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15.宿屋で食事、次の目的地

「カイ。エリエッタさんの処遇とアンダークラウンについてだけど──」


「はい。気まぐれ定食お待ち」


 宿屋の食堂。そこで俺とリーナは、食卓テーブルに向かい合って座っている。ちなみに俺は「シフトシェイプ」を解いた素の姿だ。


 店員に言葉を切られたリーナはしかし、並べられる料理に目を輝かせ、透き通った声を弾ませた。


「ありがとうございますっ!」


 恰幅の言いおばさんによってテーブルに並べられたのは熱々出来立てのビーフシチュー。それに加えて艶の良いコッペパンや、シャキシャキと新鮮なサラダがついている。


「おいしそー!」


「まずは、先に食べるか」


「そうしようっ!」


「もう食べてるし……」


 すでにビーフシチューを呑み込んだリーナが、満面の笑みを浮かべて頷く。リーナはすぐにもう一度ビーフシチューをすくい、口に運ぶ。


「ん~~! おいしいー!」


 頬っぺたを押さえて舌鼓を打つリーナを見ていると、俺まで表情が緩んだ。


 本当に昔からリーナは旨そうに食べるな。


 俺もビーフシチューを口に含む。その途端、濃厚なコクと旨味が口の中に広がった。


「うまっ!?」


 暖かいスープの仄かな甘味と酸味。それに加えて、ジャガイモや牛肉の確かな食感が舌を退屈させない。スープを呑み込むと、だんだん薄まっていく幸せの味を手放したくなくて、次のビーフシチューを口に運ぶ手が止まらなかった。


「だよねだよねっ! ここのビーフシチューは今まで食べたビーフシチューの中で一番おいしい!」


「ああ……もしかすると王城の料理よりもおいしいぞこれ」


 それから俺たちは夢中でビーフシチューを口に運び、何度もおかわりした。


「あーおいしかったぁ……」


 久々にこんなおいしいもの食べたな……ん? 今って全部俺のおごり……。


 食後の幸せな満腹感に浸るリーナとは裏腹に、俺は財布の中身を見て戦慄した。


 ギリギリ足りる……けど、キツイ……。


「えっ!? ショートケーキもあるんですかっ? 一つくださいっ!」


 そんな俺の内心も露知らず、リーナは食後のデザートまで注文し始めた。


「り、リーナ。そろそろ報告を聞かせてくれないか?」


 まだ何か注文しそうだったリーナを止めるべく、俺は本題を切り出す。


「あっ! そうだった……」


 するとリーナは注文を切り上げ、トロトロに緩み切っていた表情を引き締めた。


「まずエリエッタさんの処遇なんだけど……理由も理由だし、たぶらかされただけっていうこともあって思っていたより罪は軽くなりそうだよ。それに死者もシベリウス伯爵の騎士だけで、彼らは伯爵の権力を笠に着て好き放題やってたみたいだから、懲役半年以内で収まりそうだって」


「そうか……」


 それはよかった……。


「ちなみに、あのAランク冒険者三人は冒険者資格を剥奪されて、家財のほとんどが没収されたって。それから本人たちの意思で、エリエッタさんに謝りに行くって言ってたよ」


「そうか……」


 俺には関係ないが、まあよかったのか……?


「後はエリエッタさんに魔物増強剤を渡したアンダークラウンについてだけど、エリエッタさんが話していたこと以上のことは何も分からないって。アルグス王国だけじゃなくて、三大国連合の他の二国とも協力して調べるみたいだけど」


「そうだろうな……三大国連合は魔族に対抗するために組まれた連合だし」


「うん。あたしが受けた報告はこのくらいかな」


「そうか」


 まあ、アンダークラウンって組織が何をしてこようと俺には関係ないのだが。俺は勇者のかませ犬にさえなれればそれでいい。


 ……そりゃあ、俺の目の前で組織が動いたら義務として対処するけど。


 俺はリーナの報告を聞いて、今後の身の振る舞いを考える。リーナはというと、俺が思案していた僅かな時間でショートケーキを平らげていた。そして今もフォークを咥え、後味に浸っている。


「リーナ。よく食べられるな……」


「甘いものは別腹だからねー」


 俺のジトっとした目を、古から伝わる最強の言い訳で華麗にスルーしたリーナは、チラリと後ろを見た。


「ん?」


 気になって、リーナの視線を追う。


「よっしゃおれの勝ちぃ!」


「くっそぉ……」


 彼女の視線の先では、冒険者らしき風体の男女数人がトランプを使って賭け事をしていた。


「おまえまさか……また──」


「いいじゃんあたしのお金なんだし! どう使おうが勝手でしょ?」


「それはそうだけど……リーナは賭け事弱いだろ。この前だって──」


 勇者召喚前。俺たちは王命があってガスベガに行った。大規模なカジノがあるその町に三日ほど滞在したのだが、リーナはたったそれだけの期間で大負けして手持ちの硬貨を全て失ったのだ。それどころか、俺が肩代わりしなければ、危うく杖やローブを売る羽目になるところだった。


「うっ……! で、でも、お金を使ってゲームを楽しんでるって考えれば別に損じゃないし」


「この前は俺がおまえの負けた分を肩代わりしただろ?」


「いや今回は大丈夫だからっ! さすがにあれはあたしも反省してるし、節度は守るからっ!」


「おいリーナ……!」


 リーナはあざといウインクを残し、賭け事をしている一同に割り込んでいった。


 俺は虚しく伸ばした手を下ろし、ため息混じりに頭を掻く。


 リーナって頭もいいし魔術と料理の腕もいいのに、なんでギャンブル好きになったんだ……?


 賭け事に混ざり、一手ごとに表情をコロコロ変えるリーナに苦笑いしつつ、俺は店員を呼んだ。


「会計お願いします」


「はい。銀貨七枚と銅貨六十枚になります」


「えっ……はい……」


 高……もう手持ちなくなりそう。


 その値段は、日本円で言うと七千六百円。俺はビーフシチューを食べ過ぎた過去の自分とリーナを呪った。


***


「勇者様が旅立たれるぞー!」


 リーナが食堂の賭け事で大負けした翌朝。勇者がシールへと出立するとあって、町はパレード状態となった。


「リーナ。準備できたか?」


「うんっ! シール──港町かぁ……行ったことないから楽しみだねっ!」


「そうだな」


 次はどんな肩書きで、どんな風なやられ方でかませ犬になろうかな? 今から楽しみだ。


「行こう」


 足元に転移魔法陣を展開し、リーナに手を差し出す。するとリーナは、俺の手を無視して抱き着いてきた。


「カイっ! 早く行こっ!」


「まったく……相変わらずだな」


 俺は、自分では姉だと主張するくせに小さな妹のように甘えてくるリーナの腰に手を回し、転移魔術を発動した。


***


「ありゃりゃ。今回の人間は期待外れだったなぁ~」


 とある場所──紫の光に包まれた禍々しい玉座に腰掛けている男は、手元に映し出された映像を見る。そこには、エリエッタの策謀が宮廷魔術師に止められ、彼女が勇者に説得されるまでの様子が映し出されていた。


 軽快な口調で話す端正な顔立ちの彼は、堕天使とでもいうべき風貌をしていた。雪のように白い肌に紫の髪に、猫のように縦長の瞳孔をした紫の瞳を持つ彼。その背中には四対八枚の漆黒の翼が生えていた。


「まあいいや~。……他に面白そうな人間を見つけたからねぇ〜」


 チャラ男のように軽薄な笑みを浮かべた彼は、映像に映る男の宮廷魔術師を見つめる。


「彼はどうして、姿を変えてまでオークロードにわざと負けたんだろう? 気になるな~」


 そう言って男は、玉座の下に控えていた人間の女性に流し目を送る。すると銀髪ポニーテールの彼女は恭しく頭を下げた。


「私が調べてまいります」


「うんうん。分かってるじゃん! よろしくね~、オリヴィア」

ここでアドバント編は終了です。ここまで読んでくださりありがとうございます!


明日の投稿は「閑話」になります。そして明後日からはシール編に入りますので、これからもこの物語を読んでいただけると嬉しいです!


「面白かった!」

「続きが気になる!」


と思っていただけたら、


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