ヴィオの彼氏
遅くなってごめんなさい。
「ヴィオーーー。」
中庭にリシェーネの声が響く。
リシェーネは辺りをきょろきょろと見回し、ヴィオレーヌを探していた。
「何処に行ったのかしら…。」
リシェーネは頬に手を添え、首を傾げた。
「あっ、あそこかも。」
リシェーネが向かった先は、中庭の中心にある樹齢9000年の大木。
そこはかつて、幼いリシェーネがダルドと出会った場所。
リシェーネはバイオリーニの呪いにより覚えていないが。
案の定、そこにはヴィオレーヌがいた。
リシェーネがヴィオレーヌに声をかけようとしたその時、聞き覚えのある男の声がリシェーネの耳に入った。
「母親は元気か?」
「うん。」
その質問にヴィオレーヌは微笑みながら嬉しそうに答えた。
(誰と話しているのかしら?)
「ヴィオレーヌ。」
リシェーネが呼ぶと、ヴィオレーヌはリシェーネを見て微笑み、リシェーネの元に駆け寄ってきた。
それと同時に、木の陰から男が出てきた。
銀の髪が日の光を浴びて輝き、青い瞳は何処までも深く、顔はとても整っている。
「ヴェルーナ。」
そう呼ばれた瞬間、リシェーネの頭にダルドとの記憶がよみがえった。
バイオリーニの呪いは、何年もたって弱まっていたのだ。
「ダルド…。」
二人の間に居るヴィオレーヌは首を傾げている。
「ダルドって誰?ヴェルーナって誰?」
と言いながら。
「あっ、お母様、彼の事知ってるでしょ?」
ヴィオレーヌがダルドを指差す。
「え、ええ。」
「彼ね、私の彼氏なの。」
と、ヴィオレーヌが微笑みながら言う。
「えっ…。今何て。」
「だ、か、ら、彼氏なの。」
「彼氏?」
その言葉を聞いた瞬間、リシェーネの頭は真っ白になった。