第78話 勇者セスタとの戦い
1時間が経過し、とうとうアイクラウンドへ飛ぶ時が来た。
「行くぞ!」
私達が魔法陣の中に立つと、魔王カーナは呪文を唱えた。
「パシリソ・ダウンジ・バンピ──」
ただ飛ぶだけならここまでの詠唱は必要ない。
私達が飛ぶ位置を正確にするため、魔王は単語を増やしているのだ。
「レラリア!」
詠唱が完了した瞬間、私はアイクラウンドの大地に立っていた。
しかし懐かしんでいる暇はない。
私は右、ブレイズは頭上、アクトは左、そして魔王カーナは背後と、それぞれセスタの死角に飛ばされた。
そして事前に打ち合わせしていた通り、転移直後に全員が同時に攻撃を仕掛けた。
「所詮は魔族とそれを擁護する俗物か。卑怯な攻撃だ」
セスタは私達の同時攻撃を全て防御しながら語っていた。
「失敗した!全員離れろ!」
セスタがその場で回転斬りを繰り出す。
刃に魔力を纏わせていたのか、その射程距離は見た目以上の物で地面が抉れた。
もしも回避が遅れていたら、既に死んでいたかもしれない。
「多人数による死角からの奇襲。やり方が魔族らしいな、魔王カーナ」
勇者セスタは真後ろにいた魔王カーナに身体を向けた。
他にいる私達には一切関心がないみたいだ。
「…それと魔族の肩を持ちながら勇者を名乗るブレイズ。そして私から魔王へ鞍替えした恥知らずの女、シエル」
いやそんなことなかった!
めっっっちゃ睨んでる!
「お前は…」
「俺とは初対面だろ。俺の名は──」
「その牙髪。老師が言っていたメアリスだな。次元外からの干渉者。不老と使命に縛られた哀れな奴隷」
「…なぜそんなことを知っている?お前の言う老師とは何者だ!」
「ツツジ老師は私に希望をくれた」
「復讐に希望なんかない。くだらねえことなんかさっさとやめて、この国から出ていけ!」
「くだらない?…私の…私の過去がくだらないだと!?」
セスタが捉えられない動きで攻撃を仕掛け、アクトはそれを紙一重のところで防いでいた。
「なんてパワーだ!腕が折れちまう!」
「アクト!」
横から斬り付けようと私は接近した。
しかしセスタは剣を振りながら私の方を向いて睨み付けた。
すると押し潰されるような感覚に襲われて、思わず両膝が地面に付いてしまった。
「イカズュ!」
カーナのバリアが私を包んだ。
そして次の瞬間、私を中心に大地が深く沈んだ。
「大丈夫か!」
やっぱり、私じゃこの戦いについていけない!
「カーナ!例の結界を使って!このままじゃこの国ごと滅んじゃう!」
4人で戦うつもりが開始早々、私は離脱することになってしまった。
魔王カーナは初めて会った時に使っていた結界を展開。
私を除いてその場にいた全員を結界の中に封じ込めることで、周囲へのダメージを抑えた。