リュシオンとの別れ
(これでいいな。)
と、蔦で作った袋の中を見て言う。
中には、一週間分の食料とウサギの皮で作った水の入った水筒、もし傷口が開いたり家ゲヲした場合の傷薬、野宿した時にかぶる虎の皮など、旅をするのに必要なもの一式が入っている。
ダントン国の最も近い村は、三日はかかる。
それにリュシオンは、傷を負っているのでもしものことを考えて四日分食料を余分に入れた。
(明日の夜明けに出発しろ。早く出た方が早く着くからな。)
「ああ。今日で最後だな。」
(?何がだ?)
「お前と二人きりの時間だ。」
リュシオンが、真面目な顔をしながら言う。
(な、何を言っているんだ。一週間に一回会うだろう。)
「会ったとしても、護衛が付いてくるから無理だ。」
(何も二人きりじゃなくてもいいだろう。)
「…」
ヴェルーナがそう言うと、リュシオンは黙ってしまった。
(リュシオン?)
ヴェルーナが、リュシオンの顔を覗き込む。
そこにあったリュシオンの瞳は、怒りに燃えていた。
「駄目だ!俺のヴェルーナを他の奴の目に触れさせるだなんて!」
と、突然怒り出した。
(リュ、リュシオン?何を言い出すんだ。別にいいじゃないか。)
そう言いながらヴェルーナは、内心ドキドキしていた。
「良くない!どうするんだ!ドラゴンハンターに狙われたら!」
(そ、そんなことか。心配するな。私は強い方だぞ?)
「そんな事とはなんだ!お前の色は珍しいんだぞ!」
(まぁ、落ち着け。襲われたらそいつらを殺すから、安心しろ。)
「ほんとか?」
(ああ。)
そう言うと、リュシオンは仕方がないという顔で静まった。
日が昇り始め、辺りが明るくなる。
リュシオンは袋を担いで、森の中を歩いていた。
隣には、ヴェルーナが居る。
「これで最後か。」
(そうだな。)
箱庭の入り口に行くまで、会話はそれだけだった。
入口に着いたころには、日は姿をすべて現わしていた。
(気をつけろよ。それから、水は無駄遣いするな。)
「分かった。じゃ、一週間後。」
そう言うとリュシオンは、箱庭を出た。
ヴェルーナは、リュシオンの姿が消えるまで見送り続けた。
竜の姿で会うのが、これで最後だとは知らずに。