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神様代行ー心優しき少女と傷ついた神の契約ー  作者: みい


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第七章「君が為ー褪せない色ー」

「素敵な花束ね。理人の好きな色ばかり」


鈴花は抱えた花束を見つめ、嬉しそうに微笑んだ。


「鈴花ちゃん……十年経っても忘れずに居てくれてありがとう」


真央の言葉に鈴花はゆっくりと首を振った。


「理人くんは鈴花の初恋の相手だから特別なんですよ」


父の突然の言葉に鈴花は思わず立ち止まってしまった。


だが、目元だけは鋭く父の顔へと向けた。


鈴花の無言の圧を感じると一言だけ


「ごめん……」


と小さく呟いた。


真央はそんな微笑ましいやり取りを見て笑っていた。


「ふふっ。本当今井コーチは昔から変わりませんね」


「…面目ない」


鈴花は少し落ち込む父に呆れていた。

しかし、少し重く感じていた空気がふっと軽くなった気がした。

父の背中にポンと軽く触れる。

顔を見合わせるとお互い鏡のように微笑んでいた。



月が穏やかに三人を照らす。


ゆっくりと足が止まったーー


真央が先に供えた花束の隣に、鈴花も寄り添うように置いた。

その場へゆっくりと腰を下ろし手を合わせる。


十年という月日が色褪せない程、あの日は濃く深くーーここに確かな傷を残した。





パタッ…

青葉の部屋で、ぬいぐるみが静かに倒れた。

風もない夜なのにーー


青葉はゆっくり目を閉じ、胸の奥のざわめきを拾い上げる。

導きの光を届けるために、息を整えた。

微かな風が生まれ、闇の中へと流れていく。




風に乗った花の香りが三人を優しく包んだ——が、

その気配は一瞬で途切れた。


静かすぎる夜。

真央の胸を震わせたのは、十年前の記憶だった。




雨に混じった泥のにおい。

茶色くなったユニホーム。

遠くから見えた理人の後ろ姿。

そっと涙をぬぐう仕草。


ただ見ているだけで、胸が締めつけられるようだった。


運転席の恭子もまた、同じ顔をしていた。


どうして私は、あの日あの場に留まってしまったのだろう。

ほんの一歩だけでも車道に踏み出していれば——抱きしめていれば。

理人は、今も隣で笑っていたはずなのに。




真央の瞳から涙が溢れた。


時折通る車のエンジン音が静けさを裂く。



その音は青葉の耳へと割って入った。

それは真央の中の痛みと共鳴し、

青葉の胸の奥へと触れた。


青葉の視界へゆっくりと影が近づく。

エンジン音のあと──

理人の笑顔がふっと消え、

全てが白く光った……


青葉は一瞬だけ目を閉じた。


異変に気づいたシンが、青葉の顔を覗き込む。


「青葉、大丈夫…か?」


「……うん。続けよう」


青葉は力強く頷き、揺らいだ瞳にふたたび光を灯した。

その横顔を見つめながら、シンは静かに息を呑んだ。





「本当にありがとうございました」


真央は深々と頭を下げた。

今井も鈴花も同じように頭を下げる。


顔を上げるとお互い穏やかに微笑みを交わした。


「鈴花、父さん少し作業が残っているから先に帰っててくれるか?」


「分かった。お母さんにも伝えとくね」


そう言って鈴花は自転車を押しながら真央の側へと向かった。


「真央さんは…車?」


「うん。隣の駐車場に停めてあるわ」


そう言うと、真央は何かを思い出したように鈴花を駐車場の方へと案内した。


車が目に入ると鈴花は口を開けて驚いた。


「えっ、白いポルシェ!」


目を丸くしながら鈴花は興奮気味に話し出す。


「理人くんがいつも鞄に入れてたミニカーと一緒」


真央は笑顔で頷いた。


「将来サッカー選手になったらお姉ちゃんにプレゼントしてあげるよ〜って言ってた車なの」


鈴花は穏やかな瞳で車を見つめた。


真央は鈴花の肩に優しく触れ微笑んだ。


「理人ね、鈴花ちゃんからのあのチョコ、すごく喜んでたのよ。照れ屋さんなだけで、きっと理人も…」


そう言いかけると鈴花は嬉しそうに笑った。


空に浮かぶ星々が遠くで光り、瞬く夜。

ずっと昔のその光は今もなお色褪せないーー

しかしその星を隠そうとする黒い雲が流れ始める。


穏やかだった夜に、風が姿を現した。




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― 新着の感想 ―
あ…理人くんは… 青葉も辛そうですね… 続き、また楽しみにしています\(^o^)/
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