第六章「月下、兆しー神友ー」
「あれ⋯シン??」
朝食を済ませた青葉は部屋にシンの姿が無いことに気付いた。
その時、机の上に淡い光を纏ったメモを見つけた。
ーー天界へと一旦戻る。用が済み次第帰るーー
無駄を省いたシンらしいメモ書きを見て青葉は少し笑みを浮かべた。
読み終えるや否や、メモはふっと消えていった。
「マジックみたい⋯」
目を丸くした青葉は数回まばたきを繰り返すと、そそくさと学校へと向かった。
朝日が心地よく空はどこまでも青々と広がっている。
その中に白く残った三日月が静かに青葉を見守っているようだった。
「ただいま戻りました。」
シンは天界へと到着していた。
人間界での幼い姿から、瞬く間に本来の神の姿へと戻る。
長身の体に纏う白い衣が光をはじき、静かに天の空気が震えた。
真っ白な部屋の中に、立派なヒゲを蓄えた神が一人待っていた。
「シン今日が何の日か覚えておるな?」
シンは膝まづき頭を下げた。
だが、その瞳は微かに切なく揺れていた。
「勿論です。」
神は髭を軽く撫で、シンへ告げた。
「よろしい。漆黒の間へ向かいなさい。」
スッと立ち上がり、強い眼差しのままシンは言われた通りに向かった。
夕焼けが空を覆い始めた頃、青葉は自宅へと帰った。
急いで自室へと入ったが、まだシンの姿は見当たらなかった。
少し残念そうに鞄を下ろし、着替えると椅子に腰を降ろした。
シンが居る事が日常になっている自分にぼんやりと気づく。
軽く息を吐き、ゆっくり落ちていく夕陽を見つめていた。
その時部屋の中に突如冷たい風が吹き抜けたーー
背後で写真立てがパタリと倒れる音がして振り向いた。
「え⋯⋯」
見知らぬ大男が視界に入り、青葉の身体が硬直した。
ただ立っているだけなのに、部屋全体が影に包まれたような錯覚を覚えるほどの長身だった。
「だ、誰……? いつの間に……?」
足が小刻みに震えだし、何故か目が逸らせない。
男は混乱する青葉の顔を覗き込み、ふっと目尻を緩めた。
「君が青葉ちゃんだね。」
いたずらに微笑む顔がほんの僅か安心感を与えた。
「シンは居ないみたいだね。」
残念そうに言うとその場に座り込んだ。
「え⋯⋯シンの知り合いの方?」
男は笑顔で頷いた。
「僕はカルマ。シンの神友だよ」
屈託ない笑顔が青葉の硬直した身体を解きほぐしていく。
「⋯カルマさん。朝からシンは留守にしてて、用事が終わったら戻ってくると思います。」
丁寧に受け答えする青葉にカルマは興味津々な顔で見つめる。
「青葉ちゃんの魂ってさ、めちゃくちゃ綺麗なんだね〜。」
理解し難い言葉に青葉は口をポカンと開けた。
カルマはコロコロと表情を変える青葉が面白く思えた。
「シンが帰ってくるまで一旦任務に戻るよ」
そう言って立ち上がり、冷たい風と共に一瞬にして去って行った。
青葉は全身の力が抜けた気がした。
風に乗り空を舞うカルマは、怪しく瞳を光らせ祈りの元へと急いだーー




