10.オークロード
「今だ魔術師!」
「言われなくとも分かっています」
Aランク冒険者たちは磨き上げられてた個人技と熟練の連携でオークジェネラルを圧倒していく。その姿に感化されてか、勇者二人の動きにはいつも以上のキレがあった。
「オレ様のことも忘れんじゃねぇッ!」
レイジもBランクでありながら、赤い刀身の両手剣を振るい、Aランク指定のオークジェネラルを一刀両断。俺は減り続けるオークジェネラルと、動きを見せないオークロードの動向をうかがっていた。
あの威圧感……今の勇者じゃ厳しすぎるよな。行動パターンを探りながらある程度は削って──。
「これで最後です!」
Aランクの剣士が、最後のジェネラルの首を刎ねた。
その時だった。二十メートルは離れた場所に座っていたロードが、瞬間移動と錯覚するほどの速さでAランク二人の目と鼻の先に現れたのは。
ヤバい! 誰も反応できてない……!
凝縮された時間の中で、ロードの棍棒が振り下ろされていく。今ようやく、ロードが地面を蹴った音が耳に届いた。
これじゃあ、あの二人にかませ犬を取られる!
刹那、俺は「ライトニングブースト」に費やす魔力量を五倍に増加。音を置き去りに地面を蹴る。そしてロードとAランク冒険者の間に体を滑り込ませ──。
俺は、木よりも太く長い棍棒を剣で受け止めた。ロードの攻撃の重みに、一瞬競っただけで地面が砕ける。
剣はそんなに得意じゃない。けど、それでもリーナの家で騎士たちに教えてもらったんだ。技のない力任せの攻撃ぐらい流せる……!
俺は剣を斜めに寝かせ、棍棒を逸らす。狙いが逸れた棍棒はそのまま地面に衝突。周囲は土埃に包まれ、視界を奪われる。
よし。これでかませ犬を取られずに済んだな……あっ、そうか……! かませ犬を取られないようにAランクには寝ててもらえばいいのか!
そんなことを思いついた俺は、ぼんやりと見える影でAランク二人の位置を確認し、銀の腕輪をはめた左手のひらをかざした。
スリープ。それと、ストーンウォール。
Aランク二人は俺の魔術で眠りにつく。そして、ロードの攻撃でそうなったかのように地面を勢いよく隆起させ、Aランク二人を死なないように吹き飛ばした。
「なんだ!? 何が起こったんだよ!?」
「くっ……オークロード、速すぎる!」
隼人が目を覆って声を荒げる。裕也の声からも、余裕が消えた。
勇者のかませ犬は譲らない。これなら、あの二人は俺のかませ犬になるよな。
Aランク冒険者でも防げなかった攻撃を、Bランクの新人が防いだ。この状況なら誰もがそう認識するはずだ。
あれ? まてよ。これって、より俺のかませ犬用の肩書きが増えたってことか? 最高じゃん!
何秒かが過ぎ土埃が薄まると、互いの姿が見えるようになった。そしてオーグスは俺と目が合うと、大きく目を見開いた。
「ケイおまえ……Aランクが反応できなかったあいつの攻撃を逸らしたのか!?」
オーグスさんそれです! その反応! 後は誰かが、俺が最速でBランクになったってことを言ってくれ! それだけで俺は名声を伴った、父さんみたいなかませ犬になれるんだ……!
「ケッ……さすがは最速でBランク昇格した野郎だぜ」
レイジ師匠ぉー!
レイジの一言で、かませ犬になる準備は整った。俺は勇者を一瞥し、目の前の巨体──オークロードに向き直った。
あとは、ロードの行動パターンを見極めるだけ……。
オークロードの圧と、勇者たちの羨望の眼差しに挟まれていると、自然と口元が緩んだ。高揚感に浸る俺の隣では、裕也が純白の槍を構えて──。
はっ!? なんで!? ……まだ勇者様向けのオークロードへの対処法も分かってないんだけど!
「貴様、何を驚いた顔をしている? どれだけの強敵が相手であろうと、このオレが怖気づくなどありえん」
マジか……普通目で追えない相手に正面から堂々と立ち向かう奴なんていないだろ……。
俺は、どこまでも上から目線で余裕を見せる裕也に、呆れを通り越して関心を覚えた。だがよく見ると、彼の額には汗が滲んでいた。
どうしてそこまで……まあ、俺のやることは変わらないか。
「なら勇者様。俺がオークロードの攻撃を捌きます。なので勇者様はその隙を」
「ふんッ! このオレに指図するか……だが悪くない案だ。乗ってやる」
はいはい。ありがとうございます。
相変わらずの鼻に着く態度を取る裕也に呆れて笑う。裕也の準備が整ったことを確認して、俺は魔術名を唱えた。
「ヘイトオーラ」
紫の光とともに、魔物にしか聞こえない耳障りな音が広がっていく。するとすぐにオークロードの赤い瞳が血走る。気付けば、俺に向かって神速の棍棒が振り下ろされていた。
「ストーンウォール」
魔術で作り上げた土壁は、藁の家のように簡単に壊される。
やっぱりだ。こいつもしかして──。
作りだした一瞬の内にロードの攻撃を分析し、俺はあることを確信する。それから俺は、まるで勢いが収まらないロードの棍棒を剣で受け流した。
「勇者様」
「ふんッ! 指図するな」
裕也は俺の脇からロードの下に潜り込み、肥え太った腹部に向かって槍を突き出す。勇者の高いステータスと、努力が垣間見れる完璧なフォームで繰り出された槍先は正確にロードのヘソを捉えたが──。
「くっ……」
裕也の槍は、金属同士がぶつかる音を上げてロードの皮膚に弾かれた。次の瞬間、怯んだ裕也の頭に向けて棍棒が振り下ろされる。
「ストーンウォール」
俺は本日何度目かのストーンウォールでオークロードの山のような巨体を押し飛ばし、攻撃を中断させる。
「硬いな……このオレの槍が通用しないとは……」
そうだ。諦めずに見て感じて考え続けてくれ勇者様。そうしてくれるなら、俺はかませ犬としてヒントを出せる。だから、折れないでくれよ……!
俺は、氷のように冷たい視線を裕也に向けた。
「勇者様。下がってくれませんか? あなたではオークロードに傷一つ付けられず、攻撃も防げない。はっきり言って足手まといです」
「はっ……!?」




