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16.【閑話】リーナとカイの出会い(リーナ視点)

「リーナお嬢様ー! どこにいらっしゃるのですか!」


 あたし──リーナ・エリージャ九歳は、庭の木の上に隠れていた。


 もうダンスも魔術もお勉強もしたくないっ! だってあたしはもうダンスも魔術もお勉強もできるもん!


 エリージャ辺境伯邸内を駆け回る侍女たち。慌ててあたしを探す彼女たちの目を掻い潜り、あたしは木の枝を伝って塀の外へ。


「エア」


 身長の何倍もある塀から飛び降りる際、あたしは弱い上昇気流を発生させ、落下速度を抑えた。


「っと、今日は何して遊ぼっかなぁ!」


 きれいに着地した瞬間、あたしは無邪気な笑みをこぼし、走り出す。


 最近あたしは、よく屋敷を抜け出しては近くの森で遊んでいる。


「昨日はお花摘みしたし、一昨日はリスさんを追いかけたし、その前は木の上を走ってみたりして……」


 これまでの遊びを思い出しながら、あたしは屋敷から離れるために森の中を走っていく。その途中、何か薄い膜を通ったような、そんな違和感が全身を包んだ。


「ハウルライトニング」


 幼い少年の、声変わり前の甲高い声が聞こえた直後。大地を震動させる衝撃とともに、空気を揺らす爆発音が轟いた。


「な、なに今の……!?」


 あたしは咄嗟に頭を抱え、地面に蹲る。前方から舞ってきた土埃が落ち着く頃、顔を上げるとそこには、同い年くらいの灰髪の少年が立っていた。彼は、爆発が起きた方に手のひらを向けたまま、冷めた目をしていた。


 この子、社交界で会う人たちとなんか違う。


「今の爆発、あなたがやったの?」


 得体のしれない少年への恐怖よりも好奇心が勝り、気付けばあたしは少年に話しかけてみた。


 でも少年は近寄り難い雰囲気を纏っていたため、あたしは木の幹に身を隠し、ひょっこりと顔だけを覗かせて聞く形になった。


「ん? ああ。悪かったな。遮音結界を張ってたんだけど、結界の中に人がいるとは思わなかった」


 ああさっきの! あの変な感覚って結界に入る感覚だったんだ。


「でも結界まで張って、あなたはこんなところで何してたの?」


「魔術の練習だよ」


 ぶっきらぼうに答える少年の顔には、あたしとの会話が面倒くさいと書いてあった。けれどあたしは好奇心に身を任せ、会話を続ける。


 あたしは同年代の子とあんまり話したことがないから、もっと同年代の子と話してみたかったのだ。


 社交場で会う同年代の子たちはなんだか格式張ってて好きじゃないし……。


「でもあなた、杖持ってないじゃん」


「ん? 杖なんて別になくても、魔術は使えるぞ。まあ杖があった方が威力は上がるんだろうけど」


「へーそうなんだ……」


 あたしは恐る恐る木の陰から出て、少年に向かって歩く。


 でも、こんなところで一人魔術の練習だなんて……どうしてそんなつまらないことするんだろ?


「もしかしてあなたって、魔術が好きなの?」


「ああ。好きだぞ。おまえは好きじゃないのか?」


「あたしは魔術なんて嫌い! だって術式がどうだの詠唱がなんだの堅苦しいんだもん」


「そうなのか……」


 少年は悲しそうな声を出すと、遠くを見る目をして少しの間考え込む。少年を見つめて待っていると、ふいに彼と目が合った。かと思えばすぐに彼は目を閉じ、地面に手を突いた。


「なにするの?」


「少し見ててくれ」


 そう言った彼の手元からは魔法陣が展開される。けれどその魔法陣は未完成で、見る見るうちに文字や幾何学模様が描き加えられていく。


 なにこれっ!? 魔法陣を展開した後に術式を書き込むなんて……こんなの見たことないっ!


「行くぞ?」


 魔法陣が完成した途端、周囲は光に包まれ視界は真っ白になった。あたしは咄嗟に目を覆い、光が止んだ頃にゆっくりと目を開ける。


「えっ!?」


 するとそこは、雲の上だった。雲には一面に草花が咲き誇り、地面はベットやクッションのようにふわふわ。小鳥の群れが気持ちよさそうに飛び回り、耳障りの良い囀りが聞こえた。


「わぁ……すごい……」


 それしか言葉が出なかった。


「幻影魔術と材質操作魔術の組み合わせだよ。あの鳥なんかは、ストーンバレットに鳥の幻影を乗せることで自由に動かせるようにしたんだ」


「この花はっ?」


「その花は土属性の植物成長魔術で──」


「わぁ本物だ! いい匂いがするー!」


「最後まで聞けよ……」


 すごいすごいっ! 本当に空の上にいるみたい! お花もきれいだし、鳥さんもかわいいし……魔術ってこんなことまでできるんだ。


「ねぇ! これってあたしにもできるのっ?」


「ん? 属性適正次第じゃないか? 俺は土、雷、闇。それと無属性魔術の『シフトシェイプ』に適性があるけど、今使ってるのは土と闇だな」


「そうなんだ……あたしは火、氷、風、光だから無理かな……」


 やっぱり魔術ってつまんない……!


 そう不貞腐れていると、少年は首を振った。


「いや、これはできなくても似たようなことはできると思うぞ」


「そうなのっ?」


 ちょろいあたしは、不貞腐れていたのも忘れて一瞬で目を輝かせる。


「ああ。火は形を自由に変えやすいし、風も難しいけど形を持たせられるはずだ。氷で幻想的な風景を作れば──」


「あたしにもきれいな場所を作れるってこと!?」


 コクリと頷く少年。


「やったぁ!」


 あたしは喜びのあまり少年に抱き着いた。そして少年の頭を撫でて頬ずりもした。


「うざい……」


「もぉー! そんなこと言わないでよー」


 あたしはお気に入りのワンピースが汚れるのも気にせず、少年を抱えたままふかふかな雲(本当は土)の上に寝ころんだ。


「ねぇあなた。あたしに魔術を教えてくれないっ?」


「別にいいけど……」


「ありがとー! あたしはリーナ。あなたはっ?」


「……俺、カイ」


「カイ、か。じゃあこれからよろしくね、カイっ!」


「ああ。よろしく。リーナ」


 それからあたしは、カイが両親を亡くすまでの間毎日のように森に通い、カイと魔術の練習をした。そのうちあたしの両親も、あたしの魔術の上達具合を見て、カイと会うことを表立って許してくれたりもして──。


 カイはあたしにとって初めての友達になった。


 だからあたしは今でも魔術を使うとき、たとえ攻撃魔術であったとしても造形や見栄えにこだわっている。だってあたしが魔術を好きになったのは、カイが見せてくれたあのきれいな世界のおかげだから。あの時の気持ちを忘れたくないから。


 そのおかげであたしは今、カイに次ぐ宮廷魔術師序列二位としてカイの隣に居られている。


 あたしは、魔術の面白さを教えてくれたカイが好き。あたしの退屈な日々に彩りをくれたカイが好き。友達としても弟としても──異性としても。だからよくこうして、お姉ちゃんというラベルを隠れみのにしてカイに抱き着くのだ。


「カイっ! 早く行こっ!」


 こうしてあたしたちは、アドバントからシールに転移した。

この話を読んでいただきありがとうございます!


次回からシール編です。


「面白かった!」

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と思っていただけたら、


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