第84話 謎の襲撃者 その2
メアリス。それは次元を超えて数多の世界を渡り歩く存在。辿り着いた世界を不穏分子から守るのがメアリスの使命である。
かつてこの世界にいたメアリスであるレイアストは、ツツジという異分子を消滅させるためにこの世界に辿り着いたのだろう。その使命は彼女に呼ばれたアクトナイトというメアリスが引き継ぎ、今もツツジを追って行動を続けていた。
「ようやく足が付けられるな…」
アクトは以前いた島から泳いで4時間掛けて新しい島へ来ていた。勇者セスタとの戦いから3年経過したが、メアリスである彼は老いることなく、少年の姿のままだった。
「今頃みんなどうしてるかな~…シエルは26歳で…あぁ、ブレイズとフラリアはちょうど17歳か!俺16歳だし敬語使った方がいいかな…?」
そんな風に独り言を呟きながら上陸。太陽はまだ出ている。日向を歩いていればそのうち衣類も乾くだろうと、気にすることなく前へ進んだ。
大地を歩いて最初に辿り着いたのは、海に面した大きな都市だった。
「アズレアシティ…この国はコルクっていうのか」
磯臭いアクトは都市の住民から冷めた目で見られたが、気にする事なく探索した。どこかでツツジに関する情報が手に入れば。そう思いながら巡っていると、冒険者ギルドに辿り着いた。
「でっけぇ…このビル全部、この国の冒険者協会の物かよ」
「そう言ってもらえて嬉しいな。このビルを建てた甲斐があるってもんだ」
アクトは剣を抜いて振り返った。そこには冴えない中年の男が立っていたのだが、自分でもどうしてこんなやつに警戒したのか納得していなかった。
「おうおう、そう警戒しなさんな」
「…エナジーが漏れてるぞ。それで隠してるつもりか」
「その牙髪…もしかしてお前もメアリスってやつか?次元を渡り歩いて世界を守ってるっていう」
メアリスと指摘されたアクトはツツジの一件もあり、さらに警戒心を強めた。
「何者だ!」
「真面目なメアリスは自分がそうだと指摘されると警戒するっていうのは本当なんだな」
「俺の質問に答えろ!さもなくば──」
「さもなくば…?」
男が力を解放した。するとさっきまで雲一つなかった空に黒雲が生まれ、立っているのがやっとの程の暴風が吹き荒れた。
「言っておくけどねえ、今の君じゃ俺の相手にはならないよ。もちろん、万全の状態だったとしてもね」
「くっ…!」
「剣を収めろ。余計な力を使わせるんじゃないよ」
戦っても勝ち目がない。天候を操られただけで力の差を思い知らされたアクトは剣を鞘に収めた。
「どうしてメアリスの存在を知っている…」
「仲間に教えてくれたやつがいるからだ。そいつは今も強くなろうと必死こいて修行してる」
「お前は…敵じゃないのか?」
「あぁ、俺は敵じゃない。お前達の味方だ」
穏やかな表情を見てアクトの警戒が揺らいだ。その瞬間、2人を目掛けて道路標識が飛んで来た。手裏剣のように回転する標識を、男は素手で掴み取り、アクトは剣で地面に叩きつけた。
「巡り合わせとは面白い。監視対象の元にメアリスがやって来るとは」
「誰だ!姿を見せろ!」
すると路地から人間の下半身が歩いて現れた。アクトは分離する敵かと疑い辺りを見渡したが、上半身に該当する気配は感知できなかった。
「メアリスも随分有名になったもんだな…」
「お初にお目にかかる、榎本慶斗。我はシュラ・キャク。ツツジ率いる四天王が一」
「その名前で呼ばれるのは久しぶりだな」
「ツツジだと!?お前、あいつと何か関係があるのか!」
「ツツジの命によりお前達をこの世界から排除する」
そう告げた下半身は初動を晒すことなく攻撃。超高速の飛び蹴りを放ったが、ケイトは掴んで止めた。
「脚だけで俺を倒すつもりか」
ケイトはそのまま掴んだ足を握り潰すと、股間に踵落としを喰らわせて地面に叩きつけた。
「シュラ・キャクとか言ったな。お前が口にしたのは前世での名前だ。どうしてそれを知っている」
「ロンナが死んだよ。可哀想に」
「ロンナが…あいつに何をしたぁ!?」
ケイトが叫ぶと彼を中心に大きな揺れが起こった。都市の建物に耐震性がなければ、地獄と化していただろう。
「我は何もしていない。お前が第二の人生を捧げてまで治そうとしていた病に負けただけだ。人間とは貧弱だな」
「この野郎!」
ケイトはただひたすらにシュラ・キャクを殴った。
「我ら四天王の目的はお前と進太郎、二人の脅威を排除し、君達が元いた世界を壊滅することだ」
「俺達の世界だと!?」
「別にいいだろう?何の未練もないだろう?自ら身投げして君の魂はこの世界へやって来たのだから」
するとシュラ・キャクはドロドロに溶けてから気化して姿を消した。ケイトは周囲の空気を操り敵を捕えようとしたが、それは叶わなかった。
「クソ!…ロンナが…寄り道が過ぎた!」
状況が飲み込めないが、何か良くない事だけは分かる。アクトははじめに男の素性から探る事にした。
アクトとケイトは道端に座り込み、視線を集めながらも話をした。
「俺はケイト・ラングリッター…前世の記憶を持っている転生者だ」
「ラングリッター…もしかしてシエルの血縁者か?」
「俺はあいつの父親だ。お前、シエルと知り合いなのか?」
「シエルとは3年前に少しだけ一緒に旅をしていた。俺はアクトナイト。ご存知の通りメアリスだ…ロンナというのはあんたの奥さんか」
「あぁ…妻はいつ発症するか分からない時限爆弾の様な病を患っていた。俺はその治療薬となる幻の薬草を探して旅をしていたんだ…だが、薬草を探しながらもついつい人助けして道草食っちまった。やった行いが巡り巡って自分の為になる。そんな日本人くさい事を思って行動した結果がこれだ。優先順位をつけて行動しろ、なんて上司によく言われてた事を思い出したよ」
アクトが尋ねずとも、考えている事を吐き出さずにはいられない心境であるケイトは話してくれた。
「なっちまったもんは仕方ないか…あぁ…仕方ないんだ…そうだな…」
そうやって自分に言い聞かせるようにケイトは呟いた。
「………俺はこの世界に転生する際に超人的な能力を授けられた。それと同時にある使命を与えられた。それがこの世界の脅威となる悪意ある訪問者を抹殺する事だった」
「その悪意ある訪問者がツツジってわけか…」
アイクラウンドの住民として転生したケイトはロンナと出会った。ケイトは鑑定スキルでロンナ自身も気付いていなかった病を発見できたものの、それを治す能力はなかった。身体が成長したら治療薬となる薬草を探しに行こうと、常に島の外を見ていたのだ。
ある時、ケイトはアイクラウンドにいたセスタを遠目から見る事があった。彼は勇者である人間の底知れぬ憎しみと、さらにその奥深くにある邪悪なる存在を感知したのである。そしてそれこそが抹殺すべき相手だと確信したのである。
「………嘆いてる暇はないな。アクトナイト!お前もメアリスなら俺に協力してもらうぞ!」
ツツジは自分を狙っている。薬草を探す必要がなくなった今、ケイトはこの地に留まって力を高める事を決めた。そしてアクトナイトもこの都市に残り、ツツジの襲来を待つ事にした。




