嫁入りと孫
「ヴィオをよろしくね。」
中庭の大木の前で、リシェーネは目に涙をためながら言った。
ヴィオレーヌはウエディングドレスを着て、嬉しそうに笑みを浮かべている。
「ああ。」
ダルドが微笑みながら言う。
ヴィオレーヌが何かを探すように、きょろきょろと辺りを見回した。
「どうかしたのか?」
ダルドが首を傾げながらヴィオレーヌに問う。
「お母様、お父様は?」
「ああ、リュシオンなら五月蠅いから部屋に閉じ込めてきたの。」
リシェーネが微笑みながら言う。
「そ、そう。」
「そろそろ行くぞ。」
ダルドがヴィオレーヌに言う。
「うん。お母様、元気でね。」
「ヴィオもね。」
ダルドが指を鳴らすと、ヴィオレーヌとダルドは消えた。
「おばあさま!」
銀色のふわふわの髪に、青い瞳の幼い子供がリシェーネに向かって走る。
リシェーネは走り寄ってきた子供に抱きつく。
「まぁ、アドニス。大きくなったわね。」
そう言うリシェーネの顔には、しわが刻まれている。
だが、とても六十歳には見えない。
「アド、何度注意したらわかるの。」
アドニスの後ろから歩いてきた白金の髪に青い瞳の美少女がアドニスに言う。
「いいじゃないか。」
アドニスが頬を膨らましながら言う。
「アンジェリカも大きくなったわね。」
美少女にリシェーネが微笑みながら言う。
「おばあさま、お久しぶりです。」
「こんなに綺麗になって。」
リシェーネがアンジェリカに言う。
「あら?ヴィオレーヌは?」
いつもなら居るはずのヴィオレーヌが居らず、リシェーネは首を傾げる。
「お母様は風を引いてしまって…。」
「あなたたちは大丈夫?」
「はい。」
それを聞いてリシェーネは嬉しそうに笑った。
「そう。アンジェリカ、アドニス、そろそろお帰りなさい。」
「え、でも…。」
「いいから。」
「はい。」
アドニスとアンジェリカは渋々帰って行った。
そんな二人をリシェーネは、微笑みながら見送った。