#01.伝承
七月、赤く眩しい夕陽が照りつける浮鯨島。
吹き抜ける潮風が生ぬるく、暑さを感じさせる。
俺、汐野湊音はこの島で暮らす高校二年生。
今、島長の家から少し離れた食堂へ行くところだ。祭りの準備に携わってくれてる人に夕飯の弁当を届けるため。といっても、長の家で作業してる人の分だけだからそんな大変じゃないけど。
準備が始まってから、島全体が賑やかに動き出している。色とりどりの飾りが広場に飾られ、島民たちの笑い声が響く。
「湊音、弁当と飲み物、頼んだよ!」
島長の奥さんの声が、俺の耳に届く。
「うん、いってきます!」
と、俺は返事をし、食堂に向かった。向かう道中も沢山の人たちとすれ違う。島の人たちはみんな祭りの準備をしている。
食堂に着くと、店主のじいさんがニコニコしながら迎えてくれた。
「お、もう祭りの準備が始まったのかい?若いのに頑張るなぁ!」
じいさんもかなり体が衰えてるはずなのに元気すぎるだろ。
弁当を選んでいると、ふと、祭りの主役である鯨のことを考えていた。
この島では、鯨を神様として崇めている。
始まりは、島が巨大な津波に飲まれそうになった夜。皆が諦め、運命を受け入れようとしていたそのとき、海から地響きのようなクジラの鳴き声が広がった。すると、波は静まっていき、荒れていた海も穏やかな姿へと戻った。そこには、一頭の白いクジラの背中がゆっくりと浮かび、やがて潮を吹き姿を消したという。
この出来事は、海守りの日として語り継がれ、島の人々はクジラを神獣「神鯨」として崇めるようになった。
島の人々がどれほど鯨を大切に思って、敬っているのかはわかっていた。だが、俺はまだ鯨が波を静めて島を助けたということを信じれていなかった。
「んー、どうしよっかなぁ?」
目の前には、食欲をそそる色鮮やかで美味しそうなおかずが綺麗に配置された弁当が並んでいる。無難に、のり弁でいっか。
「のり弁と緑茶を10個ずつとハンバーグ弁当と麦茶を2個ずつください。」
「おう、お茶はリュックに入れるか?」
「うん、そうする」
リュックに緑茶と麦茶を入れ、弁当の入った袋をもらい、代金を支払う。
「気をつけてな」
「ん!ありがと」
急いで長の家に帰り、弁当を渡す。皆、神輿や祭りに使うものを作っている。毎年使い回せばいいのに。
「いつもありがとうね、湊音くん」
「いや、俺は弁当届けてるだけなんで。それじゃ、俺は」
残りの二つの弁当とお茶を持ち長の家から杜へ走る。しばらく走り、大きな白い鳥居をくぐる。石畳の階段を駆け上がると拝殿が見えてきた。
「ミコト!」
「あ、湊音!」
黒の長髪で巫女装束と似た服を着ている彼は御凪彌。鳴渦ノ杜の男巫女を務めている。ミコトは幼馴染みで鳴渦にはよく来ている。
「弁当とお茶、一緒に食べようぜ!」
「うん!」
二人で階段に座る。横に座ったミコトに弁当とお茶を渡す。
「うわぁ、美味しそう…!!」
「ハンバーグってまじでうまいよな。もっと早く食いたかった~」
島はあまり外とは関わってこなかった。交流を始めたのは最近のことだ。そこから、なんだっけ、マスコミ?テレビ?とかが来たんだけど、まあそれはどうでもいいとして。
「神衣、つくってんの?」
「うん、それが僕の責務だからね。」
「巫女も大変だなぁ。」
「でも、楽しいよ?」
他愛のない話を続けていると、いつの間にか陽が沈み空が暗くなっていた。
「よしっ、もう帰るわ!」
「うん、ごちそうさま。気をつけてね」
「おう」
月明かりに照らされた階段を下る。歩きながら、海をみる。波は穏やかで月が揺れている。少しひんやりとした潮風が吹き抜ける。
「ん、?」
浜辺に目が移る。人影があった。倒れている。え、倒れて
「ちょ、嘘だろ!?」
お読みいただきありがとうございます!
今日から、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスにて執筆&投稿を始めました 海月 凪 ( うみつき なぎ ) といいます。
本格的に活動するのは初めてで、誤字脱字などがあるかと思いますが、できれば優しく教えてもらえると嬉しく思います。
継続して、そして楽しんで書いていけるように頑張ります!!