」


 ゴーロは後頭部を掻きながら、発達した牙をギラギラと光らせる。そして床に置いてあった釣り竿を突き出してきた。


「やっちまえロイ! おれたちも全力でサポートする。人生最大の大物釣りだ!」


「ハハッ! ゴーロならそう言ってくれると思ってたぞ!」


 俺は白い歯を見せて豪快に笑い、釣り竿を受け取った。


 ライトニングブースト。エンチャントハーデニング。ハイドアビリティ。


 俺は自身を身体強化し、釣り竿の耐久値を爆増させ、魔術の痕跡を隠蔽。そして、予め釣り糸の先に括りつけていた人型の土人形を足元に置いた。


「よっしゃ! はじめるぞ!」


 満面の笑みで声を張り、俺は手に持っていたナイフをキラリと光らせる。そして、俺は笑顔のまま自分の手首を切り裂いた。ドボドボと手首から零れる血が、土人形を赤く染めていく。


 これでサメの餌の出来上がりだな。血の匂いと人の形があれば、知能の低い魔物はそれを人と誤認するはず。


「っておいロイ。聞いちゃいたが、本当に自分の手首を切る奴があるかよ……」


「俺がやりたいことに必要ってんなら、何度だって切るさ」


 若干引き気味なゴーロに使い終えたナイフを持たせると、俺は土人形を持ち上げた。


「ともかく、楽しい時間の始まりだっ!」


 俺は土人形をグリムシャークに向けて投げ、すぐに釣り竿を握った。


 こういう海の中にいる魔物は地上に引きずり出せばかなり楽になる。それを伝えるなら釣り上げて見せるしかないだろっ!


 土人形は飛沫を上げて着水。同時に二頭のグリムシャークが、その殺人に特化した鋭い歯が並んだ口を大きく開ける。そして競うように互いに体をぶつけあい、最終的に片方のグリムシャークが土人形に喰らいついた。


 だが俺が作った土人形は、グリムシャークに噛まれても傷一つつかない。しかもグリムシャークの歯が触れた瞬間、表面の土が流動して歯に纏わりつき、土人形とグリムシャークが離れないようにがっちりと固定した。


 あとは釣るだけっ!


「ぐうぅっ……!」


 重っ!?


 俺は「ライトニングブースト」に惜しみなく魔力を注ぎ込みながら歯を食いしばり、全力で釣り竿を引く。さっき切った手首から血が噴き出すが今は無視。


 いっ……ける!


「うおらあぁあぁぁっ!」


 ザッバアァァァン!


 全長十五メートルを超える雄大なサメが、仰向けに空を泳ぐ。巻き上がった水飛沫が、日光を反射し光のベールを作り出す。


 およそ現実離れした光景に誰もが呆然と立ち尽くし、グリムシャークの背を見上げた。


 その間、俺は釣り竿を投げ捨て鉄剣を生成。そして刃を寝かせて握った。


「決めるぞぉっ!」


 俺の雄叫びが、夢見心地だった彼らの視線を集める。


 これでグリムシャークに剣の腹を当てて剣を折れば、かませ犬の完成だ……! そして俺は、あの鋭い歯を味わえる。あの一本一本がのこぎり状になった歯なら、痛みを感じられるかもしれないっ!


 成功を確信し、俺は甲板から跳び上がる。そして、鋼鉄のように固いグリムシャークの頭部に剣の腹を打ち付けた。


「うっそだろぉ……」


 パキンッと小気味の良い音とともに、剣が折れた。俺は最後まで演技を忘れず、驚愕を表現する。折れた剣刃を追い下を見ると、ゴーロを始めとした船員たちが悪夢でも見ているような顔をしていた。


 そして自由落下によってグリムシャークの口が、グングン俺に近づいてくる。


 頼むぞ……今回こそは痛みを感じさせてくれ……!


 未だ叶ったことのない願いを胸に、俺は運命の時を待つ──そのはずだった。槍を持った人影が、俺の前に躍り出てこなければ。


「セイクリッドオーラ」


 勇者様!? なんでっ!? ってかどうやって……?


「散れ」


 裕也は神聖な光を纏った槍をグリムシャークの脳天に向かって突き出す。すると槍先はグリムシャークに突き刺さり、黄金の光がグリムシャークへと流れていく。


 グリムシャークの体の至る所から黄金の光あふれ出し、やがて負荷に耐えられなくなった巨体は粉々に砕け散った。


「オレ、神……」


 すまし顔で調子に乗った呟きを放つ裕也。けれど、髪を掻き上げ目を瞑る裕也の背後からはグリムシャークを焼いた光が後光のように差していて、本当に神か天使のように見えた。


 嘘だろ……初めての失敗……?


 間も無く、俺と裕也は甲板に着地する。俺は今起こった出来事を呑み込めず尻もちをついた。開いた口が塞がらない俺に、裕也は人を小バカにした視線を向けてくる。


「ふんッ……身の程のわきまえないバカが。だが、あのサメを釣り上げ身動きを取れなくするというのは盲点だった。貴様はこのオレですら思いつけなかったことをした。その点だけは誇っていいぞ?」


 これは……かませ犬としてはギリ及第点だな……ひとまずはよかった……か。


 痛みを感じるためにやられることはできなかったが、勇者の気を引く肩書きを用意し、勇者に敵の攻略法を教えるという重要な部分は成功した。


 一応は成功。この言葉がぴったりの結果だ。


「ハハッ……俺もまだまだってことですね」


 勇者への返答と自分への戒めにそう答えた。けれど今、俺の胸の中にあるのは希望と向上心。


 まだ俺にも、より完璧なかませ犬への伸びしろが残っていたんだな……なら、もっと上を目指すしかないよな!


 そう決意して、俺は裕也を見上げた。


***


「ぐはっ……!」


 勇者一行がグリムシャークを二頭とも討伐した日の夜。ミスリル鉱山沖。そこに浮かぶ旅客船は血に染まり、死体が山のように転がっていた。そして甲板には、銀髪のポニーテールを靡かせ佇む一人の女性の姿があった。


「まだ足りない」


 凛とした声でそう呟くと、彼女は持っていた剣にこびりついた血を払い、鞘に納める。そして、グリムシャークの二倍以上の巨体を誇るエンペラーシャークに襲われているもう一隻の船へと視線を向けた。


 そこでは、クジラほどの全長を持つエンペラーシャークが、船ごと乗客を呑み込むという虐殺が繰り広げられていた。中には船から飛び降りる者もいたが、彼らは例外なく周囲のジェノシャークによって食われていく。


「ラザニエル様の望みを叶えて差し上げるにはまだ、魔力が足りない」


 やがてエンペラーシャークは船を完全に破壊し、今度は銀髪の女性が立つ船へと近づく。そうして赤い亀裂が入った魔石を持つエンペラーシャークは、彼女が殺した乗客たちを食べ始める。


 彼女の鞘には、錆びれた王冠に伸びる血塗られた手という、アンダークラウンのエンブレムが彫られていた。

ここまで読んでくださりありがとうございます!


「面白かった!」

「続きが気になる!」


と思っていただけたら、


ブックマーク登録や感想、

↓の「☆☆☆☆☆」をタップして、応援していただけるとうれしいです!


星はいくつでも構いません。評価をいただけるだけで作者は幸せです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ