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神様代行ー心優しき少女と傷ついた神の契約ー  作者: みい


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第五章「母の祈りー灯ー」

子供たちの声が賑やかに響く夕暮れ、美亜はいつも通り大学を終え帰宅した。


その顔には、うんざりとした影が差していた。


毎日同じ日々の繰り返しに、少し疲れていたのだ。


ふうと軽く息を吐き、鞄から弁当箱を取り出すと清江に手渡した。


「今日の鶏の照り焼きすっごくおいしかったよ」


笑顔で取り繕う美亜を見て清江の心はいつもざわつく。


「良かった。今晩はミネストローネですよ」


美亜の目が一瞬で輝く。


由美の好物でもあるが、美亜も同じようにミネストローネが大好きなのだ。


「ふふっその笑顔、由美さんの幼い頃と瓜二つだわ」


清江にそう言われ美亜は少ししかめっ面を浮かべ、すぐさま話題を変えた。


「そんな事より、明日大学終わりにどうしても寄りたい所があるの。なるべく早く済ませるから、また口裏合わせお願い」


手を合わせチラっと大きな瞳を覗かせる。


これまでも、美亜はこうして僅かな自由を得てきた。


清江は慣れたように了承した。


それと同時に美亜の貴重な青春を早く謳歌させてあげたいと心から願っていた。


窓から差し込む夕日が美亜の背中を淡く照らす。


清江はその背中を見守ることしか出来ない自分を歯がゆく思った。






翌朝いつものように美亜は大学へと向かった。


見届けた由美は深いため息をついた。


そしてゆっくりと仕事へ向かう準備を始める。


「清江さん、今晩は会食があるから夕食は要らないわ。美亜のことよろしく頼みます」


「分かりました。行ってらっしゃいませ。」


清江は笑顔で弁当箱を渡すといつもの笑みで送り出した。


少し立ち止まり考え混む。


「今晩は美亜さんが食べたいと言ってたビーフストロガノフにしましょうかね」


そうつぶやきながら冷蔵庫をザッと確認するとバターが足りないことに気付いた。


仕事を片付け終わったら買いに出ることにして一旦台所を離れた。





忙しなく本日の業務を終え、気付けば下校する小学生の声が聞こえ始めた。


慌ててバターを買いに出かけると、空を怪しい雲が覆い始めた。






その頃美亜は運転手を待たせ、買い物をしていた。


清江のエプロンが傷んでいるのをずっと気に掛けていたのだ。


清江を想いながら3軒程見て回る。


そして淡い青色のエプロンを手に取り微笑んだ。


「これ一番清江さんっぽい」


急いで会計を済ませ包装を待っていると僅かに窓を雨粒が叩く音が聞こえた。


ついてないと眉をひそめる。


すると心配した運転手から電話が入った。


「もうすぐ終わるからそちらに戻りますね」


そう言って綺麗に包装されたエプロンを受け取り急いで車へと向かった。


さっきより雨脚が強くなってきた。


近道の為細い路地を通っていると、後ろから突然声がした。


「お姉さん、ちょっといい?俺等これからカラオケ行くんだけどさ、一緒に行こうよ」


美亜は男達に毅然とした態度で断った。


「結構です。私急いでるので⋯」


そう告げて走り出そうとした時、一人の男が美亜の腕を掴んだ。


「離して!!」


腕を振りほどこうとしても力が強くて離れない。


助けを求めよう口を開いた瞬間、もう一人の男が美亜の口を塞いだ。


途端に恐怖が襲い、小刻みに身体が震えるのを感じた。






傘を雨が叩く。


清江はバターを買い終えると家路と急いだ。


すると幸せそうな親子が清江の視界に入った。


ーー黄色いレインコート。


嬉しそうに母へ見せる子供の笑顔が眩しく映る。


そんな我が子を優しく見守る母の笑顔⋯そんなありふれた光景に思わず目を逸らした。


叶わなかった無念の想いが清江の胸の奥に、痛みと共に蘇るーー





彼と初めて会ったのはお見合い当日だった。


親の勧めで仕方なく行った見合いだったが、屈託なく笑う彼に一瞬で心を奪われた。


彼もまた清江の優しい雰囲気に心を許していった。


夫婦となり子供を育てたい⋯自然と二人はそう想うようになっていた。






雨粒が激しくなるーー


清江は親子の横を通り過ぎ足を速めた。


その時ズキリと下腹部に痛みを感じた気がした。


思わず下を向き手でお腹をさする。


それは謝罪のようにも見えたーー






家へ着くと傘立てには誰の物もなく、美亜の姿もまだなかった。


息抜きを楽しんでいる美亜を想うと自然と笑みが戻った。


夕食の準備に取りかろうとした、まさにその時だったーー美亜から助けを求める連絡が清江の元へと入った。





青葉は鼓動を落ち着かせるように深呼吸を繰り返す。


シンの眼はより強く力を宿す。


「今回は導くだけではいかないようだ。青葉が辛いなら…」


そう言いかけた瞬間青葉はシンの手をぎゅっと強く握り返した。


「私なら大丈夫。シンが隣に居てくれるなら」


日に日に頼もしくなる青葉にシンは目を丸くした。

しかし、すぐに合点がいった。


何故ならそれは自分自身が代行者に選んだのだからーー。


口角を僅かに上げ、確信のような自信がシンの中に確かに芽生えた。


「案ずるな。そのままの青葉で良い」


そう言うと眼に光る"何か"をシンは感じた。


祈りが空へと昇り、やがて暗雲を払う光となった――



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