ヴェルーナの過去(2)
「ゾーエ・セオス?カオス村の青年と同じ名前ね。」
「カオス村の青年?誰だそいつ。」
ゾーエはムッとした。
「カオス村が毎年豊作で、冬でも作物が取れるのはそのゾーエ・セオスのお蔭なの。でも、彼が何者なのか、本当の名前は何と言うのか誰も知らないの。お父様が言うには、神のダルド様がもたらしてくれたと言っていたわ。」
(あいつら、言いやがったな。)
「あっ、でも、この話は、カオス村の村長から無理やり聞いたの。だから、誰にも言わないでね。約束よ。」
しかし、ダルドは返事をせずうつむいていた。
(どう罰してくれよう。)
と、考えながら。
「ねぇ、聞いてる?ねぇ、ゾーエ。」
いくらリシェーネが言っても、返事をしない。
すると、リシェーネは何を思ったか神の名を言った。
「ダルド?」
と。
すると、ゾーエは返事をした。
「何だ。」
リシェーネは、にこりと微笑んだ。その笑みは、何か企んでいる笑みだ。
ゾーエは顔を上げて、しまったという顔をした。
「やっぱり。貴方はカオス村を救った、ゾーエ・セオス。いいえ、この国、ジロン国に崇められている神、ダルドでしょう?」
「その通りだ。しかし、お前は賢いな。俺の正体に気が付いた奴はお前が初めてだ。何故分かった?」
リシェーネは、誰もが見惚れるであろう笑みを浮かべながら言った。
「私に、王になるべく育てられた私に、ゾーエ・セオスと名乗ったのが間違えね。すぐわかったわ。」
と、リシェーネが言い終わったのと同時に美しい声が聞えた。
「リシェーネ、私の可愛いリシェーネ。何処に居るの?」
「お母様。私はここに居ます。」
と、声のする方に向かって言った。
そして、ゾーエ…ダルドを向いて行った。
「あなたの事は誰にも言わないわ。その代わり、毎日私とおしゃべりしてね。」
そう言い残して、さっき声のした方へ走って言った。
ヴェルーナは、ダルドをちらりと見てリシェーネの後を追った。
リシェーネの母親、否、自分の母親の顔を見るために。
「お母様!」
リシェーネは、金色の髪の女性に抱きついた。
「あら、リシェーネこんなところに居たの。探したのよ。」
と、言いながらリシェーネの方を向いた。
ヴェルーナは、彼女が振り向くのと同時にリシェーネに追いついた。
髪と同じ色のまつ毛に縁取られた眼は水色で、顔も整っておりリシェーネに似ている。
「ごめんなさい。次からは気をつけるわ。」
リシェーネが言うと、リシェーネの母は微笑んだ。
「さ、中に入ってお茶にしましょう。」
そう言うと、二人は王宮の中にに入って行った。
ヴェルーナも入ろうとすると、声が聞えた。
リュシオンの声だ。
ヴェルーナは目を瞑る。
再び目を開けたら、リュシオンの顔が目に入ってきた。
「良かった。」
と、リュシオンが呟いた。