こはくとしずく、二匹のねこのだいすきなにおい
このおはなしは、
二匹のねこが、だいすきなにおいをたよりに、
大切な記憶を見つけるまでの、
小さな旅のおはなしです。
少し、かなしいところもありますが、
さいごには、あたたかくてやさしいにおいが、二匹を導いてくれます。
どうぞ、ゆっくりと、読んでください。
ある日、雨のふる夜。
箱のなかに、小さなねこが二匹いました。
おにいちゃんねこのこはくと、いもうとねこのしずくです。
こはくとしずくは捨てられて、寒くて、おなかもぺこぺこでした。
そこへ、せっけんとおいしそうなごはんのにおいがする、やさしい笑顔のおばあさんがやってきて、
「まあまあ、こんなところに……」
と、二匹をだきあげて、おばあさんのおうちへ連れて帰ることにしました。
それから、あたたかい日々が、ゆっくりとゆっくりとつづきました。
あたたかい部屋、やさしい手のひら。
ごはんのにおいと、せっけんのにおい。
二匹は、しあわせにくらしました。
でも、ある日。
おばあさんは、ねむったまま、目をさましませんでした。
部屋はしずかで、
あのやさしいにおいも、少しずつ消えていきます。
しずくは、だんだんさみしくなって、泣き出してしまいました。
こはくは、くんくんと、
床にのこったおばあさんのにおいをかぎました。
「だいじょうぶ。
まだ、においがある。
さがしにいこう」
二匹は、おばあさんのにおいをたよりに、
外へ、旅に出ます。
町をこえて、野原をこえて、
雨の日も、風の日も。
においは、だんだんうすくなっていきます。
やがて、二匹は、
あたたかい光のさす場所につきました。
たしかにそこには、
おばあさんのにおいがありました。
でもそれは、強いにおいではありません。
やわらかくて、あたたかくて、
そよ風みたいなにおいでした。
しずくは、きょろきょろしました。
「おばあさん、どこ?」
こはくも、まわりを見ました。
でも、だれのすがたもありません。
すると、あたたかい光のなかで、
なにかが、きらきらとやさしくかがやきだしました。
それは、二匹が知っているにおい。
だきしめてもらったときのにおい。
なでてもらったときのにおい。
声は聞こえません。
でも、二匹の心に、
「ここまで、来てくれて、ありがとう」
そう、つたわってきました。
しずくの目から、なみだがぽろりと落ちました。
でも、えがおも、少しだけうかびました。
「おばあさん、ここにいるんだね」
こはくは、しずくのそばにすわりました。
「うん。
だから、もうだいじょうぶだよ」
やさしい風がふいて、
においは、ゆっくりと、空へととけていきました。
こはくとしずくは、ならんで歩きだしました。
もう、においをさがす旅ではありません。
おばあさんにもらった、
たくさんのやさしさを胸に入れて、
これからの自分たちの旅へ。
あたたかい光の下で、
二匹のしっぽは、なかよくゆれていました。
だれにでも、
心にのこっているにおいが、
ひとつくらい、あるのではないでしょうか。
このおはなしが、
あなたの大事な記憶を、
少しだけ、あたためることができたなら、
うれしいです。




