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第80話 黒幕、出現

激戦の中、第二潜在呪文を開花させたブレイズは勇者セスタに勝利した。


「教えろ。ツツジとは何者だ。そいつは今も生きているのか」


ブレイズは倒れていたセスタの首元に剣を突き付けた。

ツツジ老師。

戦いの中、彼女が口にした謎の人物の名前だ。

きっとそいつが彼女をこんな人間に育て上げたんだ。




「居場所を教えたら師匠を見逃してくれますか?」


私達が消耗しきったタイミングで現れたのは、なんと昨日倒したはずのクルミだった。


「待ってください…戦う意思はありません。回復しきってないし、勝てる自信もない。それより、ツツジ老師の居場所を教えたら、師匠は見逃してもらえるんですよね」


「こいつを連れてこの国から出ていけ。そして二度と魔族に危害を加えるな」


「やめろクルミ…言ってはいけない…」


セスタは口封じをしようと魔法を向けるが、ブレイズは腕を突き刺してそれを阻止した。


「ツツジ老師は師匠の中にいます」


「ど、どういうこと?故人なの?」


「いいえ。ツツジ老師は人間じゃなければ魔族でもない、その2種族を超越した存在なんです。今は師匠の精神に寄生して、彼女の憎しみを糧に力を上げているらしく…」


「クルミ…私を裏切るのか!」


「ごめんなさい師匠。お気付きでしょうが、シエルさんと戦って負けました。その時に言われたんです。私はあなたに鍛え上げられただけの兵士に過ぎないって。確かにそうだと思いました。だけど、私があなたの力を尊敬する事に変わりありません。だから…もうやめませんか。何かを憎んで強くなるのは」


「クルミ…」








「これはもう、役に立ちそうにないな」


突然、知らない声がした。

そしてセスタの頭上に魔法陣が出現し、そこから見た事もない怪人が飛び出した。

きっと、こいつが…


「あぁ…老師!ツツジ老師!」


「あぁ…愛しい弟子…セスタ…悲しき人生を辿る悲劇の姫よ…」


「老師…こいつらをは魔族の味方をする最低最悪、悪魔のような存在です!全員殺してください!」


「セスタ…あぁセスタ…」








「二十歳を過ぎても悲劇なヒロイン気取りの最低な悪女。お前との縁もこれまでだ」


「…はい、今、なんと?」


優しさを帯びていた怪人の声色が変わった。

これまでとは正反対の言葉を聞いて、セスタは聞き直していた。


「両親を社会的に殺して、姉達は男達に売り捌いた。人間から魔王と呼ばれていただけの活動家カーナを本物の魔王と思い込んで、大勢の人間を巻き込むよう大戦争を起こした…そんだけ好き勝手やってまだ自分が不幸だと思うか?不幸なのは今までお前に巻き込まれたやつら全員だぜ」


「な、何を仰るのですか?!あなたに救われてからこれまでの人生、私はあなたから教わった事を信じて──」


「言われた通りにやりましたってか?プッ…ハハハ!とんだ脳死女だな!なんて言ったかな。魔族は皆殺しにしろ?…普通考えりゃ分かるだろ!俺が言った事は間違ってるって!あ~…馬鹿を動かすのってやっぱ楽し~!」


な、なんなのこいつ!?

セスタの師匠かと思ったら急に彼女を見捨てるような言動で、意味分かんない!


「それで…お前らがこの馬鹿を倒したやつらか…おっ!メアリスがいるじゃん!」


「てめえ!どこの世界の人間だ!名乗れ!」


「あぁ、名乗ってやろうか!俺はツツジ!お気づきの通りこの世界の住民じゃない。元いた世界を追放されてから数多くの世界で憎しみの竜巻を巻き起こした風来坊よ!」


ツツジ、こいつが倒さなければならない敵なのはまず間違いない。

だけどもう、戦う力が残ってない…!


「ここでお前らを皆殺しに…出来る自信はねえ。もう少しだな。あと数年かけて力を蓄えて、万全を期して挑んでやろう」


「ま、待て!逃げるのか!」


「逃げるぅ…?ハハハハハ!なに言ってんだ?!頭の悪い勇者でもそれに負ける雑魚魔王の仲間でもない!何年も前、そいつと出会った時点で俺の一人勝ち!くっだらな~い憎しみも、でっけ~戦争も、全部俺が仕組んだ通りなんだ!お前らは敗者ですらない、俺の駒なんだよ!」


ツツジは黒い霧を撒き散らしてその場から飛び立っていった。

もう私達にはあいつを追うどころか怒鳴る気力も残っていなかった。




「私の人生は…なんだったんだ…」


「それではこれで失礼します…見逃してくれてありがとうございます」


クルミはパニック状態のセスタを連れてこの場を離れていった。

私達は誰一人として、今のセスタにトドメを刺そうとは思わなかった。




「シエル、ブレイズ、お前達はフラリアの元へ行ってこれまでの事を伝えてやれ。お前達の顔を見ればあいつも安心するだろうし」


「伝えてやれって…あんたはどうするの?」


「俺はこのままツツジを追う。きっと俺の前任者のレイアストはあいつを倒すためにこの世界に送り込まれたんだ」


「レイアストが…?」


そういえばレイアストから聞かされた事がある。

自分がこの世界にやって来たのは勇者と魔王の戦いを終わらせる事じゃない。

魔族を強く憎むようになったセスタではなく、彼女をそこまでに仕立て上げた叩くべき黒幕がいるって…


「ツツジみたいに、悪意を持って世界に害を成す存在を倒すのも俺達メアリスの使命だからな…それじゃあ、フラリアによろしくな!」


そうしてアクトはツツジが飛んでいった方角へ走っていった。




アクトに言われたまま、私達はカジヤンのいる孤児村へと戻った。

そこで再会した彼女に、村を旅立ってからの事を話した。

魔族を憎み酷い歴史を刻んだ勇者セスタを見逃した事に対して、彼女は特に言及してこなかった。

カジヤンはこれからも孤児村でここに暮らしている子ども達を守る為に戦い続けるそうだ。

そしてブレイズもこれからは一緒に村を守っていくそうだ。


私は…どうしようかな。


なんかやること全部やりきって、目標がなくなっちゃった。

燃え尽き症候群…ってやつかな。

色々めんどくさくなっちゃった。


一旦、アイクラウンドに帰ろうかな。

そうだ、それでゆっくり休んでからどうするか考えよう。

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