第五章「母の祈り」
少しずつ代行に慣れてきた青葉。
新たな祈りの声に耳を澄ませます。
光を届けるために、いま自分にできることは──
そして、導きの先に待つものとは。
青葉とシンの新たな代行が始まります。
日曜の午後、窓から柔らかな光が差し込む部屋で、青葉は分厚い『神業』を広げていた。
小さな文字がところ狭しと並んでいる。
最初は文字が踊るようで閉じてしまった本だが、今日は付箋を幾つか挟み、分からない箇所に印をつけている。
少しずつだが――代行のために何かできる手応えが、彼女の中に生まれていた。
「ねぇ、シン」
ベッドに腰かけたシンの方を見やると、彼は淡く微笑んだ。
「神業は初めての者には難解だ。焦ることはない。お前のペースでよいのだぞ」
青葉は顔をしかめて首を振る。
「違うの。難しいのは確かだけど……それより、シンってここに来てから一度も食事してないよね?お腹、減らないの?」
それを聞いたシンは、一瞬狐につままれたような顔をした。
「我らは基本、食事を摂らぬ。空腹という感覚はないのだ」
軽く笑った彼の声が、午後の静けさに溶けた。
その静寂を縫うように、小鳥のさえずりが心地よく部屋に響く。
青葉はその音に耳を澄ませながら、ふと微笑んだ。
その穏やかな時間の中で、青葉の耳にふわりと祈りの気配が届く。
音ではなく、胸の奥に重く落ちる何か――。
「神様、あの子を傷つけるものすべてからお守りください……」
祈りの主は四十代後半の女性。
娘を守りたいという切実な願いが、青葉の頭の中に鮮やかな像を浮かび上がらせた。




