表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様代行ー心優しき少女と傷ついた神の契約ー  作者: みい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/28

第五章「母の祈りー追憶ー」

美亜と由美を送り出したあと、清江は畑へ向かった。


由美が亡き夫のために育てたトマトは、陽を浴びて真っ赤に熟している。


手に取ると、ふっと昔の風景が香りとともに蘇る。




清江がこの家に来たのは、由美がまだ七歳の頃だった。


若かった自分は、住み込みで働かせてほしいと頼み込み、以来四十年近く、ここで暮らしている。


仕事は日々の繰り返しだった。

けれど、由美の小さな成長を見守る時間だけは、清江の胸をそっと温めてくれた。



「今晩は由美さんの好きな、このトマトでミネストローネにしましょうかね」


そう呟くと、熟れた果実の匂いが清江の記憶の扉をそっと開いた。




七歳の由美はトマトが苦手で、ミニトマトをそっとスカートのポケットに隠すような子だった。


まだ慣れない住み込みの日々の中で、清江はその小さな仕草に気づき、ふと手を差し伸べたのだ。


「スカートが少しほつれていますね。手直ししましょう」


そう囁いて由美を連れた小さな部屋で、

ポケットから取り出した割れたミニトマトを、そっと口に含んだ。


「ん…酸っぱいけれど、スープにすればきっと食べやすくなりますよ」


由美の目が、ほっとほどける。

清江はただそれだけで、自然に笑った。


それからというもの、由美は何かあるたびに清江に駆け寄り、嬉しいことも悩みもすぐに話すようになった。

清江はいつも、黙って受け止めた。




   


清江はトマトを籠に入れ、手のひらでそっと撫でた。


柔らかな皮の感触が、なぜか心の奥をくすぐる。


「……よく育ったね」


そう呟いた声が、少しだけ震えた。


誰に向けた言葉なのか、自分でもわからないまま。




清江は畑を後にした。


やわらかな陽のぬくもりを背に受けながら、静かに歩き出す。


その胸の奥では、ただ一つあの母子の幸せだけを願っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ