第四章「初めて抱く恋心ー鼓動ー」
その夜、青葉は温かな夢を見た。少し先の未来のようだーー
そこには、桜が卒業式を終え、花壇の前で最後の水やりをしている姿があった。
市村は、残念ながら卒業式に参列できなかった。
楽しい思い出、苦しかった日々、初めての恋ーー桜は感謝の思いで胸を満たしていた。
水やりを終え、帰宅する途中、新装開店した花屋に目が留まる。
店主がオープン記念に、一輪の花を配っていた。
「おっ!お嬢さん、卒業生だね。おめでとう!どうぞー」
受け取ると同時に、やさしい香りに包まれる。
下を見ると、植木鉢から小さく可愛らしい芽が、ほんのわずか顔を出していた。
青葉の祈りが届いたのか、種はそっと目を覚ましたようだった。
「何の花が咲くんですか?」
「マリーゴールドだよ。今年は温かいから発芽が早いのかなー」
その言葉に、桜の胸はざわめいた。
携帯電話に通知音が鳴り、我に返る。
母親からのメールだった。
「添付画像つき?」
開くと、そこには市村からもらった種が懸命に発芽しようとする姿が映されていた。
桜の中に、風が吹いた感覚があった。
気づくと、急いで青柳公園へ向かっている自分に気づいた。
懸命に走り続ける間、桜はずっと市村の笑顔を思い出していた。
青柳公園の近くまで来た時、ほのかに優しい香りを感じる。
息を切らせながら、公園の中へ入ると、大きなサクラの樹が迎えてくれた。
「これが、あの日先生が言っていた、大好きなサクラ……」
まだ蕾のままだった。
でも、心から美しいと感じた。
「中原?」
桜の肩が跳ね上がる。
慌てて振り返ると、同じように驚く市村がいた。
桜の心に、あの鼓動が再び蘇るーー。
ジリリリリーーーー!!
目覚まし時計が勢いよく鳴った。
青葉はびっくりして目覚めるが、素敵な夢に幸せが満ち溢れていた。
「今日も頑張るぞー!」
笑顔で飛び起きた。
「おはよー!シン⋯?」
辺りを見渡すがシンの姿は見当たらない。
不思議に思う青葉だったが、気にせず学校へ向かった。
その頃、シンは屋根の上から青葉を見つめていた。
その腕には、代行介入による小さな傷が残っていた。
淡い痛みが走るその身体を抱え、何かに耐えるような、どこか寂しげな表情で――それでも青葉を見守る目は優しかった。
青葉とシンの祈りと導きによって、桜は無事に初恋の一歩を踏み出せた。
しかし、代行者の介入には代償が伴う――その傷は、神の仕事を超えた行為のしるしだった。
シンは静かにその代償を胸に刻みつつ、今日も青葉の傍らで見守り続けるのだった。
桜の淡い恋心を見守ってくださり、ありがとうございます。
サクラの蕾が花開くように、二人のこれからが幸せに満ちていくことを願って、この章を閉じます。
次回からは新たな祈りの元へと向かいます。
これからも青葉とシンの物語を、そっと見守っていただけたら嬉しいです。




