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第85話 謎の襲撃者 その3

 ロンナの死から数日が経った。元々は母親を食べさせるために働いていたシエルは気力を失い、働かなくなってしまっていた。働かなければ生きていけないのが社会という物だが、父親ケイトが残していった財産によって不便なく暮らせてしまうという現状が、彼女の堕落に拍車を掛けていた。


「明日は何を食べようかな…」


 夕食を酒場で済ましたシエルは、真っ直ぐ家に帰らずに目的もなく街を徘徊した。これも母親の死後に付いた悪い癖だった。






「用事があって会いに来てみれば…ここ数日の内に一体何があった」

「あら…ブレイズじゃない。どうしたの?観光?」


 街を徘徊していた酔いどれシエルの前にブレイズが現れた。


「カジヤンは一緒じゃないの?」

「今日は孤児村の事で進展があったから報告に来ただけだが…なんだそのだらしない姿は」

「何って…あたしもうただの一般人よ?これからは毎日だら~んって生きていくって決めたから」

「…孤児村の住民は新たな地へ移住した。クルミとセスタの協力があってな」

「そうなの~良かったじゃん」

「真面目に聞け。彼らが暮らす島はかつて村を守るために戦った男の名からクロウと名付けられた。まだ出来上がったばかりの国のために守る力のない。お前には──」

「オェェッェ!」


 突然地面に跪いたかと思いきや、シエルは食べたばかりの物を吐き出した。


「ゲホッゲホッ!…あ~気持ち悪…それで?何の話だっけ?」

「国を守るために来て欲しかったが…その様子を見たところ、連れて行っても役に立ちそうにないな。時間を使わせてしまって済まなかった。この話は忘れてくれ」


 みっともない姿のシエルに背を向けるブレイズ。今の彼女と3年前に共に旅をしたシエルが同一人物だとは思えなかった。


「帰っちゃうの?…ばいば~い」

「…レイアストが今のお前を見たらなんて言うだろうな」


「どういう意味よ」

「お前が人生を歩んでいられるのもレイアストのおかげなんだぞ…今のお前を見てると、なんでお前なんかが生き残ってあいつが死んだのかと思えてしまう」

「何よそれ!?私が死んだ方が良かったってこと!?」

「そんな事思いたくもないが…それが事実だ」


 酔っているはずのシエルは怒りに任せて走り出すと、立ち止まっていたブレイズを背中から蹴り飛ばした。


「言っていい事と悪いことがあるでしょ!あんたそれでも勇者なの!?」

「確かに俺は勇者だが、同時にあいつの弟子。同じ師を持った人間がこうも堕落しているのは見るに堪えない…」


 ブレイズは立ち上がるがやり返そうとはせず、それどころかもっと殴って来いと言わんばかりに手招きをした。


「痛いのは…心だ。今のお前はあいつの想いを無碍にしている」


 その言葉でカッとなったシエルはブレイズの顔を殴る。しかしどれだけ殴られても抵抗せず、ブレイズは話を続けた。


「戦いはまだ終わってない。セスタの背後にはツツジという黒幕がいた。きっとレイアストはそいつを倒す為にこの世界に来たんだ…あいつの仲間である俺達は、遺志を継いでやがてツツジを倒さなきゃいけない!それなのに、最期に一緒にいたお前がそれではどうするんだ!?」


 ブレイズの怒りが籠った言葉と共に衝撃波が起こり、吹っ飛ばされるシエルは街灯の柱へ身体をぶつけた。



「ついて来いシエル。決闘だ…俺が勝ったらクロウに来てもらうぞ。その腐った性根を叩き直す」

「あんたねえ…こっちは26歳よ。態度の取り方が違うでしょ」

「敬うべき大人ではないお前にはこれで充分だ。来い!」



 シエル達は街を離れた。そして決闘の場所として選んだのは、かつて勇者セスタとの死闘を繰り広げた名もなき荒野であった。


「ここに来るまでに酔いも醒めたわ…それで、私が勝ったらあんたはどうしてくれるわけ?」

「お前が勝った時の事を考えてどうする。どうせ俺には勝てないのだからな」

「言ってくれるじゃないの!」


 シエルは殴殻斬刃の等剣(シェルナイトソード)を腰から抜いた。ブレイズも刀を召喚してシエルを睨みつけた。


「…ヤアァァァ!」


 力強い雄叫びをあげてシエルは突撃。それに合わせて走り出したブレイズは、叩いて気絶させようと刃の反対側(鎬地)を正面へ向けた。


「なんて隙だらけな構えだ…」


 互いの刃が衝突し、暗い荒野に金属音が響く。シエルは剣から手を放すと、ブレイズの首を掴んでそのまま押し倒した。


「降参なさい!」

「何を掴んでいる」


 シエルが掴んでいたのはブレイズの首ではなく石だった。これこそ忍法代わり身の術。素早い動きで頭上を取ったブレイズは、刀で(うなじ)を力強く叩いた。


「うっ…やるじゃないの!」


 それでもシエルは意識を保ったまま、裏拳でブレイズを殴り飛ばした。


「くっ…!それほどの力がありながら、勿体ないな!」

「皮肉のつもり!?」

「ぐあぁ!」


 さらにブレイズの胴に1発入れたシエルは、落ちていた剣を拾いに歩いた。


「3年間…潜在呪文(ポテンシャルスペル)が目覚める事はなかった。あんた達が村を守るために戦ってる間、私は家の事で手一杯だった…いや、それを言い訳にして何もやらなかった…もうそんな自分が嫌なのよ!才能がなければ努力も出来ない!周りに秀才ばっかりいる凡人の気持ちになったことある!?本当に…最悪なんだから…」


 剣を拾ったシエルは刃を剝き出しにした等剣をブレイズに向ける。長話をしていたせいで、彼も既に立ち上がって新しい刀を召喚していた。


「ここで死にたくなかったら、もう二度と私の前に姿を見せないで」

「俺が去ったところでお前はここで堕落した生活を続けていくだけだろう…」

「堕落して悪い!?大体ねえ、3年間も飽きずにあの貧乏臭い村を守ってられんのはあんた達に才能があるからよ!」

「醜いな…」


 刀を投げ捨てると、ブレイズは見覚えのある構えを見せた。シエルもレイアストから習った必殺技、ケンソォドソーダーである。その威力は凄まじい物で、当然仲間に向けていい技ではない。


「やるつもりなのね…」

「今のお前を見ていると無性に腹が立つ…」


 シエルもケンソォドソーダーを構える。身を守るためではなく、目の前の仲間を黙らせるために。


「「ケンソォド…」」




「「ソォダアァァァァァ!!」」


 肉眼では捉える事の出来ない、不可視の切断光線がぶつかり合う。すると大地が大きく削れ、瞬く間に地形が変化していった。

 レイアストはこんな事をさせるためにケンソォドソーダーを教えたわけではないだろうに…


「このままあんたを消し飛ばす!」

「やってみろ!」


 そうして数十分にも及ぶ必殺技のぶつけ合いが続き、最終的には両者共にエネルギー切れで技を中断せざるを得なくなった。


「はぁ…はぁ…」


 息を整えていたところにブレイズが殴りかかった。


「つらいのはお前だけじゃないんだ!俺だってな…俺だってな!」



  興奮したブレイズが本音を吐き出そうとしたその時である。二人の戦いに水を差す者が現れた。




「疲弊しているな、山桐進太郎。女、よくやってくれた」

「な、何あいつ…」

「この感じ…お前、シュラ・コウベの仲間だな!」

「我が名はツツジ率いる四天王が一柱、シュラ・シュム。ツツジの命により、お前をこの世界から排除する」


 シュラ・シュムと名乗った怪物は、人間の胴体から6本の触手を生やして浮遊していた。全ての触手がブレイズを狙って勢いよく伸びる。反応が遅れたブレイズに代わって、飛び出したシエルが軌道を逸らした。


「ちょっとあんた!私達決闘やってんの!邪魔しないでくれる!?」

「決闘か。弱い人間同士の決闘など見るに堪えない。どうだ、我が相手をしてやろう」


 シエルは言葉ではなく行動で答えた。彼女はシュラ・シュムの触手を回避しながら走り抜け、敵の胴体まで接近した。


「もらった!」


 剣を振り上げようとしたその瞬間、剥き出しの乳首から細く鋭い光線が発射される。両腕に光線を喰らったシエルは剣を手放し、そのまま地面に落下した。


「馬鹿じゃないの…どっから撃ってんのよ…」

「我は決闘をしているのではない。進太郎とその味方をするお前を殺すつもりだ。真っ向から攻めてくるなど、未発達な戦い方で挑んでくるからだ」


 2本の触手がシエルを絞め殺そうと身体に巻き付く。反対側では、それを阻止しようとするブレイズが4本の触手を相手に苦戦していた。


 二人が疲弊したところへ現れたシュラ・シュム。シエル達はこの危機を乗り越える事ができるのか。

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