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【ホラー 怪異】

山からの声

作者: 小雨川蛙
掲載日:2025/04/27

 

 昔。

 父に連れられて山に行った時の話。


「やっほーって叫んでごらん?」


 そう言われるがままに試してみると私の声がやまびことなった。

 それが楽しくて私は何度も何度も試してみた。

 父が呆れて私をそのままに少しその場を離れても、何度も何度も繰り返していた。


 そうしている内にふと私は気づく。

 途中から私が叫んでいないのに声が返ってくることに。

 そこで私は四回叫んで五回目を待っていた。

 すると。


「やっほー」


 やはり私が叫んでいないのに声が聞こえた。

 それが嬉しくなり私は叫ぶ。


「やーい。引っかかったー」


 すると少しの間をおいて。


「引っかかっちゃったー」


 と楽し気な声が返ってくる。

 私はそれが楽しくてさらに叫んだ。


「君はだれー?」


 声が返ってくる。


「教えられないー」

「どうしてー?」

「どうしてもー」


 そんなやり取りをしている内に父がやってきた。


「いつまで遊んでいるんだい?」


 私は振り返り説明をしようとした時、ふと父が山の向こうから返ってくる声に気が付いた。


「どうしたのー?」


 その声を聞いた途端、父はゾッとした様子で私の腕を掴んだ。

 いきなりの行動に驚く私に父は短く言う。


「帰ろう」

「どうして?」

「どうしてもだ」

「さようならを言わなきゃ」

「いいから!」


 そう言って父は私を連れて歩き出す。


「帰っちゃうのー?」


 声が聞こえてくる。


「寂しいなー」


 そんな寂しそうな声が不意に。


「だけど、もうやまびこに声を返しちゃだめだよー」


 どこか楽し気な声に変わった。

 それと同時に空が曇りだす。


「急ごう!」


 言うが早く父は私を車の助手席に押し込むと車を走らせる。

 いつの間にか降り出した雨は雷を呼び車を強く叩き続けた。


 ・

 ・

 ・


 あれから随分と経って私はまた山に居る。

 特に理由があったわけではない。

 何となしに大学の夏休みに山に登っただけだ。

 そして、ふと蘇った記憶の任せるまま私は山に叫んだ。


「やっほー」


 すると。


「久しぶりー」


 声が返ってくる。

 懐かしさに浮かれ、私は叫んだ。


「久しぶりー」


 叫んでしまった。


「声を返しちゃだめって言ったのにー」


 楽しげなその言葉と共に突如、入道雲よりも大きな掌が私に覆いかぶさり。




 それで、わたしは、もう、おしまい。


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